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Human Capital 2015 Review IBMにおける変革推進のための人財育成とリーダー開発

IBMは1990年代からビジネス・トランスフォーメーションの一環として人事変革に取り組んできた。
とりわけ注力してきたのが、人財育成やリーダー開発などのタレントマネジメントである。
最近では人事ビッグデータを活用し、組織の現状や施策の効果などを可視化し、次の施策に役立てている。
7月に開催された「ヒューマンキャピタル2015」で
日本IBMの野川真木子氏が、IBMの人事変革の道のりと現在を語った。

1990年代から続く事業変革
その一環としての人事・組織変革

日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業本部人事担当 野川真木子 氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
執行役員
グローバル・ビジネス・サービス事業本部人事担当
野川真木子 氏

 1990年代前半から、IBMは事業の抜本的な変革に取り組んできた。人事や組織についても同様だ。
 組織変革のキーワードは「GIE(Globally Integrated Enterprise)」。世界中の組織を一体的に運営するという考え方のもと、かつての縦割り組織や各国に分散した情報システムの世界規模での統合に長い時間をかけて取り組んできた。日本IBM 執行役員 グローバル・ビジネス・サービス事業本部人事担当の野川真木子氏は次のように説明する。
「たとえば、日本IBM社員の給与実務の機能の一部をフィリピンの拠点が担っています。一方、日本の人事部門は法改正など日本固有の状況を踏まえた人事給与のスキームづくりなどを行います。これはほんの一例にすぎませんが、それぞれの機能について、世界で最もふさわしい拠点に機能の集約を進めてきました」。
 IBMの人事変革の歩みを示したのが図1である。変革には大きく3つの側面がある。グローバル・タレントマネジメントおよび組織風土改革、そして人事部門にフォーカスした組織機能変革である。
 たとえば、社員のスキル定義、スキルと人財の可視化のためのキャリアフレームの整備、グローバルで統一された等級・報酬ポリシーの導入などはグローバル・タレントマネジメントの一部。学習ツールのオンライン提供や社内SNSの導入・強化などは、組織風土改革の中に位置づけられる。先に野川氏が触れた人事オペレーション業務の集約は、人事部門の組織機能変革の一例だ。
 人事関連だけでも変革の実績はいくつもあり、同社は20年に及ぶ変革の道のりをたどってきた。

(図1)IBMにおける人事変革の変遷

「リーダーがリーダーを育てる」
その活動を支援するのが人事の役目

 図2のとおり、IBMにおけるタレントマネジメントには5つの要素がある。
 第1に「自社にとって最適な人財を惹きつける」。つまり、適切な職務に適切な候補者を採用するということだ。第2に「組織の声を聴き、リーダーを活かす」。リーダーシップアセスメントやエンゲージメント調査によってリーダー育成や社内エンゲージメントの現状を定量化し、リーダーがチーム運営する上で適切な施策を展開できるようサポートする。
第3にソーシャルツールやラーニングシステムなどの提供により、「社員と情報をつなぎ、能力を最大限に発揮させる」。第4に「効果的に社員に投資する」。社員の実績に応じた報酬や投資の最適化により、優秀な人財の育成と成長を促すということだ。そして、第5に「ビッグデータを意思決定やアクションに活かす」である。
 人事に関する戦略や制度、方針はグローバルで統一され、次世代リーダーの候補者はグローバルで管理されるため、国境を超えてスムーズな人事異動とリーダー育成が実現できる。
「IBMには“Leaders Develop Leaders”という原則があり、部下の採用、育成、配置、評価、コーチングなどはすべてその上司の権限で行われます。また、次世代リーダーシップ人財へのノミネーションとそのためのアセスメント、次世代リーダー人財に選ばれた社員のプロフィール作成も上司が行います。それをサポートするのが人事部門の役割です」と野川氏は話す。
 アセスメントを行うのは、あくまでも部門長などの上司だ。人事部門はアドバイザリー役となる。たとえば、事業の成長性などを勘案した場合、リーダーシップ人財の構成比率は妥当な水準か、あるいは女性比率などダイバーシティの観点は考慮されているかといったポイントを指摘し、次世代リーダーの育成を支えている。
「次世代リーダー候補は毎年特定されますが、入れ替えも起こります。ある年に次世代リーダーに決まったからといって翌年もそうなるとは限りません。次世代リーダーの特定後には、年に1度、国別と事業別という2つの軸で配置や育成などの計画に対するレビューを行います。また、同じく2軸で主要ポジションへの登用可能性の議論、事業部を超えた次世代リーダーの情報共有などを月次で行っています」(野川氏)

 また、定期的に行われる議論の中で、組織の“ヘルスチェック”も行われる。組織図には、配置転換を検討したいポジション、配置転換が予定されているポジション、女性リーダーが配置されているかなどがレビューされる。
「こうした組織図を見ながら、現職者の特性やリーダーシップチームのダイバーシティの実現度合いなどを議論しています」と野川氏。人財育成のオーナーシップを握る部門長たちが自部門の人財について真剣に語る場として、リーダー人財育成の重要な役割を担っている。

(図2)IBMにおけるタレントマネジメント全体像

人事ビッグデータを用いて課題を特定し
改善策を練る

 IBMは近年、人事ビッグデータの活用にも注力している。「人事部門の業務において、人事データを分析・活用する場面が増えています」と野川氏は言う。アナリティクスが活用されている領域は幅広い。
 たとえば、人財需要予測。ある事業で半年後、1年後にどのようなスキルを持つ人財が何人必要になるかを予測し、採用活動などの施策につなげる。また、ビジネス機会やプロジェクトに対して最適な人財を配置するための人財マッチング、ハイパフォーマーの離職やそれに伴う生産性低下を防ぐワークフォース分析などが行われている。
 また、「エンゲージメント・サーベイ」と呼ばれる社員意識調査の結果を可視化し、社員のエンゲージメント向上策の検討に役立てている。
「この調査は社員のエンゲージメントと社員に求められる行動規範の実践度を評価するもの。部下を持つマネージャー全員がこのレポートを受け取り、エンゲージメント向上に向けた施策に活用されます」(野川氏)
 こうしたアンケート調査やビッグデータ分析などにより、IBMは組織の活性度や社員の意識などを多角的に分析、可視化している。
「人事部門がデータを駆使して、現状あるいは成果を可視化することで、ビジネスリーダーに対して納得性、透明性のある説明ができます。それはリーダーとのパートナーシップ強化につながります。こうした取り組みを積み重ねることで、私たちは人事実務のスペシャリストから経営陣のビジネスパートナーへの成長を目指しています」と野川氏は話す。
 今後もアナリティクスについての知見を深めながら、IBMは人事分野におけるデータ活用についてさらに検討していく。また「人事データとビジネスリーダーや社員からの声を有機的に結合させ、組織にとってより有効な施策の展開につなげていきたい」と締めくくった。

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