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「減らす」業務を可視化し全員で無駄取り、そのうえでICT利用を

【インタビュー】
可視経営協会 理事 田代敏也氏
業務を可視化し全員で無駄取り、そのうえでICT利用を

無駄を減らし、コストを下げる。利益を上げるために必須の活動です。そのためには業務を見直し、無駄のない仕事のやり方にしたうえでICTを利用することが望まれます。業務の「可視化」に取り組む可視経営協会の田代敏也理事に、無駄取りとICT利用の勘所を尋ねました。

田代 敏也 氏
可視経営協会 理事

ホワイトカラー業務(管理間接部門の業務)を把握・分析・カイゼンし、意思決定のスピードを速める「可視経営」の研究、手法の普及、推進者間の情報交換に取り組む。可視経営の手法である「HIT」を開発したシステム科学の取締役としてコンサルティング事業部を担当。全日本能率連盟認定マスターマネジメントコンサルタント。
1966年静岡県生まれ。東京農工大学工学部応用物理学科卒業後、日本アイ・ビー・エムを経て、システム科学へ入社。トヨタ生産方式のコンサルティングを経て、HIT手法の開発とコンサルティングに従事。近著に『課長塾 カイゼン課 田代敏也の時間とお金を取り戻す仕事のムダ取り』がある。

「無駄などない」と言う組織にこそ無駄がある

―様々な規模、様々な業種の企業や団体から、田代さんは相談を受け、無駄取りを支援してきました。どのような傾向がありますか。

 言うまでもないことですが、どんな企業、団体にも無駄はあります。「うちには無駄などない」と仰るところに限って、かなりの無駄があったりします。無駄をかなり取ったと安心した瞬間、次の無駄が出てきますから、無駄取りは永遠の活動と言えます。

 企業や団体の規模が大きくなれば無駄の量は増えますが、中堅中小企業の無駄が少ないかと言えばそうでもありません。大企業にはざっと1万の業務があります。中堅・中小企業であっても5000~6000業務あります。大企業が余分に抱えている業務は大きな組織を管理する業務です。

 管理のための業務を除く、設計、開発、生産、営業、人事、経理といった基本業務を見てみますと、大企業でも中堅中小企業でも5000~6000業務とそれほど変わりません。ここで言っている数字は、業務の流れを図示して無駄を取る手法「HIT」を使って洗い出した業務についてのものです。

 業務別に見ますと、いわゆる本社部門、ホワイトカラーの業務に無駄が沢山あります。工場など生産部門に比べ、本社部門の無駄取りが遅れているとよく指摘される通りです。それから意外かもしれませんが、R&D、すなわち研究や開発、設計や技術を担う部門にも相当な無駄があります。

 R&D部門の方や経営者に無駄取りと言うと「R&Dはクリエイティブな仕事をするところだから、工場のように生産性を上げればよいというものでもない」と仰る方がおられます。ですが可視経営の実践を支援してきた経験から申し上げると、R&D部門の仕事時間のざっと半分は本来のR&Dに関係ないことに費やされています。管理という名前の雑用だったり、内容に重複がある社内レビューを繰り返していたり。

 こうしたR&D部門の無駄を取れば、新しい製品を造り出す本来の仕事にもっと時間をかけられ、競争力のある製品を出せるようになるはずです。つまり、無駄取りはクリエイティブな仕事と対立するものではなく、競争力を高めて売り上げと利益を増やす取り組みなのです。一方、生産や資材調達の無駄を取れば、リードタイムを短くでき、顧客の要望に素早く応えられますから、これも利益増に直結します。

―日本の企業で最も数が多いのは中堅・中小企業です。例えば、社員数が500人から1000人くらいの企業で情報システムを担当している人にどう助言しますか。

 無駄取りの基本は無駄な仕事を見つけたら止めてしまうことです。もう一つは「発生時点処理」です。情報や課題が発生したところで処理してしまう。分かりやすい例ですと、会議をしているときに議事録を書き、その場で確認する。あるいはお客様から注文を受けたその時に受注伝票の入力指示をする。モバイル機器や通信ネットワークが発達しましたから、情報の発生時点処理はやりやすくなっています。

 ただし、情報システムを設計したり調達する前に、業務設計をしなければなりません。現状の業務の流れを可視化して無駄を見つけ、業務の流れを改善します。簡潔になった新しい業務を処理する情報システムもまた簡潔になります。

全員で無駄取りをすればコミュニケーションが良くなる

―情報システム担当者が業務設計をするわけですか。

 本来なら、その業務を担う人が自分で設計すべきです。全社の業務を見直すのでしたら、全社員で取り組むことをお勧めします。社員800人のある製造業は可視経営の手法であるHITを学び、各自が担当している業務を図示し、無駄取りに取り組みました。800人が一度に取り組むのは無理なので、200数十人ごとに半年間ずつ取り組み、1年半をかけて全員が可視化と無駄取りを体験しました。

「できれば全社員で業務設計に取り組むべきです」(田代氏)

 それ以降も取り組みを続け、3年半続けた結果、全社の作業時間を取り組み前の6割に減らせました。各業務の無駄を減らすことができただけではなく、情報システムの業務分析と要件定義にかける時間を従来の半年から2週間程度に短縮できました。各業務部門も、情報システム部門も、同じ手法を使って現状調査や分析を進めるので、コミュニケーションが格段に良くなったからです。

 この製造業は経営トップが音頭をとって無駄取りを進めました。情報システム担当者が「全社で業務を見直そう」と経営トップに進言してもよいわけです。中堅・中小企業、特にオーナー経営者がいる企業はトップダウンで物事を進められます。

 全社で取り組むのが難しいなら、まず情報システム部門がHITのような手法を身に付け、取り組んでみるとよいでしょう。ある業務部門の情報システムを見直す場合、その業務部門のキーパーソンに集まってもらい、情報システム部門の担当者がヒアリングをして業務を図示していきます。図を見たキーパーソンたちは「こうしよう」「ここを直そう」と言ってくれるので、業務分析と要件定義がぐっとやりやすくなります。

無駄取りとは現場力の底上げである

―情報システムの開発で一番厄介な業務分析と要件定義をうまくこなせれば、そこから先は比較的楽に進められます。

 もちろん大事なのはシステムを作ることではなく、業務の無駄を取ることです。情報システムを無事開発できたとして、次の課題は実際にきちんと使いこなすこと。業務を見直し、情報を発生時点で入力するようにしたとしても、現場がその通りに情報を入力してくれなければ業務がかえって滞ります。

 業務を可視化し、各部門の担当者が業務の流れを見て、「ここで入力しておくと後の工程が楽になるのだな」と納得していれば、新しい業務をきちんとこなしていけます。無駄取りを全社で進めたり、業務部門のキーパーソンに集まって議論してもらうことを勧めているのは、現場の各部門の意思疎通を図れるからです。そうすれば無駄取りも、新しい情報システムの利用も、うまくいきます。

―無駄取りを徹底すると現場の風通しが良くなるわけですね。

 中堅・中小企業は大企業に比べ、機動力が本来あります。ところが先にお話したように、5000~6000もの業務がありますから、次第に社内が縦割りになって風通しが悪くなっていく。可視化による無駄取りを続けていくと、現場の雰囲気が良くなっていきます。かつて日本企業の強みと言われた生産現場の小集団活動が全社に広がった姿を想像いただければと思います。

 つまり無駄取りとはコストダウンにとどまらない、現場力の底上げなのです。全員がいきいき仕事に取り組み、力を出している企業や団体はなんといっても強いです。

 企業が利益を出すために、売る、減らす、守るといった活動が必要ですが、守るためにも全員の力とやる気を引き上げなければなりません。たとえ一人でもルールを破れば、企業に損失を与えます。といって全員を監視しようとすると、それこそ無駄な仕事が増えてしまいます。

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