日経ビジネスONLINE Special 週刊日経ビジネスオンライン SPECIAL日経ビジネスオンライン

利益を出すICTと金食い虫のICT、その差はどこから来るか

【解説記事】
利益を出すICTと金食い虫のICT、その差はどこから来るか

ICT(情報通信技術)は経営に役立つ、利益に貢献する、と喧伝されて久しい。ところが現実を見ると、ICTが金食い虫になり、経営の足を引っ張ることがある。成功と失敗を分けるのは、ICT利用の目的を明確にしているかどうかである。そこで、ICTを使う目的と具体策を、利益を出すために不可欠な取り組みにそって解説する。

谷島 宣之(やじま・のぶゆき)
日経BPビジョナリー経営研究所 上席研究員 兼 日経BPイノベーションICT研究所 上席研究員

1985年から日経コンピュータ誌の記者。日経ウォッチャーIBM版記者、日経ビズテック編集委員を経て、2007年から日経ビジネスオンライン、日経コンピュータ、ITproの編集委員。2009年1月から日経コンピュータ編集長。2013年1月から現職。一貫して経営や事業とITなどの技術の融合に関心を持つ。著書に『ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国』がある。プロジェクトマネジメント学会員、ドラッカー学会員。

 コンピューターと通信ネットワークを組み合わせたICT(情報通信技術)の特徴は、どのような目的に対しても利用できることだ。コンピュータに指示を与えるソフトウエアを入れ替えれば、様々な応用が可能になる。これに対し、ほかの技術は目的が決まっているものが多い。工作機械は工作のために使われ、トラックは人や物を移動させるために使われる。

 何にでも使えるというICTの特徴は、何にも使えないという欠点になりかねない。「ここにこう使う」といった利用者の意思がはっきりしていないと、ICTを導入しても効果を出せず、宝の持ち腐れあるいは金食い虫になってしまう。利用者の意思はほかの技術を使う際にも必要だが、工作機械やトラックを利用する際、目的が曖昧になることはない。

 ICTについて経営者や事業部門の責任者が「よく分からない」と本音を語ることがある。ICTの専門用語が難解だとしばしば指摘されるが、それよりも大きい理由がある。どんなICTを事業のどこに使うといかなる効果が期待できるか、目的と具体策が「よく分からない」ので、工作機械やトラックを購入するようには意思決定ができないのである。

 本解説記事では、企業経営の三箇条というべき取り組みについて、ICTが役立つ点を説明していく。事業において期待される効果と、その効果をもたらすICTの例を頭に入れておけば、経営者はICTに関する意思決定を下しやすくなる。ICT利用を推進する立場にある情報システム部門にとっては、経営者にICT案件を説明する際のヒントになろう。今回は「守る」について解説する。

情報に注目して企業を守る

 言うまでもないが、企業経営の基本は製品やサービスを「売る」ことと、無駄を「減らす」ことである。売り上げを伸ばし、コストを減らせば利益が出る。もう一つ、「守る」取り組みも欠かせない。守るとは、「売る」と「減らす」の諸活動ができなくなる不測の事態を避けることだ。

 企業を守る取り組みは多岐にわたる。製品やサービスの品質を担保したり、工場や店舗、事業所の安全を維持したり、環境問題に配慮したりする。各種の法律や規制を守らなければならない。上場企業の場合、敵対的買収を受けにくいようにしておくことも必要だ。

 以下では「守る」のなかで「情報に注目して対処」する取り組みを3点検討してみよう。図に示した「現場を監視する」「仕事を続ける」「知的財産を保護」である。

 安全を守るために、企業や団体が監視すべき現場は、工場、店舗、事業所、工事現場、道路、空港や駅など沢山ある。納入した製品が使われる顧客側の事業拠点を監視する場合もある。通常は人間が巡回して監視しているが、拠点が増えたり、監視先が顧客事業所の中にあったりすると簡単ではない。

 ここにICTを利用できる。現場にカメラやセンサーを設置して、現場の様子を撮影したり、機器の稼働状態を示すデータを収集したりする。動画やデータを現場から離れた場所にある監視センターに送れば、センターから各地の現場を集中監視できる。通信ネットワークが高速かつ大容量になり、こうした利用が可能になってきた。

企業の「守る」のなかで情報に注目した対処

事業継続のために必要な情報とは

 二つめの「守る」取り組みである「仕事を続ける」は、いわゆる「事業継続マネジメント(BCM)」を指す。本社や事業所が災害や事故に遭遇しても、ビジネスを続行できる体制を用意しておかなければならない。非常時に別の工場で肩代わりをして生産する、別な事業所に出社して仕事を続ける、といったやり方がある。

 情報システムへの備えは欠かせない。工場の操業を続けられても、生産管理システムや在庫管理システムを動かせなければ製品を出荷できないし、材料も手配できない。ただ、情報システムはソフトウエアとデータさえあれば、動かせる。本社や事業所から離れた場所に、代替のコンピューターセンター(バックアップセンターと呼ぶ)を用意しておき、いざというときにソフトとデータを使って動かせばよい。

 非常時のためだけにセンターを用意するのは負担になるため、ICTサービス会社が提供するバックアップサービスを利用する手もある。また、災害で通信ネットワークが切れてしまうこともあるので、それについても代替手段を検討しておく必要がある。

 バックアップセンターとともに、代替事業所にパソコンを用意するなど、社員が情報システムを操作できる環境も整えておく。社員にノートパソコンなど持ち歩ける機器を持たせ、どこにいても情報システムを利用できるようにしておいてもよい。広域に影響を与える災害が起きた場合、交通機関が動かなくなる危険もあるからだ。

何を守るか、それを決めるのは経営者

 情報に注目して企業を守る取り組みの3番目は「知的財産を保護」することである。製品の設計図、顧客との契約書や顧客名簿、研究開発関連の文書などは当然ながら厳重に管理しなければならないが、こうした文書の多くは情報システムに入っており、情報セキュリティ対策も不可欠になる。

 情報セキュリティ対策で最初にすべきは、その企業や団体の基本方針(セキュリティポリシー)を掲げることである。ポリシーを策定する際には経営者の参画を求め、経営から見て守るべき情報は何か、どこまで、どのように守るのか、といった点について議論し、合意をとりつけておく。

 ICTを使えば使うほど、企業や団体は効果を出せる半面、情報が流出するリスクが高まる。といって情報管理を徹底し過ぎると利便性が失われ、事業継続についても問題が生じる。例えば、情報セキュリティ対策の一環として社員がノートパソコンを持ち歩くことを禁じると、前述の事業継続策はとれなくなる。

 実は、置き忘れたり盗まれたノートパソコンのデータを遠隔操作で消去できる技術が既にある。しかし、この技術があるからパソコンを持ち出そう、と考えるのは順番がおかしい。社員の生産性向上と事業継続、情報セキュリティをまとめて検討し、「生産性を重視し、ノートパソコンの持ち出しを認める」という判断があったうえで、データ消去の仕組みを検討すべきである。この判断は経営判断であって、ICT担当者の判断ではない。

 冒頭で述べた通り、コンピューターと通信ネットワークを組み合わせたICTはソフトウエアを駆使することで、「どのような目的に対しても利用できる」。情報セキュリティに限らず、自社のビジネスの何を、どの程度、どのようにして守るのか、経営者や事業部門の責任者は改めて検討し、「こんなことができないか」と情報システム担当者に問いかけてはどうだろう。

解決ソリューションはこちら

▲トップページへもどる