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経営課題解決シンポジウムReview_グローバル競争に勝ち抜く、IoT_製造業編 【基調&特別講演】

基調講演
100万台を超える複合機からIoTを活用し機器情報を取得
IoTのデータを使いこなし商品の競争力を向上

キヤノン
映像事務器ドキュメントソリューション事業部
シニアプロジェクトマネージャー
西本 広司 氏

 100万台を超える世界各地の複合機がリアルタイムに機器情報を送信――。これはキヤノンが自社の複合機のメンテナンスサービスのために構築したIoT(Internet of Things; モノのインターネット)ソリューションである。基調講演に登壇したキヤノンの西本広司氏は「このシステムは当社のビジネスにおいてなくてはならない大事なインフラ」と位置付ける。

 このシステムにより、世界中のキヤノンの複合機からインターネットを介し機器情報をクラウドサービスに送信、クラウドサービスで分析加工し、その加工された情報に基づいて顧客に快適なメンテナンスサービスを提供する。

 リモート監視による予兆メンテナンス、消耗品の自動配送、メーター情報のリモート収集、ファームウエアの自動更新などを実現している。例えば複合機のインクに相当するトナーの残りが少なくなった場合には、複合機がその情報をクラウドサービスへ送信する。販売会社や販売店はこの情報に基づきトナーを顧客に発送している。顧客はトナー不足によるコピーや印刷が出来ない状況がなくなり、トナーの在庫管理などの業務から解放される。

 同社が2004年にIoTのコンセプトをいち早く実現した背景には「従来のサービススタイルを革新させ、自社のサービスコストの劇的な削減を図るとともに、お客様に新たな利便性・快適性を提供する」(西本氏)という狙いがあった。

 システム導入前は、メンテナンスサービスの料金の基本となるメーター情報(コピー・印刷した枚数)を、サービスマンが毎月、顧客のオフィスに訪問し検針していた。しかし、現在では検針のための訪問は不要となっている。検針のための訪問が無くなることは、キヤノンのメリットだけではなく、顧客にもメリットがあるという。

 「我々のメーターは、電力会社やガス会社のように屋外にあるわけではなく、お客様のオフィス内の複合機の中にある。以前は、お客様が外部者に社内へ立ち入られるという問題があったが、これが解消されることになる。実際、複合機の入札商談においてもこの『リモート検針』が要件になっているケースが多い」(西本氏)。

 IoTの賜物と言えるメリットはこれにとどまらない。故障対応でも大きく利便性が向上することになる。従来は顧客からの電話で故障対応のために訪問し、原因が特定できたとしても修理に必要な部品が手元になかった場合は、部品を取りに帰るようなケースも少なくなかった。

 しかし、システム導入後は故障の電話をもらった際に、当該機器の状態や故障に関連しそうな部品の消耗度がIoTにより常に把握できているため、必要な部品を持っての修理訪問ができるようになった。

 さらに進んでいるのが予兆メンテナンスである。IoTを通じて機器を常にリモート監視できているため、故障の前兆を捉える事が可能となり、把握した時点で消耗部品を交換する事で故障自体を未然に防げるようになった。これらIoTを活用したサービススタイルの変革により、顧客が複合機を使えない時間が圧倒的に少なくなったため顧客側のメリットは大きい。

 また、一日数千万を超えるIoTによって収集したデータの活用は多岐にわたっている。IoT以外のデータと組み合わせビッグデータ分析を行う事により、製品の改修、次期製品の開発のみでなく、新たなサービスの創出に向けて検討が続けられている。

 キヤノンの複合機のメンテナンスサービス・システムは、まさにIoTを具現化したものと言える。

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特別講演
IoTは顧客接点を作る大きな武器
市場規模は2018年に21兆円に成長

IDC Japan
コミュニケーションズ リサーチアナリスト
鳥巣 悠太 氏

 シンポジウムを締めくくる特別講演には、IDC Japanの鳥巣悠太氏が登壇。製造業にとって、IoT(モノのインターネット)にはどのようなインパクトがあり、どう対応すべきかを解説した。

 様々な流通チャネルを経由して自社製品を顧客に届ける製造業の場合、エンドユーザーとの接点を作りにくいのが実情だ。鳥巣氏は、「IoTは企業とエンドユーザーをつなぐ大きな武器になります」と指摘。こうした動きは製造業にとどまらないので、今後は業種を超えたボーダーレスな連携や競争が加速していくと予測する。

 ただし、現時点でIoTの定義がさまざまで、「捉えどころがないのが現実です」と語る。実際、調査主体によって国内のIoT市場規模の算出額には大きな幅があるが、これは調査主体によってIoTの定義が異なるためである。

 IDCでは、IoT市場を(1)インターネットと接続されるデバイスである「モノ」、(2)通信モジュールや通信インフラで構成される「通信」、(3)モノ、通信、ソフトウエアを一元的に管理運用するための基盤である「プラットフォーム」、(4)データ分析のためのデータベースや分析ツールなどが含まれる「分析」、(5)各業種の企業がさまざまな施策を実現するためのソフトウエアで構成される「垂直産業」――という5つのレイヤーの集合体と定義。現在の国内IoT市場は11兆円であることを示した。

 鳥巣氏は、「全てのレイヤーにおいて、IoTを提供する事業者が増加し、利用者のコストが下がり、関連技術の多様化や周辺環境の整備が進むことが、市場の成長促進要因となっています」と解説。2018年には、市場規模が21兆円に達する見込みだという。

 ただし、既にIoTを利用しているという企業は多くはない。IDCが2014年6~7月に実施した調査では、IoTを「利用している」と回答した企業は4%にとどまる(調査対象は首都圏にある従業員100人以上の2300社)。利用方法では「社内業務プロセスの効率化」や「業務コストや人件費の合理化」といった社内利用と、「顧客満足度の向上」や「顧客サービスの価値向上」といった社外利用が均衡している状況である。

 鳥巣氏は、「今後は全産業で社外利用が増加してくる」との見通しを示した。社外利用が拡大する背景として、企業は自社の社内資産だけでなく、顧客向けの製品やサービスまでをもIoTとしてつなげることで、エンドユーザーとのつながりを深めることが産業間のボーダーレスな競争を勝ち抜く上で不可欠になるためと指摘した。

 最後に、鳥巣氏は聴講者に向けて、「IoTのクラウドプラットフォームなどを活用することにより、利用企業のコスト障壁や技術障壁は劇的に下がっています。まずは触ってみないと何も始まりません。スモールスタートも可能なので、他社の成功事例を待つのではなく自らが主体となって活用していくことが重要です」と提言した。

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