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経営課題解決シンポジウムReview_グローバル競争に勝ち抜く、IoT_製造業編 【シーメンスPLMソフトウェア】

ドイツが推進する「Industrie 4.0」
IoTが第4次産業革命の原動力に

ドイツが国を挙げて、次世代製造業プロジェクト「Industrie 4.0」を推進中だ。これは、仮想空間上に再現した製造現場をリアルタイムに分析し、自律的に制御することを目指した技術戦略である。シーメンスPLMソフトウェアの山本広則氏が、Industrie 4.0の詳細を解説した。

製造業の新潮流目指す「Industrie 4.0」

シーメンスPLMソフトウェア
技術本部 ビジネス開発部 部長
山本 広則 氏

 「米国で『製造業ルネサンス』が唱えられているのをはじめとして、リーマンショック以降、先進国の間で改めてモノづくりに力を入れる風潮になっている」。シーメンスPLMソフトウェアの山本氏は開口一番、グローバルな大手製造業者が変革に積極的になっている背景を、このように解説した。

 なかでも大きな注目を集めているのが、ドイツ政府が推進している「Industrie 4.0」というプロジェクトだ。このプロジェクトは、IoT(モノのインターネット)やFA(ファクトリー・オートメーション)の技術を駆使して、製造現場の内外のモノやサービスを連携させることによって、今までにない価値を生み出したり、新しいビジネスモデルを創出したりすることを狙った技術戦略である。2030年での実現を目指して、産官学が一体となって様々な取り組みを推進中だ。

 ドイツ政府は、18世紀終わりの第1次産業革命、19世紀終わりの第2次産業革命、1970年代の第3次産業革命に次ぐ大変革を牽引することを狙ってプロジェクト名に「4.0」と名付けている。

ドイツ政府は「Industrie 4.0」を第4次産業革命と位置づける
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 山本氏は、現在の製造業が競争力を強化するためには、(1)効率の向上、(2)市場投入までの時間短縮、(3)柔軟性の向上--の3つが必要だと指摘。製造業は古くから積極的にIT(情報技術)を導入し、これらに取り組んできたが、そろそろ限界に近づいているという。「これまでのIT化やFA化では、最終的には人間が全体を見渡して意思決定を下し、現場に指示を出してきました。現状よりも飛躍的な効率化を求めるのであれば、この部分の自動化、つまりシステムが自律的に現場全体を最適化するような仕組みが必要になります」(山本氏)。この実現を目指しているのが、Industrie 4.0である。

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製造現場を仮想空間に再現し、自律的に制御

 Industrie 4.0のビジョンは、(1)製造される製品は製造要件に必要な全データを所有する、(2)ネットワーク接続された製造機器が全バリューチェーンを考慮し自律最適化する、(3)製造シーケンスは状況に応じて柔軟に決定される、(4)現場の担当者は創造的なプランナー、スーパーバイザー、意思決定者として付加価値の高い仕事に移る--の4つである。

 山本氏は、Industrie 4.0の骨子は「サイバー・フィジカル・システム」であると説明する。サイバー・フィジカル・システムとは、様々なモノが発信するデータを収集することによって、製造現場の物理的な状況を全て、コンピューターの仮想空間上に再現する仕組みである。このシステムの上で、製造現場から発信されるビッグデータをリアルタイムで分析し、その時々で現場に必要な指示を出すのである。

 Industrie 4.0を一通り説明するため、山本氏は次世代工場の様子を現したビデオを投影。ラインを流れる部品の一つひとつにICチップが装着され、その部品がどのような状況であるかが記録されている。ラインに取り付けられたレシーバーが、この情報を読み取り、中央のコンピューターへ送信。コンピューターが、全ての部品の状況を管理し、リアルタイムにラインの動きを制御していく。手作業が必要な部分には人間が配置されているが、目の前のディスプレー上に指示が映されるので、どんなに複雑な作業でもミスが起こる可能性は少ない。

 このシステムは、ERP(統合基幹業務システム)やMES(製造実行システム)とも連携しており、製造計画に変更があれば、それに合わせてリアルタイムでラインの流れを変えることも可能だという。

 ただし、既存の製造現場が一足飛びに、こうしたシステムに生まれ変われるわけではない。工場内のFA機器やITシステムを一気に入れ換えるのは現実的ではないからだ。

 そこで、独シーメンス社ではIndustrie 4.0にたどり着くためのビジョンを打ち出している。具体的には、(1)既存の機器・装置や製造システム、在庫・調達システムをネットワークで結ぶ「生産のネットワーク化」、(2)設計・生産準備のバーチャルな世界と製造現場の物理的な状況を一体化させる「バーチャルとリアルの融合」、(3)機器や製造物から発信されるビッグデータ情報をリアルタイムで分析し、製造現場を自律的に制御する「サイバー・フィジカル・システム」の導入--という3要素でIndustrie 4.0を実現することを提唱している。

Industrie 4.0の実現に向けたシーメンスのビジョン
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大手自動車メーカーがIndustrie 4.0に着手

 実際、欧州ではシーメンスの支援の下で、Industrie 4.0の実現に向けて動き出している製造業もある。大手自動車メーカーである独ダイムラーは、シーメンスPLMソフトウェアの3次元設計・解析ソリューション「NX」を20以上の開発センターと主要なサプライヤーに導入。初期設計コンセプトからシミュレーションまでを通じて、実現可能性の検証をデジタルデータとして共有している。

 独フォルクス・ワーゲンでは、シーメンスPLMソフトウェアのモーション・コントロール・システム「SIMOTION」とPLM(製品ライフサイクル・マネジメント)システムを稼働から17年経過したプレスラインに適用したことで、旧式のプレスラインが生き返りパフォーマンスが大きく向上したとともに、エネルギーを最大40%削減できたという。

 独BMWは、シーメンスと長期間のパートナーシップを締結。中国の工場で「TIA(完全統合オートメーション)ポータル」やPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)設計ツール「STEP7」などをターンキーで導入することによって、99%以上という高稼働率の下、1本の生産ラインで全車種を製造可能になった。そして今後ラインの拡張も柔軟になると予想している。

 ただし、Industrie 4.0の実現には、テクノロジー面での課題が山積している。Industrie 4.0は様々なFA機器やITシステムが連携するため、通信手順の標準化が必要になる。さらに、リアルタイムで膨大なデータをやり取りするために、現状よりも強固な通信インフラも必要だ。「どのような状況でも、絶対に切れることのない無線通信がインフラの基礎となる」(山本氏)という。

 こうした通信環境を実現した上で、堅牢なセキュリティー環境を構築することも求められる。Industrie 4.0でやり取りされる製造現場の生データは、製造業にとっては絶対に外部に漏らすことができない機密情報でもあるからだ。

 これらの課題は一朝一夕に実現できるものではない。FAやITに関わるベンダーが一致協力して環境整備を進めていくことが求められる。そしてSiemensはすべてのレイヤーでのソフトウエア、ハードウエアをすでに所有しているので、実現にもっとも近いところにいるといえる。「Industrie 4.0の実現に向けた課題は、10年か年で解決される見込み」(山本氏)だという。

 山本氏は、製造業界やIT・FA業界のキーパーソンである聴講者に対して、「Industrie 4.0は欧州のベンダー以外にも門戸が開かれています。現在は、興味をお持ちの企業や関連するベンダーの方々に対して『一緒に取り組んでいきませんか』とお誘いしています」と、呼びかけて講演を締めくくった。

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