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「Move」を合言葉に変革をスピードアップ

これまで日本薬学会創薬科学賞を4回受賞するなど、田辺三菱製薬は創薬に強い医薬品メーカーとして知られている。2014年6月、社長に就任した三津家正之氏は、矢継ぎ早に改革案を打ち出し、世界各国の市場ニーズに沿った新薬をよりスピーディーに開発する体制づくりを進めている。そのため、「Move」という合言葉の下、従業員一人ひとりの意識改革と行動を求めている。三津家社長に改革の内容と現状について聞いた。

「独自の価値を一番乗りでお届けする スピード感のある創薬企業」をめざして

――世界における新薬開発の競争が激化する中、田辺三菱製薬は関節リウマチやクローン病の治療薬など、世界レベルの大型治療薬が好調ですね。

関節リウマチやクローン病の治療薬は、日本初の抗TNFαモノクローナル抗体製剤として発売以後10年以上経ちますが、順調に数量を伸ばしています。それだけでなく、筋萎縮性側索硬化症、特殊型ベーチェット病や難治性川崎病など希少疾患に対する適応追加のための臨床試験にも積極的に取り組んでいます。当社が創製し、スイスのノバルティス社に導出した多発性硬化症治療剤が、2010年に米国で発売されましたが、現在では世界80カ国以上で承認され、順調に売り上げを拡大し、大型新薬になりました。また、米国のヤンセンファーマシューティカルズ社に導出した2型糖尿病治療剤も、2013年に米国、欧州で承認を得て販売中で、大型新薬になると見込んでいます。これら海外の医薬品メーカーからのロイヤリティー収入が伸びており、当社の収益の大きな柱の一つになっています。

――そのように高い研究開発力を持ちながら、2014年6月の社長就任後、研究開発体制をはじめ、組織変革を次々に実行されていますね。

昨年11月に欧米の投資家を訪問した際、海外では、国内以上に当社の研究開発能力を評価していただいていることを実感しました。前述したように世界レベルのファースト・イン・クラスの製品を最近2品目創製したことが評価されているのですが、さらに研究者の能力を引き出すことが私の責務だと思っています。研究開発に関して、当社が取り組むべき大きな課題は2つあります。第1は製品自体の価値を高めること、第2は開発のスピードを上げることです。

世界各国の市場に密着

――製品価値を高めるための施策についてお話しください。

まず、治療に関わるステークホルダー、すなわち患者さん、ご家族、医療関係者などの負担をどう軽減するかが問われます。そこでは、世界各地域の医療・治療の体系を理解した上での製品開発が求められます。具体的には現地の医師を通じてニーズを吸い上げ、国内の研究開発部門にシームレスに情報が伝わるような体制づくりを進めています。

また、現地の薬価・償還などの体系も考慮することが重要になります。近年、HTA(Health Technology Assessment)と呼ばれる考え方が重視されるようになり、新規治療法が既存治療法より優れていて、価格が妥当であることを科学的に証明することが求められるようになっています。そのためにも現地でのマーケティングを強化する必要があります。今後はやはり、世界最大の米国市場開拓が課題となります。そこで現地の関係会社を再編し、統括機能の強化、権限移譲によるスピード向上を図りました。今後、創薬ベンチャーへの投資、協業も加速します。

――研究開発のスピードを上げるための課題は何でしょうか。

これまでの研究開発では、失敗しないように時間をかけて確実な方法を取る傾向がありました。しかし、私は逆に「時間をかけること自体がリスクだ」と強調して、担当者の意識を変えようとしています。現在、RD改革室を設けて、研究開発プロセスのどこで時間がかかっているのか洗い出す作業を行っています。領域によっては、当社が想定する3~4倍のスピードで開発を進めている会社もあります。そのような競合のスピード感を意識して、社内の仕事の進め方の見直しを行っているところです。まずは、現場に権限を委譲し、社外とも協業しながら開発スピードを上げるように改革していきます。

変化しないことは最大のリスクだ

このほど竣工した新本社ビル。高い環境性能を備え、社屋内に「田辺三菱製薬史料館」を設置している
このほど竣工した新本社ビル。高い環境性能を備え、社屋内に「田辺三菱製薬史料館」を設置している

――三津家社長は、組織改革を「Move」と呼び、営業も含めて仕事のやり方を変えようとされていますね。

私はこの激変する環境下において「変化しないことは最大のリスクだ」と従業員に力説しています。そして、会社組織にありがちな形式主義や前例主義に陥らないよう、一人ひとりが常に新しい仕事のやり方を考え、行動するために「Move」という合言葉を掲げました。営業部門にも改革室を設け、MR(医療情報担当者)による提案力の強化を図ろうとしています。医療関係者のニーズを吸い上げ、いかに役に立つ提案や情報提供ができるかが各MRに問われます。

創薬は、「アンメット・メディカル・ニーズ」(未充足の医療ニーズ)と呼ばれる新しい領域への挑戦です。当社も自己免疫疾患、中枢神経系疾患、希少疾患を中心にアンメット・メディカル・ニーズに取り組んでおり、今後は社外の研究者や医薬品メーカーと協業し、スピーディーに開発を進める必要があると考えています。従来のやり方にこだわっていては前に進みません。2013年にはカナダの創薬ベンチャーであるメディカゴ社を買収し、ワクチンの研究開発分野に進出しました。同社が開発した植物の葉を使った特長あるワクチン製造技術は、幅広い種類のワクチンを効率的に製造できる可能性のある有用性の高い技術です。今後も社外の優れたプレーヤーとは積極的に提携していきたいと考えています。今月には、先般竣工した道修町の新社屋に移ります。気持ちも新たに、社長就任以来キャッチフレーズとしている、「独自の価値を一番乗りでお届けする、スピード感のある創薬企業」をめざして、従業員と一緒にさらにMove Forward(=前進)していきます。

田辺三菱製薬
〒541-8505 大阪市中央区道修町3-2-10
URL:http://www.mt-pharma.co.jp/