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経営課題解決シンポジウム 製造業編 Review 基調・特別講演

基調講演 |日本写真印刷

ERP導入からクラウド移行へ
モノづくり企業内IT進化の秘訣

印刷技術をコアに、産業資材やタッチパネルやセンサーなどに展開、成長してきた日本写真印刷は、ドイツSAP社のERP(統合基幹業務システム)ソフトウエアの導入・活用で、V字回復を加速してきた。同社CIO(最高情報責任者)の青山美民氏が、導入成功の秘訣を語った。

青山 美民 氏
日本写真印刷株式会社
上席執行役員
最高情報責任者
コーポレートSCM部門担当
IT部長
青山 美民

 1929年に京都で創業した日本写真印刷は現在、4つの事業を展開している。産業資材事業は、立体的なプラスチックなどさまざまな素材への加飾フィルム、ディバイス事業は、タッチ入力ディバイスを主力としており、情報コミュニケーション事業は、顧客のコミュニケーション戦略をサポートする製品・サービスを提供している。また、2015年4月には、ガスセンサーとDDS(Drug Delivery System)の開発を行うライフイノベーション事業を立ち上げた。海外にも販売拠点と生産拠点を持ち、海外売り上げ比率が75%にも上るというグローバル企業だ。

 同社は2009年のリーマンショックより少し遅れて、2011年に売り上げが大幅に落ちた。2008年のピーク時に比べ、2011年の売り上げは2/3まで減少した。これをV字回復させる支えとなった一つは、IT部門責任者でCIOの青山氏が推進したITの改革だ。同氏はパイオニア社を経て、2009年に日本写真印刷に入社している。

 日本写真印刷では2007年ごろからSAP社のERPの導入を進めていたが、2009年当時、プロジェクトの度重なる遅延と予算追加により、社内は混乱気味だった。事業部とIT部門との心理的距離も遠かった。ERP導入成功のためには、まず社内での信頼関係の構築が必要だった。

 このため、ITサービスを利用する全社員にアンケートを取り、全体の満足度の傾向をつかむと共に、コメントにきめ細かく対応していった。アンケートは毎年行い、同じ質問で定点観測を行い改善を進めた。たとえば特定部署の評価が低く、調査するとネットワーク上の問題が隠れていたことなどが発見できた。

 こうした施策により、「年を追うごとにITに対する現場の満足度が高まっていった」(日本写真印刷CIO 青山美民氏)という。

 現場の満足度を上げるために行ったことは、大きく5つある。

●約束は守る
●守るべき方針を出す
●数字で語る
●現実を把握し、先を見通して正しい提案をする
●外部の専門家の力を利用する

 ――である。

5つの方針を掲げてERP導入に成功
さらにクラウドで全世界共有へ

 ITプロジェクトを推進するうえで強く意識したのは、「スケジュール、予算を守る」ということだ。これらは守るのが当たり前で、守られなければ経営陣に対する約束違反になることをしっかり植えつけた。

 次に、ITマネジメントのコンセプトを明確に出した。「いつでもどこでもストレスなく」使え、「簡単」。さらに「単一操作でリアルタイムに処理できる」という環境をユーザーに提供すると、社内に訴えた。

 また、数字で語ることで、説得力が生まれる。ITプロジェクトでは事業部門や営業、管理部門などでのシステムテストの進捗状況を管理し、数字で表した。他部門が進んでいれば、負けないように追いつこうとする。この施策により、海外拠点でのERP導入は、国内完了後、わずか1年で終了できたという。

 「現実を把握し、先を見通して正しい提案をする」に関しては、中期計画を策定した。中計立案にあたっては社会環境、業界トレンド、社内の各事業部門のニーズ・課題を採り入れると共に、その立案プロセスを通じて部員の育成を図った。

 外部の専門家の力を利用するため、SAP社との戦略的な提携関係を構築した。そのためにCIOオフィスを発足させ、コンサルティング業務から始め、SAP社との関係をアプリケーション保守へと拡大した。

 さらにSAP関連システムのクラウドへの移行を完成させ、SAPが開発したビッグデータ対応のインメモリーデータベースシステムHANA上で基幹定型業務、分析・計画業務などをnissha.comのクラウド上で行えるようにした。いわば、PaaS(Platform as a Service)である。

 日本写真印刷は、「他社の手がけないことをやろう」という差別化戦略で事業領域を拡げてきた。今後は、社内で培ってきたビッグデータ活用のノウハウを、事業部門で開発している無線センサーネットワークなどのIoT技術やマーケティングソリューションと融合させ、ITのビジネスへの活用に展開していく。

特別講演 |ジェネックスパートナーズ

「第4次産業革命」によって
モノづくりが変わる

製造業では、欧米企業を中心に、モノづくりとITを融合する動きが加速している。ドイツ政府が推進している「インダストリー4.0」が及ぼすモノづくりへの影響と日本が進むべき道を、ジェネックスパートナーズ代表取締役会長の眞木和俊氏が示した。

眞木 和俊 氏
株式会社ジェネックスパートナーズ
代表取締役会長
眞木 和俊

 眞木氏は、歴史の中で「産業革命」と称される動きを振り返り、水力や蒸気力を用いて機械的な生産設備が導入された第1次、電気エネルギーを利用し大量生産へと変わった第2次、さらにITや電子機器を活用した第3次と進み、現在は、生産設備がつながりネットワーク化することで完全自動方式での生産となる第4次産業革命の時代に突入したとする。

 「第4次産業革命」では、まさにITがモノづくりを変えつつあり、これまでの人間が機械に指示を出し活用するという関係から、インターネットを介して機械同士がつながって協働し、それを人間がマネジメントする関係に変化している。

 これらの動きに対し、ドイツ政府は国内の産業振興策として「インダストリー4.0」を提唱し、化学や機械、自動車、電機、ICT、農業分野で、2025年までに経済価値成長率として年率1.7%を目指している。この中心となるのがスマートファクトリー(完全自動工場)の実現である。

 一方アメリカでは、産業機器分野でのネットワークのプラットフォーム化が進行しており、ゼネラル・エレクトリック社が提唱する「インダストリアル・インターネット」を筆頭に、有力企業が動き出している。

 さらに、第4次産業革命では、単に製造現場がITによって完全に自動化するというだけではなく、モノづくりにおいて“お客様”と“作り手”との関係が変わり、明確な境目がなくなっていくと、眞木氏は指摘する。

 こうした変化を、ナイキの靴を例にして解説した。ナイキでは「NIKEiD」と呼ぶ、インターネット上でのカスタマイズサービスを行っている。例えば、スポーツシューズの一部の色やデザインをコンピューター画面上で選択し、顧客が自分でカスタマイズし注文する。まさに顧客が作り手になるという訳だ。

第4次産業革命に対し、
日本は受け身ではなく能動的にチャレンジを!

 製造現場について言えば、製品の設計手法そのものが変わり、コンピューターを使ったバーチャル設計やモジュール化が進む。また工場は完全自動生産になり、スマートファクトリー化が進む。

 さらに、原材料や部品調達などの物流も変わるという。RFID(無線電波を利用するデータ認識タグ)によるリアルタイムトラッキングが可能になる。これは、部品や材料にそれらの生産地やロット番号、品名などを付与したRFIDタグを付けることで、入荷から倉庫内、工場内、さらに製品化した後も追跡できる仕組みだ。

 部品や材料の状況がリアルタイムで把握できるため、問題が起きた場合にも、どの部品・材料が影響しているかをすぐに特定でき、早期に問題解決が図れる。またリアルタイムでの情報把握が可能になることで、保守・修理などのユーザーサポートも変わり、サービス拡充や新たなビジネスの登場にもつながるとする。

 ただし、日本国内の製造業においても「インダストリー4.0」に相当する提言を進める場合には、複数の問題点が顕在化すると、眞木氏は指摘する。ITリテラシーの欠如や組織求心力不足による改善意欲の低下といった現場適応時の問題に加え、IT化と自動化が進むことによるノウハウ転用や外部流失のリスクといった、適応が進むことで発生する問題もある。

 では第4次産業革命に際し、日本はどうすべきか。

 世界的な規模で進むデファクト・スタンダード化や標準化をめぐる主導権争いが、第4次産業革命の本質である。これに対し受け身の姿勢ではなく、日本のものづくり産業にとって、リーダーシップ復権の機会ととらえることが重要だと、眞木氏は主張する。

 標準化で日本が主導権を取るための心構えとして、ポイントを3点挙げている。他者の多様性を認め、周囲の成功・失敗例を学ぶ。国家レベルでルールメーカーを目指す。組織的な「仲間作り」の仕組みを作る。こうした点を踏まえ、新たなチャレンジをすることこそが、日本企業に求められる最重要の急務だと強調して、眞木氏はセッションを結んだ。