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社会・環境報告書ディレクトリ2014 Part1

企業のCSR活動の中で、今最も注目されているのがダイバーシティ(多様性)への対応だ。特に女性の活用については、取り組むのが当然という流れにある。欧米に比べて女性の活躍で立ち遅れている日本に対しては海外からの風当たりも相当強い。そこで安倍政権は女性活用を成長戦略の柱の一つに位置付け、あの手この手で政策的に後押し。実際に女性の積極活用で業績を上げる企業も増えてきた。ここでは、企業が取り組むべきダイバーシティ経営と情報発信のあり方について、大和総研調査本部の河口真理子主席研究員に聞いた。

 昨年、安倍政権は成長戦略の一つとして、多様な人材の活用、中でも女性の活躍の推進を打ち出した。「2020年までに管理職の女性比率を30%以上にする」という目標を掲げ、上場企業に役員・管理職の積極的な女性登用を求めたのは周知のことだ。

 すでに2012年度から経済産業省と東京証券取引所は共同で、女性活用推進に優れた上場企業を選定する「なでしこ銘柄」を発表している。経産省はさらに、多様な人材を生かした経営、つまりダイバーシティ経営によって価値向上を実現した企業を100社選定して表彰する「ダイバーシティ経営企業100選」もスタートさせた。「なでしこ銘柄」は上場企業の公開情報をもとに選出され、「ダイバーシティ経営企業」は、公募で中小企業からも選定される。

 日本で男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年。だが今でも日本は欧米に比べると役員・管理職に占める女性の比率がかなり低く、この現状に対する海外からの評価は厳しい。アメリカのヒラリー・クリントン前国務長官や、IMF(国際通貨基金)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事は、女性の労働力率を上げることが日本経済の成長につながると発言した。

 しかし、ここにきてようやく潮目は変わりつつある。

 「これまでは女性の活用推進に関して様子を見ていた企業が多かったが、今は取り組むのが当たり前という風潮になっている」。こう語るのは、企業のCSRやSRI(社会的責任投資)に詳しい大和総研調査本部の河口真理子主席研究員である。

 実際に、東証1部上場企業のうち、「女性のキャリア促進」に関する実績データの開示を行っている企業は、2012年度の180社から2013年度は370社に倍増。女性社員の活躍推進を宣言する企業も増加する一方だ。日本経済団体連合会(経団連)が会員企業に対して、「女性の役員・管理職登用に関する自主行動計画」の作成を呼びかけたことも大きい。

女性の特性を生かして業績を伸ばす貴重な戦力に

 だが政策的な後押しだけではない。女性を活用することが経営に明確なメリットをもたらすと実感する企業が増えているのだ。

 ある流通大手傘下の百貨店は、女性社員同士の「おしゃべり」の中で生まれたアイデアを、売り場づくりに取り込み、業績を伸ばしている。郊外にあるその店舗は、来店客の8割が女性。このため2年前、全館をほぼ女性社員に替えた。すると、「ホワイトデーのギフト用ハンカチを、男性目線ではなく、女性が欲しいかわいいものを売りたい」「下着売り場にソファを置きたい」など、現場で次々と自由な意見が生まれ、都度会議にかけることなく、実現していった。その結果、2年連続で売り上げを伸ばしたという。

 九州地方の大手バス会社も、運転手に積極的に女性を採用し、目に見える成果を上げている。「女性でバスの運転手になりたいという人は、もともと少数派だけに、モチベーションが高い」と、このバス会社の経営者は女性運転手の取り組み姿勢を高く評価している。乗客からの反応も上々だ。特に小さな子どもや高齢者に対して、女性運転手はこまやかな配慮をしてくれると好評なのだという。これまで女性があまり進出していなかった職場であっても、女性らしさをアピールすることで着実に顧客の心をつかみ、貴重な戦力になれるのだ。

 意外なところでは、大手エンジニアリング会社で活躍する女性エンジニアの事例を挙げることができるだろう。エンジニアリング会社の主要な仕事といえばプラント建設。腕力のある男性の職場というイメージが強いが、実はさまざまなメーカーの機械や装置を組み合わせ、顧客の要求に合ったプラントをつくり上げる段階では高い調整能力が求められる。この会社では、女性エンジニアがコミュニケーション能力と協調性をいかんなく発揮し、プロジェクトに貢献したという。

 女性活用の推進がもたらす、もう一つの注目すべきメリットは、経営効率の改善である。

 「女性を登用することで経営プロセスの見直しが図られ、結果として経営の効率が上がったという声をよく聞く」と、河口氏は明言する。

 例えば慣例的に夕方5時から行われていた会議を、残業ができない女性管理職の勤務時間に合わせるために3時から行えば、男性管理職も残業時間を減らすことができる。

 結局のところ、女性が働きやすい環境は、誰にとっても働きやすい環境なのである。「こうした経営的なメリットを実感する企業がここ数年で増えたことで、女性活用の動きが加速したのではないか」と河口氏は見ている。

 女性が活躍する企業は業績もいいというのは株価にも表れている。大和総研によれば、女性取締役を有する企業で構成したポートフォリオは、配当込みTOPIX(東証株価指数)よりもリターンで上回るという結果が得られた。特に2008年の金融危機のような景気環境の悪化に強く、回復が早い傾向があるという。

図 女性取締役を有する企業とTOPIXの株価パフォーマンス
図 女性取締役を有する企業とTOPIXの株価パフォーマンス
女性取締役を有する企業で構成したポートフォリオのリターンは、配当込みTOPIXに比べ、2008年の金融危機時の落ち込みが小さく、回復も早い。
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「わが社」ならではのダイバーシティ策を立案・実行

 それでは、環境CSRの担当者がこれから自社のダイバーシティ経営を推進しようとするとき、何から取り組めばいいのだろうか。

 まずは、自社の女性社員の業務内容や役職を把握することから始めることだろう。部長クラスはまだいないが、主任クラスの女性は案外多いなど、全容が見えてくると、取り組むべき施策のポイントも明らかになるはずだ。

 「そもそも技術系の企業は女性の役職者の数字が伸びにくい。こうした場合、対外的には数字でアピールするのではなく、別の切り口で女性活用の姿勢を訴求することを考えるべき」と河口氏はアドバイスする。

 例えば前述の女性エンジニアのように、専門性やコミュニケーション力を発揮することで顧客の信頼を獲得、第一線で活躍している姿を紹介するというのも効果的な方策といえる。こうした事例を一つずつ積み上げていくことによって、女性活用をはじめとするダイバーシティ経営にどのようなマインドを持って取り組んでいる企業なのかを示すことができる。

 「市場競争原理のもと量的拡大を至上命題とする中央集権的な20世紀型社会は、地球環境の制約の中で限界にきている。これからは分散共生的かつ定常均衡を目指す、いわば女性的・母性的な社会のあり方が求められていくだろう」と河口氏は展望する。モノ、情報、エネルギーなど、あらゆるものが大規模集中から小規模分散へ、分業から協業へと移行していくなか、社会には多様な価値観が生まれている。こうした時代の流れに対応することが、ダイバーシティ経営の本質なのだ。

 わが社のダイバーシティ経営とは何か。何を目指すのか。環境CSRの担当者が議論の端緒を開くときが来ている。