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経営課題解決シンポジウム データ経営実践編 これから始めるデータ経営 Review

基調講演

製造実行システムのデータを分析して「改善」に活用
分析ありきではなく目的志向で取り組むことが重要

宮森 誠 氏
株式会社村田製作所
モノづくり技術統括部
モノづくり強化推進部
生産革新2課
シニアマネージャ
宮森 誠

 村田製作所(本社:京都市)は、チップ積層セラミックコンデンサーなどの電子部品で世界的に知られる企業である。基調講演のスピーカーを務めた村田製作所の宮森 誠氏は、冒頭、「当社の社是には『科学的管理を実践し』という一節があります」と紹介。自社開発の製造実行システム(MES)「PRASS」において、品質・費用・納期(QCD)を高めるためにデータをどのように活用しているかを説明した。

 同社の考えでは、生産工程でのデータ活用とは、品質重視の考え方で製造現場を実際に改善すること。そのためには、三現主義(現場・現物・現認)、技術的な知見、熟練者が持つノウハウのそれぞれをデータ活用に連携・融合させる必要があると宮森氏は指摘する。

 組織などの体制を整備することも重要だ。村田製作所の場合は、各工場に改善活動のリーダーを置き、生産本部直属の「モノづくり強化推進部」のメンバーが指導する方式を採用している。具体的には、1年半の期間をかけて実践、教育、環境整備、ノウハウ収集といったテーマごとの定着活動が行われている。

 さらに、データ活用を始める前に、そのねらいを確かめておく必要がある。村田製作所の場合は、企業というものの究極の目的でもある「適正な利益を継続する」ことをデータ活用の基本的なねらいとしている。宮森氏は「これからやろうとすることが売り上げ増をもたらすのか、それともコスト削減になるのかを、事前に確かめなければなりません」と力説する。

 このような考え方から、宮森氏は「いきなりデータ分析」のデータ活用に陥ってしまうことを強く戒める。「現場でモノを見たら、それだけで対策がわかってしまう場合も頻繁にあります」と宮森氏。データ分析にはそれなりの手間とコストがかかるので、すべてを分析していたのでは投資対効果が上がらなくなってしまう。また、データ分析の実際のプロセスにおいても、難しいのは統計処理そのものではなく、何をテーマに設定するかという前段階の部分だという。

 生産工程で生み出されたデータを分析・活用するために村田製作所が用意したIT環境は、一般的な構成のものである。MESからのデータは、設備データなどと合わせて分析用データベース(DWH)に格納する仕組み。コストを節約するためにリアルタイム処理やデータ統合処理は省かれているが、試行錯誤で解を見つけられるように、グラフ化(見える化)とインタラクティブ化にはこだわったという。

 基調講演のまとめとして、宮森氏は20年におよぶ村田製作所のMESデータ活用から得られた知恵を“振り返り”として語った。まず、基本的な考え方は「科学的管理の実践」という社是が書かれた50年前から変わっていないということ。統計の手法と手順の基本は時代によって変わったりしないので、それに忠実に進めていくことが大切。また、製造現場のこれまでの知見と違うデータが得られたときに、どちらか一方だけが正しいのではなく、両方が真理だという考えに立って関係者を納得させることも重要だという。

 次に、データの分析と活用を改善へとつなげていくには、データを丹念に層別化・グラフ化してわかりやすく示す必要がある。「コンピューターの能力は劇的に向上していますし、ソフトウエアも使いやすくなってきました。専門家に任せられるところは任せてしまったほうがいいでしょう」と宮森氏。最後にデータ活用を成功に導くキーワードとして、「目的志向」「数値化」「分析組織ではなく、改善活動組織を考える」の三点を挙げる。

特別講演

寿司皿に付けたICタグで売上データを自動的に収集
その活用でロス率引き下げとオペレーション改善を実現

田中 覚 氏
株式会社あきんどスシロー
情報システム部
部長
田中 覚

 寿司をベルトコンベアで回すというアイデアが実用化されてから半世紀以上が経つ。回転寿司はすでに“国民食”ともいえる。その国内最大手チェーンのあきんどスシローの田中 覚氏は「スシローの使命は、『うまいすしを、腹一杯。うまいすしで、心も一杯。』。そのためにもデータを活用してロス(廃棄品)を無くすことに力を注いでしています」とアピールする。

 スシローがもっともこだわっているのは、顧客に楽しんでもらえるように、レーンに常に寿司を流し続けること。注文を受けずに寿司をにぎる方式なので、おいしさを一定に保つための高度な鮮度管理技術が求められるという。そこで、寿司皿の裏面に張り付けたICタグ(RFID)をレーンの下に取り付けたリーダーで読み取るシステムを開発した。作ってから一定の時間が経過した寿司を自動的に廃棄するのである。

 さらに、このリーダーからのデータを集計すれば、時間帯別の売り上げも単品ベースで把握可能だ。それを基に、仕込みの量を最適化してロスを減らせるようになった。「スシローがロス率を下げることができたのは、レーンに流す量をコントロールしたためというより、過去の統計データを基に適切な仕込み量を計算したからです」と田中氏はノウハウを明かす。

 数字に対するスシローのこだわりは、このほかにもある。例えば、待ち人数を把握するために、店の入り口に設置した受付システムで来店者に人数を入力してもらう方式を採用。顧客が席に着く経過時間を自動的にカウントし始め、統計データを基に作成しておいた「食欲モデル」で需要を予測する。

 このようなIT武装をした結果、スシローの各店舗が生み出すデータは莫大な量になっている。公表されている売上高の1270億円(2014年9月・連結)を標準的な単価の100円で割り算すると、年間の個品データ数量は12.7億件。データ分析や基幹業務のためのIT基盤としては、アマゾン ウェブ サービス(AWS)上に構築した「Sushi Cloud」を使っている。

 さらに、データ分析については、「欲しいデータがない」(企画部門)、「レポートが多過ぎる」(店舗)といった社内の声に応えて、ビッグデータ分析にも挑戦。「クラウドと無料体験版のビジネスインテリジェンス(BI)ツールを組み合わせると、40億件のデータ分析を3日間、10万円の費用で実施することができました」と田中氏。クラウドベースのビッグデータ分析はすでにオペレーション改善と予実管理に使われており、今後は、モデリング、マーケティング、顧客関係管理(CRM)などへの活用も考えているという。

 このような経験を基に田中氏が挙げたのが、「データ定義は全社レベルの仕事」「データの価値は集める時に決まる」「BIツールは目的に応じて使い分ける」「代替手段は残さない」というデータ活用の4つのポイント。この4ポイントに留意してデータを活用することにより、来店客に良いカスタマーエクスペリエンスを提供して事業を拡大できるようになると強調する。

 本格的なクラウド時代を迎えた今、スシローは、クラウドを基盤とするIoT(モノのインターネット、Internet of Things)技術でデータをさらに高度に活用しようとしている。「KineSushi」と名付けられたシステムは、寿司皿に張り付けられたICタグからのデータをリアルタイムストリーム分析サービスのAmazon Kinesisで前処理し、その結果をデータ保存サービスのAmazon S3とDWHクラウドサービスのAmazon Redshiftで詳しく分析する仕組み。その効果を、田中氏は「在庫をリアルタイムで把握し、レーンへの寿司の流し方やオペレーションを詳しく分析して最適化できるようになります」と見ている。