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経営課題解決シンポジウム Review 製造業グローバルコラボレーション

基調講演

日産自動車

顧客の求めるクルマを確実に供給できる体制を
グローバルSCMの改革推進によりさらに強化

加藤 淳 氏
日産自動車株式会社
グローバル情報システム本部
生産・SCMシステム部 部長
加藤 淳

日産自動車は、日本を含むアジア・オセアニア、北米、中南米、中国、欧州、AMI(アフリカ、中東、インド)と、世界を6極に分けグローバルビジネスを展開している。「そうしたなかで、以前は、例えばITシステムやプロセス、データなどが個々の極によってバラバラの状態で、それによる非効率性など様々な問題を抱えていました」と日産自動車の加藤 淳氏は語る。

これに対し同社では、2005年度から2010年度にかけて「BEST」と呼ばれるグローバルな視点に立ったIT環境の整備を目指した中期戦略を実践。その結果、ITの80%の領域における標準化を実現するなどの成果を達成した。さらに続く2011年度からは、BESTでの取り組みをさらに“深化”させる目的で、「VITESSE(ビテッセ)」と呼ばれる、5年スパンの中期計画をスタートさせた。そこでは、さらなるブランド力の向上や販売力の強化、あるいはビジネス拠点の展開にかかわる支援などを含むテーマが新たに掲げられている。

その一環として同社では、グローバルSCMの改革にも着手。もともと同社では生産に関し大きく2つのアプローチをとっている。1つは新興国など生産コストが安く済む国で生産して、グローバルに供給していくMPS(Multiple Product Source)。そしてもう1つが、LCC(Leading Competitive Country)で、こちらはコスト競争力のある国から部品を調達し、最終的にクルマを完成させるアッセンブリーラインを、販売する現地に置くというもの。これに関し同社では、サプライヤーがある国々に、部品をまとめて梱包し、出荷するという機能を持つセンターを設けている。

「いずれのケースでも、我々が重要なミッションと捉えているのが『The right vehicle at the right place at the right time(顧客が求めるクルマが必要な場所に必要なときになければならない)』ということです。それには、顧客が求めるクルマに必要な部品もまた、必要な場所に必要なときになければならないことになります」と加藤氏は説明する。これに対し日産自動車では、サプライヤーによる部品出荷に始まり、同社工場での生産、ディーラーでの販売を経て、顧客にクルマが届くに至るバリューチェーンにおいて、品質、納期にかかわるKPIをエンド・ツー・エンドで設定している。

他方、各国の生産拠点がそれぞれ個別に、各国のサプライヤーに部品を注文しているという状況もあり、その改善にも着手している。「要するに、あるサプライヤーから見れば、日産自動車の日本の生産拠点からも注文が来るし、それとは別に中国からも来るというかたちとなっているわけです。当然、サプライヤー側のほうでも供給の計画が立てづらく、安定的な部品供給に支障が生じる懸念もあるわけです」と加藤氏は語る。

これに対し現在、同社では、各国の生産拠点で必要な部品を全社的にとりまとめたうえで各サプライヤーに発注するという仕組み、および組織体制の整備を進めているところだ。また、すでに述べた部品の調達から顧客への納車に至るオペレーションについては、元々は日本本社がその標準のプロセスを策定し、それを各国の拠点に準拠させるという方法をとってきた。「しかし、最終的にオペレーションに当たるのは、あくまでも現地のスタッフであり、その現場をよく知らない本社側が標準を一方的に策定するというのは無理がありました。当然、日本側が提示した標準が現地流に改変され、結果、グローバルで見ればバラバラの仕組み、プロセスとなっていったわけです」と加藤氏。

これに対し日産自動車では、2015年4月以降、各国の現場の業務オペレーションや情報システムのキーマンを2年ごとに集め、そこで標準化に向けた議論を進めていこうとしている。「その際、各拠点の優れた取り組みを持ち寄って、ベストプラクティスの構築へとつなげていこうとしています。その後、キーマンたちがそれを自国に持ち帰り、現場への定着を図っていくという流れを作り上げていければと考えています」と加藤氏は語る。

特別講演

IDC Japan

第三のプラットフォームが製造業に及ぼす
多大なインパクトを認識することが肝要

廣瀬 弥生 氏
IDC Japan株式会社
ITスペンディング
グループマネージャー
廣瀬 弥生

近年、「クラウド」「モビリティ」「ビッグデータ」「ソーシャル」といった新たな技術要素によって構成される『第三のプラットフォーム』がビジネスの世界においても大きな注目を浴びている。「その市場規模は、現在のICT市場全体の30~32%程度を占めており、東京オリンピックが開催される2020年には40%規模になるものと予測しています」とIDC Japanの廣瀬弥生氏は語る。

このように今後のビジネスにおけるICT活用を中心的に担っていくことになる、この第三のプラットフォームだが、とりわけ製造業においては、他業種と比べて、その受容に向けた動きが活発なものとなっている。

「例えば、クラウドを例にとれば、1000人以上の大手企業では7割を超えるユーザーが導入計画を進めています。このような高い値が出ているのは製造業だけです。さらにビッグデータに関しても、製造ラインの効率化や製品開発などの領域で積極的に活用していこうとする動きが他業種に比較して明確に表れています」と廣瀬氏は自社の調査結果に基づいて紹介する。

ところが、その一方で製造業においては、そういった新たな技術をビジネスに生かしていくためのIT戦略を検討する人材や、IT活用にかかわる知識の不足に課題感を持っているケースも多い。さらに、これは製造業に限らず、多くの日本企業に共通している組織的な傾向だが、強力なトップダウンによる意志決定というものが徹底できないということも重要な課題としてあげられる。

「実のところ、事業成長に向けた第三のプラットフォームの活用というものが、技術的な要因ではなく、むしろ人や組織の問題によって、うまく進まないということが、特に日本企業における典型的な問題点として懸念されます」と廣瀬氏は指摘する。企業者による不断のイノベーションが経済に変動をもたらすとする著書『経済発展の理論』で知られる経済学者J.A.シュンペーターがイノベーションの1つとして「新たな組織の実現」をあげていることに言及する。

一方、昨今では、第三のプラットフォームをめぐる情勢も、クラウドやビッグデータといった要素技術が登場してきた当初とは、趣が大きく変わってきている。具体的には、これら技術の融合が進んできている状況であり、そうしたなかで第三のプラットフォームを構成するベンダーの陣営というものが登場。そうした陣営間の激しい競争も始まっている。その構図としては、主要なPaaS(Platform as a Service)ベンダーが有力なSaaS(Software as a Service)ベンダーをいかに自らのプラットフォーム上につなぎとめるかが大きな争点となっている。

「その際、PaaSベンダーにとって、特に魅力的なSaaS側のキラーアプリと目されているのが、ビッグデータ指向のサービスや産業特化型ソリューションであると言われています。いま製造業界で急速に注目度が高まる『Industry 4.0』の動向についても、そうした観点から認識する必要があるでしょう」と廣瀬氏は語る。

というのも、かつて日本は、デジタル時代の流れを読み切れずに、ハイビジョンの国際標準化競争で苦渋をなめた経験がある等、日本の国際標準化戦略は課題が多い。そうした事実を踏まえながら廣瀬氏は「Industry 4.0の分野においても、日本の製造業は、米国や欧州の国際標準化戦略に対抗し得る、日本型モデルを確立していくことこそが急務であるといえるでしょう」と提言する。