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経営課題解決シンポジウム Review IoTとビッグデータで拓く次世代製造業 基調・特別講演

リコー

企業や組織の問題を解決してこそのビッグデータ分析
専任組織を置き、現場部門に寄り添うことで成功に導く

佐藤 敏明 氏
株式会社リコー
開発プロセス革新本部
副本部長 兼
コーポレート統括本部
データインテリジェンス推進部
部長
佐藤 敏明

 事業の柱の一つにデジタル複合機(MFP)を据えているリコーは、装置に内蔵されているセンサーからの自動通報データをインターネット経由でリコーテクニカルセンターに集める「@Remote」というサービスを展開中。そのデータをIoTとビッグデータの両技術で分析・活用することによって同社のビジネスにおけるさまざまな課題を解決した。

 「ビッグデータの活用を推進するための専門組織が当社内にできたのは、2年前の2013年4月でした」と語るのは、リコーのビッグデータ活用に深くかかわってきた佐藤敏明氏。まずは社内のデータ活用の現状を調べることから始めたという。

 「その結果、大量データの分析はいくつも行われていましたが、『改善』などのかたちで役に立っているケースはあまりありませんでした」と佐藤氏は語る。「報告して終わり」「参考情報として共有した」「投資対効果があるか分からないので活用に着手していない」といった対応が目立ったという。ビッグデータを使う目的は、分析をすることではなく、会社などの組織がかかえている問題を解決することだと佐藤氏は指摘する。

 「問題を解決するには、五つのステップを踏まなければなりません」と佐藤氏。具体的には、(1)問題を具体的に定義する、(2)問題の原因を分析する、(3)分析結果から問題を解決する施策を立案する、(4)施策を実行する、(5)問題が解決されたことを確認する、といった手順と内容が必要だという。「データがあるから何かに活用できないか」といった動機で始めると活用に失敗するケースが多いというのである。

実ビジネスで活用される@Remoteの自動通報データ分析結果

 このような考えから、ビッグデータ活用推進組織を発足させるにあたって、リコーは「目的は課題解決」「最初から最後まで現場を巻き込む」「問題解決の5ステップ」を強く意識することにした。

 ビッグデータ活用推進をするためには、「全社に横串を通すビッグデータ推進組織で推進」と「各事業部門と機能部門に配置する推進部隊で推進」の二つのやりかたがある。リコーでは全社横串組織を作ったが、それは「ノウハウを体系的に蓄積できる」「データ分析に高い専門性を持つ人材を育成できる」「効率性の高い投資ができる」「アウトプットの信頼性が高い」「バイアスがないデータ分析を保証できる」といった利点をねらってのこと。その一方で、現場が言ったとおりに動いてくれないというデメリットもあったと佐藤氏は振り返る。現場部門は本務で忙しく、部外者に指図されたくないという思いもあるからだ。

 そこで、リコーの場合は、忙しい現場には全社横串側のリソースを一時的に投入する戦術で採択。また、何より大事なこととして、佐藤氏は「提案した内容についての全責任を負うつもりで全身全霊を挙げて取り組み、現場から信頼される味方になる」ことを目指したという。

 こうした取り組みの甲斐あって、リコーでは@Remoteの自動通報データの分析結果を実ビジネスで活用中。故障原因の診断、故障予測、部品の市場寿命予測などの分析を保守の現場で活用することで、修理作業時間の短縮、再訪問の撲滅、故障の未然防止などに役立っていると佐藤氏は成果を誇る。

 そのほか、参考になったのは「スキルが高いデータサイエンティストより問題解決ができる人材」「高度な分析技術はまず要らない」「たいていの問題はクロス集計や決定木などの定番手法で解決できる」「キーパーソンが定期異動で不在になると現場の業務改革が止まってしまうことがある」などのポイント。「ビッグデータ分析だけでは仕事や組織は変わりません。変えるのは人です」と佐藤氏は語りセッションを終えた。

日経ビッグデータ

製造業を始めとするあらゆるビジネスの進化に
重要な役割を果たすIoTとビッグデータ

市嶋 洋平
日経ビッグデータ
副編集長
市嶋 洋平

 IoTとビッグデータは、製造業を始めとするあらゆるビジネスの進化に重要な役割を果たすものと期待されている。「ビッグデータについては昨年夏からコンサルティング案件が動き出していますし、政府も2015年度からビッグデータ関連の政策を動かそうとしています」と話し始めたのは、日経ビッグデータ 副編集長の市嶋洋平。ビッグデータの現状報告に続き、IoTの進捗状況を国内外の事例を基に紹介していった。

 市嶋は、まず、ビッグデータには、「従来のシステムでは扱えないような大きなデータ」というIT寄りの定義と、「全社業務のデータを統合して収益増に活用すること」というビジネス寄りの定義の2種類があると説明。米国のトーマス・ダベンポート氏は、結果を記述するだけでなく、それをどう活用すべきかまで指示して効果を引き出す「アナリティクス3.0」を提唱していると紹介した。

 さらに、「最近は、IoTについても、ビジネスに対する効果が求められるようになりました」と指摘。日経ビッグデータとビッグデータ総覧に掲載された事例では、「新サービスの創出」「顧客や市場の理解」「社会課題の解決」の三つの効果が見られると語る。

 「新サービスの創出」には、まったく新しいサービスやビジネスモデルをIoTが生み出している事例が属する。例えば、スマートサーモスタット「Nest Learning Thermostat」(Google)は単に空調機の能力を調節するだけでなく、洗濯機の動作制御、人の活動パターンをリストバンドから読み取って室温を調整、煙やCO2を検出したら室内照明の色を変えて人に警告といった新規サービスを実現。家電のセンシング情報とクラウドを連携させる「ともだち家電」(シャープ)や複数のビルをクラウドから管理する「次世代建物管理システムプラットフォーム」(竹中工務店)も、IoT/クラウドによって新しいサービスを生み出した事例だ。

 また、新ビジネスモデル創出の典型例と言えるのが、電気自動車「リーフ」(日産自動車)の走行距離データを自動車保険「ドラログ」(損保ジャパン)の保険料に反映させる仕組み。自動車保険契約者に配布した専用センサーからの運転状況データを基に最大20%のキャッシュバック(ソニー損保)もこれと似た新しいビジネスモデルだ。

 「顧客や市場の理解」には、IoTならではの情報収集能力をサービス向上、サプライチェーン最適化、レコメンドに活用している事例が属する。例えば、基調講演にあったようにリコーはデジタル複合機向けの自動通報システム「@Remote」で取得したデータを予防保守、修理迅速化、SCM精度向上などに活用。また、インフォメティスは、需要家側の分電盤で採取した電流パターンをクラウドで分析して機器ごとの消費電力量などを推定する「機器分離技術」を開発済みだ。

 さらにパルコ・シティは、iOSのiBeaconを利用した「SCコンシェルジュリサーチ『人流解析』」を開発して名古屋PARCOに導入。ビーコンの近くを通った人にレコメンド用のクーポンを送り込んだり、館内の水平導線・垂直導線を分析したりといったマーケティング用途に活用しているという。

 「社会課題の解決」には、IoT/クラウドの力を駆使したソーシャルデザイン型の事例が属する。埼玉県川越市のイーグルバスは車載センサーからのデータに基づいて収益状況を大幅に改善。本田技研工業は同社のカーナビシステムを使ったテレマティクスシステムに集められた「急ブレーキ発生個所」データを埼玉県に提供。道路の改良や交通標識の整備などに役立てているという。

 「海外に取材に行くと、IoTの世界が目まぐるしく変わっていることをひしひしと感じます」と市嶋。日本でも海外のIT関連企業に伍するような活躍をしてほしいとエールを送る。