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経営課題解決シンポジウム Review スピード経営を実現するクラウド活用 基調・特別講演

基調講演 |すかいらーく

クラウドを活用して進化する
データ分析とモバイルアプリ

神谷 勇樹 氏
すかいらーく
マーケティング本部インサイト戦略グループ
ディレクター
神谷 勇樹

ガストをはじめとして和洋中の様々な飲食店チェーンを手掛ける、すかいらーくは全国で約3000店舗を展開し、年間延べ約4億人に利用されている。同社はここ数年、データ分析とモバイルアプリを積極的に推進してきた。これをITの面で支えているのがクラウド。こうした新たな施策は、同社の業績にも好影響を与えている。

データ分析の結果を基に
宣伝予算をシフトさせる

 データ分析における大きなテーマの一つは広告の費用対効果。同社では新聞チラシや雑誌、テレビCMなどを利用してきたが、2014年には新媒体としてモバイルアプリ「ガストアプリ」を立ち上げた。同社の神谷勇樹氏はこう説明する。「媒体ごとにROI(投資対効果)を分析した上で、宣伝予算をROIの高い媒体にシフトさせました。もっとも、ROIの最も高い媒体にすべての予算を投入するわけにはいきません。最適なバランスを考えながら資源配分を行っています」。

 ROIの算出は簡単ではない。数百メートルしか離れていない近隣の店舗でも、時期や地域のイベントなどの要因によって売り上げは大きく変わるからだ。そこで、比較対象群の選定が重要と神谷氏は言う。「適切な対象店舗を選んだ上で、宣伝を実施する地域とそうでない地域を分けて効果を検証します。これにより、ROIを見える化するのです。間違った対象を選ぶと、本当は効果がないのに、出ているように見えることがあります。慎重な対象選びが欠かせません」。

 データ分析はメニュー開発やキャンペーンの改善などにも生かされている。例えば、分析結果を生かしてメニュー開発の方向性を変えたところ、販売数は2倍近くになった。キャンペーンの利益効果は4倍に伸びたという。

最大の媒体に成長したガストアプリ、
他媒体に比べて効果は圧倒的に高い

 データ分析で成果を上げるためのポイントとして「分析インフラ」「分析担当者」「責任者」という3つのポイントがあるという。「分析インフラとしてITは不可欠ですが、業務の設計も劣らず重要。例えば、個々の媒体のROIをどのように見える化するか。効果測定のために、オペレーションに負荷がかかることもあります。業務部門をいかに巻き込むかが問われます」。

 例えば、チラシのデザインを評価するために、同社はクーポンにコードをつけている。同内容でデザインの異なるチラシを作製し、その結果を比較するといった手法だ。この例では、コードを読み取るという新たな業務が発生する。

 次に「分析担当者の育成」。そのフレームワークには分析に対する動機づけ、問題を解く力、組織を動かす力の3つの要素があると神谷氏は言う。「動機づけは前提ですが、問題を解く力と組織を動かす力の掛け算で成果が決まります。一方が0点なら、結果も0点です」。3番目のデータ活用に対する「責任者のビジョン」の重要性については、改めて言うまでもないだろう。

 以上のようなデータ分析のインフラとして、すかいらーくはクラウドを活用している。クラウドのもう一つの活用分野がガストアプリだ。リリース後7カ月で300万ダウンロードを記録した人気アプリである。

 ガストアプリをインストールしている来店客は全体の10%を超えており、最大の媒体に成長した。チラシなどに比べると、費用対効果は圧倒的に高い。「今後の課題は省力化と効果の最大化。キャンペーンなどを1to1化することで、さらなる効果拡大を目指します」と神谷氏。2020年にはインストールしたユーザー数として3000万という目標を掲げている。

特別講演 |アイ・ティ・アール

ビジネスを加速するクラウド活用
活況時代だからこそ大切な導入の目的意識

金谷 敏尊 氏
アイ・ティ・アール
取締役/プリンシパル・アナリスト
金谷 敏尊

コンサルティング会社であるアイ・ティ・アール。そのプリンシパル・アナリストである金谷敏尊氏は、長く企業の経営とITを見てきた経験から、ITトレンドの中で今、クラウドがどのような状況にあるのかを語った。

 ITは、PCの時代からネットワーク・コンピューティングの時代へ切り替わり、そして2008年からはビッグデータとクラウドによる「スマート・コンピューティングの時代」へと移ってきている。我々の社会生活や企業活動において、IT活用はもはや当たり前、ITがコモディティー化(日用品化)している。金谷氏は、そうしたITのコモディティー化の波を受けて、企業のIT部門が果たすべき役割も大きく変化してきているという。


コモディティーにも差異化領域にも、クラウドで経営を加速する

 「具体的には、業務効率を支える従来型ITに対して、社内の要求が縮小しています。現在のIT部門には、より競争力の高いIT基盤を供給する社内サービス・プロバイダー、イノベーションを促進するビジネス・イネーブラとしての役割が強く求められています」(金谷氏)。そのためには、IT部門の組織が変わり、アジャイル開発などリーンスタートアップの環境整備が重要になってくる。

 クラウドは、まさにそうした環境の構築に向けて不可欠なITインフラだ。ビジネスで差異化が難しい領域には、ITの構築や運用に費やされる時間・労力を極小化しつつ、自社にとってのコア領域(差異化領域)には企業が経営資源を最大限に注力していく。クラウドはその両方で活用されていくだろう。

 「今後は、メールやグループウエアなど汎用的なビジネスプロセスに関わる部分はもちろん、例えばデータ連携やデータ分析の基盤といったものもクラウド利用によってアウトソーシングされていくことになります」と金谷氏は予想する。

 クラウドの利用形態も選べるようになってきた。今日では「パブリッククラウド」や「プライベートクラウド」だけでなく、パブリッククラウドのインフラを用いながら、WANやVPN、構内LANなどの閉域網接続に対応し、プライベートクラウドに向けた資源を提供する「仮想プライベートクラウド(VPC)」といった形態のサービスもある。企業は、従来のオンプレミスも含めて、これらの環境を適宜選択していくことができる。

近未来技術もリスク評価も、クラウドを正確に把握する

 「企業は、適用領域ごとに最適なシステム形態やサービスを採用し、ハイブリッドな形で利用していくことになるでしょう。それに加えて、例えばCloud OSやOpen Stackといった近未来の統合技術もしっかりと見据えた環境設計が必要です。そうした領域に強みを持つクラウドインテグレーターに支援を仰ぐことも重要でしょう」と金谷氏はクラウドの現状を語る。

 一方、依存の高まるクラウドに対して、もっとクラウドサービスのリスクを経営上明確に認識しておくことも必要だ。例えば、リソース共有環境におけるセキュリティー面でのリスクはもちろん、業界によっては監査に耐えうるサービスか否かといった点にも留意すべきだ。

 「ローコストのIT基盤として、あるいは迅速なビジネス開発・検証のプラットフォームとして、今日の企業にはクラウドの利用が強く推奨されます。そこにおいて重要なのは、経営視点での導入価値を明らかにし、目的意識を持って活用していくことにほかなりません」と金谷氏は重ねて強調した。