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戦略的IT投資が企業経営を変える!TOP INTERVIEW

TOP INTERVIEW |日本マイクロソフト

ITの構造は根本から変わりました。日本企業も過去のプロセスを捨て、世界一の潜在力を発揮すべき時です 日本マイクロソフト 取締役 代表執行役 社長 平野 拓也 氏 (Takuya Hirano)

2015年7月1日付で日本マイクロソフトのトップが交代した。現在、米マイクロソフトは昨年2月にCEO(最高経営責任者)に就任したサティア・ナデラ氏が中心となって、グローバル規模でビジネスの大変革を推進しているところだ。日本でトップの新社長に就いたのは平野拓也 氏。自社の強みを再定義し、時代の中心のクラウドやモバイルへビジネスを変容させる同社の姿勢は、日本企業の今後の在り方を問うているかのようだ。

――記者会見や講演などの場で「変革」という言葉を強調していますが、マイクロソフトの何をどう変えていくのでしょう。

 現在、ITサービス産業は大きな転換期を迎えています。少し前まではITを活用するというと、パソコンの前に座っていたわけですが、IoT(モノのインターネット)の進展によって状況が一変しました。ITを活用するデバイスがパソコンだけではなく、スマートフォンやタブレットはもちろんのこと、車や家電製品にも広がってきています。いまや、わざわざパソコンの前に行かなくても、いつでもどこでもITが使えます。ITに対するモビリティー(可動性)が急激に変わったのです。

クラウドとモビリティーで
人を中心に発想を転換

 これまでは、ITを活用するための共通のプラットフォームはOS(基本ソフト)でしたが、今後は、その役割がクラウドに移ってくるでしょう。パソコン用のOSとオフィスソフトで大きなシェアを持っているマイクロソフトは、パソコンというプラットフォームではリーダーの座に位置していましたが、ほかのプラットフォームではチャレンジャーの立場にあります。

 クラウド・コンピューティングとモビリティー・コンピューティングにおいて、お客様に最高のエクスペリエンス(経験)を提供し、リーダー企業となる――これがマイクロソフトの基本的な戦略であり、この実現に向けて、さまざまな改革に取り組んでいるのです。

 その象徴が、この7月にリリースした「Windows 10」です。対象条件を満たすWindows 7や同8.1の利用者は、この新OSの提供開始から1年間、無償でアップグレードできます。いわゆるフリーミアムと呼ばれているモデルと同様です。Windows 10からは今後、大きなバージョンアップは行わず、利用者はクラウドを通して常に最新の機能を利用できるようになります。マイクロソフトでは、この取り組みを「Windows as a Service」と呼んでいます。

 ITのプラットフォームがパソコンだった時代の経営戦略や製品戦略は、パソコンを中核に据えて立案すればよかったのですが、モビリティーが大きく広がる今後は、人を中心とした考え方が必要になります。マイクロソフトにとっては、Windowsにとどまらない新しいエコシステムの構築が求められます。

2年以内にクラウドの比率を
売上高の半分まで引き上げる

――これまではWindowsとOfficeのソフトライセンス収入を大きな柱としていたわけですが、一気に舵を切れるものなのでしょうか。

 確かに、これまではWindowsとOfficeを守ることが重要でしたし、そのようなマインドを持った従業員も少なくないと思います。

 しかし昨年、米国でナデラがCEO(最高経営責任者)に就いてから、Windowsで囲い込むような戦略から脱却し始めていますし、従業員のマインドも変わりつつあります。なにしろ、ナデラは「アイ・ラブ・リナックス」(リナックスはWindowsの競合OSに当たる)と書かれたTシャツを社内で着ているくらいですから。

 従業員に意識と行動を変えてもらうために、私は社内で3つのことを言っています。1つ目は、行動規範として、お客様に喜んでもらうことを何よりも重視するということです。もちろん売り上げも大切ですが、マイクロソフトはチャレンジャーの立場なので、まずはお客様からの信頼を得ることが、非常に重要です。

 2つ目が、クラウドとモビリティーの分野でリーダーを目指すということです。この2つに当てはまらない仕事は、プライオリティーが低くなります。そして3つ目が、この2つを達成するための最短距離を探すことです。

 実際、従業員の意識は変わってきていると思います。従業員の間にワクワク感が巻き起こっていると感じることも確かです。

 これまでは、お客様に対してWindowsというプラットフォームの上でのビジネスしか提案できませんでした。しかしクラウド上では、その制限がなくなるため、幅広いアイデアを提示できるようになります。お客様に対して最も良いエクスペリエンスを提案できるようになることを、従業員が期待しているのだと思います。

 細かい数字は公開できませんが、クラウド事業の売り上げは急速に伸びています。日本マイクロソフトでは2年以内に、クラウド事業の比重を売上高全体の半分にまで高めることを目標としています。

顧客へのインパクトを重視
プロセスは後から考える

――顧客に喜んでもらう提案というのは、具体的にどのようなものなのですか。

 端的にいうと、インパクトを重視するということです。お客様のビジネスを本質的に成長させるインパクトポイントを探し出して、そこを起点にプロセスを組み立てるのです。

 当社に限りませんが、お客様に提案をする際には、社内でさまざまなプロセスを経ることになります。例えば、何らかの問題解決のために当社のイベントを視察しに来たお客様がいると想定しましょう。ここで、このお客様とマイクロソフトの従業員がコミュニケーションをとっても、後でお客様のプロフィルを確認したり、社内の他部門と調整したりといったプロセスがあり、実際に情報を提供するのは2週間も経ってから、ということになります。

 しかし、お客様からすると、せっかく足を運んだのですから、すぐに情報がほしいと思っているはずです。だったら、24時間以内に提案できることを前提として、プロセスを作ればよい。実際、現在のマイクロソフトでは、24時間で情報を提供できるような体制を築いています。

 社内には、さまざまなプロセスがあり、これを守ることも大切です。しかし、まずはお客様へのインパクトを重視して、それを実現するために最大限に努力することが重要です。こうすることによって、お客様のビジネスが成長しますし、その結果として我々のビジネスも成長していきます。

潜在能力を持て余している
日本企業はもったいない

 私は、社長に就く前に3年間、中央・東欧州地域を統括してきました。外から日本企業を見た際に、強く感じたことがあります。それは、日本企業の仕事に対するクリエーティビティー(創造性)やクオリティー(品質)、コミットメント能力の高さです。これらは世界でもトップクラス、いや世界一といっても過言ではありません。

 こうした能力の高さと同時に社内のプロセスを重んじることも日本企業の特徴だと思います。外から日本企業を見ていて、プロセスを重視しすぎるあまり、本来の能力が十分に発揮できていないことがあり、もったいないと感じていました。

 それぞれの企業が、自社のビジネスを成長させるインパクトポイントを明確にして、それを達成するために既存のプロセスを見直していくことが重要なのではないでしょうか。これを実践すると、会議の仕方や意思決定方法、リスクの取り方や確認方法などが変わってくると思います。

 マイクロソフトとしては、お客様のこうした取り組みをお手伝いしていくことが使命なのです。そして、日本企業の成長に貢献し、その結果としてマイクロソフトを成長させていくことが、私の務めだと考えています。

平野 拓也
1970年、北海道生まれ。父は日本人、母は米国人。95年に米ブリガムヤング大学卒業後、兼松米国法人に入社。98年に米アーバー・ソフトウエア(米ハイペリオン・ソフトウエアと合併)に入社。2001年にハイペリオン(日本法人)の社長に就任。05年にマイクロソフト(現日本マイクロソフト)に入社。11年から3年間、米マイクロソフトの中央・東欧州地域をゼネラルマネージャーとして統括。14年に日本マイクロソフトに復帰し、執行役専務、代表執行役副社長を経て、15年7月1日付で取締役 代表執行役 社長に就任した。