日経テクノロジーonline SPECIAL

コア技術活用の勘所を知るキーパーソンが語る(1)

コア技術活用の勘所を知るキーパーソンが語る(1)「新世代エネルギーシステムを支える分散型電源、その普及の鍵を探る」

原子力や火力を使った大規模集中型電源に偏った電力システムが抱える問題点が顕在化してきた。施設の潜在能力に比して効率のよい利用が出来ない点や、地球環境保護や燃料確保の見地から継続性に難点があることが指摘されている。こうした問題点の根治に向けて期待されているのが、家庭やオフィスなど需要側に電源を配置する分散型電源の普及である。2014年10月7日、CEATECの会場内で開催された「新世代エネルギーシステムを支える分散型電源、その普及の鍵を探る」と題したパネルディスカッションでは、分散電源の意義や普及に向けた条件が徹底討論された。

柏木隆夫氏
東京工業大学 特命教授 
東京都市大学 教授
岡田剛和氏
村田製作所
執行役員 技術・事業開発本部
デバイス開発センター センター長

モデレータ 原子力や火力などの大規模集中型電源の限界が垣間見えるようになった。その一方で、再生可能エネルギーの系統への導入が困難として、電力会社が音を上げて始めている。こうした中、2016年には電力の、2017年にはガスの小売全面自由化を控えている。こうした状況を踏まえて、現在の電力システムが抱える問題点についての考えを聞きたい。

柏木 2020年の東京で開催されるオリンピック、パラリンピックに合わせて、エネルギーシステムが一気に変わるだろう。特に電力において顕著に変わる。このことは日本政府のエネルギー基本計画の中にも、きちんと明記されている。これまでの電力システムは、需要のピークに合わせて供給を増強することだけを考え、大規模集中型電源に依存していた。これを、需要を制御し、同時に太陽光や風力、コージェネレーション、燃料電池など、需要環境に応じて最適化した規模の分散型電源を併用するシステムへと変えてゆく。

電力の小売が自由化されると、電力料金は総括原価方式で決まらなくなる。すると、銀行融資が困難になり、大きな発電所を建てにくくなる。大規模集中型は徐々に老朽化していくので、自然と分散型電源へと置き換わるだろう。

岡田 これからは、家庭やオフィスなど分散電源を持つ需要側が制御することになるだろう。そして、電力の小売が自由化すると、商品としての電力がコモディティ化すると考えている。これまで家庭などでは、コンセントなどから電力を一方的に使うだけだった。それが、家庭の中で需要と分散型電源を制御し、不足分と余剰分を系統と連携してやり繰りできるようになる。そこに、私たちが開発した「次世代型スマートハウス向けエネルギーシステム」の技術を活かすことができる。利用する電源を瞬時に切り替え、電力を消費する機器の稼働状況を制御するシステムだ。その効果を実証実験で確かめ、商品化に向けて準備を進めている。

柏木 電力需要のピークに合わせて発電所を作ることが、いかにおかしなことなのか、気が付き始めた。エアコンなどピーク値を引き上げる家電製品の普及に合わせて大規模な発電所を建設すると、稼働率が悪くなるのは当然だ。現在の発電所の稼働率は、56%に過ぎない。デジタル技術を使って、電力需要の調整や分散型電源の利用状況を細かく制御できる装置が家庭やオフィスの中に入ってくれば、不安定な電源を制御し、安定して使えるようになる。

岡田 これまでの家庭用太陽光発電システムは、作った電力を、いかに系統に売電するかに主眼を置いて開発されていた。本来は、発電した電力は、発電した家庭で使うことを前提に開発すべきだ。余剰な電力が生じた時にも、いきなり系統に売るのではなく、まず近隣の家庭も含めたコミュニティの中でやり繰りする方が効率的ではないか。

「デマンドレスポンス」が主流に

モデレータ 次は、エネルギーシステムの将来像について考えたい。

柏木 私の計算では、大規模集中型電源からの電力供給は96%を占めている。分散型電源は、太陽光発電が伸びているものの4%程度に過ぎない。ただし、2020年を境に、急激に分散型の割合が増え、2030年には分散型30%、大規模集中型70%になると見ている。分散型を30%まで高めれば、非常時にも生命維持できる状態になる。さらに、産業創出にもつながる。現在の電力市場の規模は17兆円であり、約6兆円の新市場が電力会社以外の企業や個人に生まれることになる。こうした事業としての利点が明確に見えれば、分散型の割合は確実に増えることだろう。

技術の進歩もこの動きを支える。これまでは熱機関を基にした発電が中心であり、原理的に大規模であるほど高効率だった。これからは、光電変換を基にした太陽光発電、電気化学反応を基にした燃料電池のように、発電の原理が根本から変わる。これによって分散型の発電効率は、大規模集中型と比較して遜色がなくなる。分散型の半分を占めるコージェネレーションの発電効率も50%まで向上するだろう。

岡田 新しい電力システムの運用手法であるデマンドレスポンスには、電力会社が需要に応じて時間制で電力料金を決める方法と、供給が追いつかない時にインセンティブを払って需要を減らしてもらう“ネガワット”と呼ぶ方法がある。このうち、時間制で電力料金を決める方法が効果的であることは、実証実験で確認されている。ただし現在は、家庭の中で電力の使用状況を見える化し、人手で家電製品の利用を調整している。これでは、継続的な効果は望めない。ここは、ICT技術を利用して、家の中の電化製品の稼働状況を自動的に調整する必要があると考える。

モデレータ 村田製作所が開発した「次世代型スマートハウス向けエネルギーシステム」は、「横浜スマートセル・プロジェクト」で実証実験をしたと聞いている。どのような制御が可能なシステムなのか、紹介してもらいたい。

岡田 「次世代型スマートハウス向けエネルギーシステム」は、太陽光発電、バッテリ、小規模の燃料電池、コージェネレーションなど、複数の分散型電源を制御し、系統からの電力も合わせて自在に電力の需給をやり繰りするシステムである。運用時に使う電源の内訳は、設定を自由に変えることができる。例えば、購入する電力の絶対値を設定しての、ピークカット。また、太陽光発電やバッテリの利用を、使用量の何割にするのか時間ごとに設定しての制御などが可能である。ダイナミックプライシングが導入されれば、電気料金が高い時間帯の購入を控えることが簡単にできる。実証実験を通じて、このシステムの効果が、思い通りに得られることを確認できている。

柏木 デマンドレスポンスのもう一つの方法である、ネガワットの販売にも活用できるのではないか。家庭内の電気機器に優先順位をつけて需要を減らすことで、効果的かつ自動的にネガワットを生み出すことができるだろう。既に多くの住宅メーカーが、家庭と電力会社の間を取り持つアグリゲータになるべく画策している。