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コア技術活用の勘所を知るキーパーソンが語る(2)

コア技術活用の勘所を知るキーパーソンが語る(2)「 電力変換ロスをなくせ!高圧直流給電技術の最新動向」

電力の利用効率を高める手段として注目の集まる直流給電。中でもデータセンタや地域レベルなど高圧の電力を必要とする需要家への直流給電は、大きな効果が期待できるものの、普及のペースは鈍い。2014年10月9日にCEATEC JAPANの会場内で開かれたパネルディスカッション「 電力変換ロスをなくせ!高圧直流給電技術の最新動向」では、普及が進まない原因は技術面よりもビジネスモデルにあると指摘。コミュニティ単位での成功事例を積み重ねていくことが重要と提言した。

田路 和幸氏
東北大学大学院 環境科学研究科  教授
森島 靖之氏
村田製作所
パワーモジュール商品事業部 事業部長

モデレータ 直流給電について皆さんの現在の取り組みから教えてほしい。

森島 村田製作所では今回のCEATECで、直流給電をデータセンタのサーバラック内で完結させたシステムを展示した。三相の交流電源に対応したPFC(power factor correction)コンバータやDC/DCコンバータなどをサーバラック内に搭載したものだ。PFCコンバータで380Vの直流に変換した電源を、DC/DCコンバータで12Vに変換して各サーバに供給している。

現在、直流給電が必要とされているのは、やはりデータセンタだ。データのトラフィック増大に伴い使用電力が急速に増えているのでエネルギー効率を上げなければならない。。このために直流給電は大きな効果をもたらす。今回当社が開発したシステムは、サーバラックの中で直流給電を実現しようというもので、集中的に変換することでエネルギー効率を高めている。実証実験では10%~20%もの効率が上がったというデータも得られた。

田路 東北大学では6年前から直流給電の研究に取り組んでいる。環境問題に対応するためには、再生可能エネルギーの導入だけでなく、エネルギー消費の絶対量を抑えることも必要だ。それには直流給電が有効と考えている。

研究を始めた当初、扱う電圧は48Vだった。良い結果が得られたが、社会全体に普及さえることを前提にすると、もっと電圧を高める必要がある。高現在は300Vの高圧直流給電を研究している。

直流給電は、現在ある技術を少し応用すれば実現可能と考えている。あるメーカに協力してもらい、実際に直流で出力するパワーコンディショナと直流電源を使うエアコンを試作した。このときに、大きな技術的な“壁”はなかった。

小さな街ならすぐにも実現可能

モデレータ 技術的なハードルはそれほど高くないとすれば、直流給電の普及を阻む要因はどこにあるのか。

田路 「電力の供給源は電力会社」という考え方が、阻害要因なのかもしれない。そうした前提を、そろそろ捨ててもいいのではないかと思っている。

スマートコミュニティのようなエネルギーの地産地消の取り組みがあちこちで始まっているが、いずれも電力会社からの交流電源がベースだ。直流給電をベースにし、足りない分だけ電力会社から買うという直流給電型のスマートコミュニティがあってもいいのではないか。小規模なコミュニティであれば、技術的には今すぐにでも可能なはず。

森島 直流給電で誰もが心配するのは、安全性の問題だろう、しかしそれはすでに技術的に解決のめどがたっている。

直流給電で効率が上がることは認識されているのに、現実はデータセンタでさえ導入が進まないのは、直流給電にマイグレーションするためのビジネスモデルが確立されていないからではないか。「三方良し」という近江商人の言葉がある。直流給電は省エネルギーなので「世間」にとって良いことは明らかだが、「売り手」と「買い手」の双方がメリットを感じるようなビジネスモデルがまだ確立していない。それが普及を阻む要因のように感じる。

もう一つの阻害要因は、電圧など直流給電の規格が定まっていないことにあると考える。電圧については、380Vあたりで自然と収れんするのではないかと思うが、いずれにせよ標準化は必要だ。しかし国際的な標準化作業は、日本のメーカが弱いとされているところ。海外もユーザへの啓蒙活動も重要なのではないか。

田路 民間普及を進めるには標準化は不可欠。ただ400V以下については導入に関する特別な制限はないので、このあたりの導入は進んでいくと見る。

400V以下の直流給電のシステムを考えるうえで、蓄電池の位置付けがポイントになってくると思う。再生可能エネルギーの不安定さを補うためにスタビライザとして蓄電池を使うことを考えると、電力の供給側だけでなく負荷側にも、蓄電池はなくてはならない。その条件を高圧領域で満たすのはEV(電気自動車)のバッテリだ。EVのバッテリは約300V。これが直流給電の電圧を決める一つの要素となってくるだろう。