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コア技術活用の勘所を知るキーパーソンが語る(3)

コア技術活用の勘所を知るキーパーソンが語る(3) 「モノ、ヒト、環境のセンシングがもたらす社会イノベーション」

センサの小型化・高機能化で、生活のあらゆる場面にセンサを配置することが可能になった。現在の大きな課題は、それらをネットワークで結び、社会にイノベーションをもたらすような画期的なサービスをどう実現するかという点にある。2014年10月10日にCEATEC JAPANの会場内で開催されたパネル・ディスカッションでは、センサとネットワークの存在をユーザに意識させないことが、新しいサービス実現に不可欠との考えでパネリストの意見は一致した。

田中 芳夫氏
東京理科大学大学院
イノベーション研究科 教授
児堂 義一氏
村田製作所
デバイス事業本部 センサ事業部
事業部長
長谷川 聡氏
ユビキタス
取締役事業本部長

モデレータ センサのネットワークによる社会イノベーションを考えるうえで、田中さんが設立から携わっている「ものこと双発学会」の活動は興味深い。

田中 イノベーションを起こすには、製品という「もの」だけでなく、サービスという「こと」も重要だ。つまり、「もの」と「こと」を一体にした提案力が欠かせない。そこで両者の協働を推進するためにこの学会を立ち上げた。1980年代~1990年代に日本は、「Japan as No.1」と世界からもてはやされた。その存在感を取り戻すためには、「もの」と「こと」の双発で新しい産業を興す必要がある。

児堂 センサネットワークに何が必要か考えたとき、日本の場合「もの」は既に揃っている。加速度や光などさまざまなセンサを提供している日本のメーカーは多い。しかも数mm角という小型化も実現している。それをつなぐ無線ネットワークも、RFIDや無線LANなど多種多様な方式を選択でき、センシングした結果をクラウドにアップロードすることも容易だ。

しかし「こと」になった途端、日本は弱くなる。センシング技術を応用したサービスビジネスへの広がりには、スマートシティやBEMSなどがあるが、いずれも実証実験レベルに過ぎない。「もの」と「こと」が双発になっていないのが実情だ。

長谷川 センサの情報は、ローカルに蓄積しても使い道が限られる。クラウドにアップロードできるようでなくてはその価値は高まらない。センサの情報をどう取得して、どのように溜めて、どう使うかというところに、一つのビジネスが成り立つと考えている。当社はそのようなサービスのプラットフォーム作りに取り組んでいる。

モデレータ サービスやビジネスを作るうえでの課題は。

長谷川 一つに消費電力の問題がある。無線ネットワークはいずれの方式も電力をそれなりに消費する。またプロトコルに何を使うかという点も課題だ。TCP/IPは重くてセンサには向かない。用途によって異なるプロトコルを併用する場合、データをどのようにまとめてクラウドに送るかという部分で、検討すべき点が多い。

センサネットワークの目的はQOL向上 

モデレータ 現実に動いているセンサネットワークはどのようなサービスを実現しているのか。

田中 実社会の物体や状況をセンシングして、それを解析して高度に利用している事例が多い。多彩なセンサ情報を自動学習や解析によって診断し、交通や災害対策などのインフラ改善、店舗経営など実社会に反映させるというサービスを実現している。センサネットワークによるスマートシティと言えるだろう。

児堂 スマートシティが目指すのは、やはり住民のQOL(quality of life、生活の質)向上だ。人の生活や動きをサポートし、目に見えないものを見える化するのがセンサネットワークの役割と考えている。

これを実現するため、当社では多彩なセンサを提供している。一部は今回のCEATEC JAPANでも披露した。例えばMEMS気圧センサは、高さの変化を10cmレベルで検知できるため、階段の昇降さえも読み取ることが可能だ。ビルの中でのナビや、高精度の活動量計などに生かせるだろう。

またフィルム温度センサは、0.55mm厚という薄さが特徴で、モバイル機器やウェアラブル機器など測りたい対象に抵抗なく貼ることができる。光センサは、それを活用した脈拍検知システムを提案した。人が動いている最中に脈拍を光センサで測ろうとすると、従来はノイズが大きく正しい結果が導き出せなかった。今回展示した光センサは、そのノイズを除去するアルゴリズムを搭載している。これらのセンサを使うことで、QOLの重要な要素である健康の維持に役立てる機器を開発できるだろう。

ネットワークはスマートフォンを活用

モデレータ センシングした情報を具体的にどうアップロードするかについても、考えなくてはならない。

長谷川 センサ一つひとつはシンプルで単機能。ウェアラブルデバイスになると、一つのデバイスが搭載するセンサは多種多様で、みんな機能が違う。それらすべてにネットワークに直接つながる機能を持たせるのは、消費電力を考えても無理がある。

そこでネットワークに接続する部分には、普及したスマホを使うのが現実的と考える。センサはセンシング機能に特化し、センシングした情報をスマホ経由でクラウドに上げるのが理想ではないか。「もの」が持つデータをセンシングし、クラウドに上げることで「こと」に変化させることができるだろう。

情報を計算する機能もクラウド側に持たせれば、ビッグデータ化することができ、その処理結果を「もの」にフィードバックすることができる。単機能な一つひとつのセンサが、自然に高機能化する流れを作り出すことも可能だ。