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熱を帯びる自動運転技術の開発競争、ウイーン交通条約改正でついに合法化

本来、人間よりも機械の方が、衝突回避限界が高く、無駄のない運転ができる。自動車の電子制御技術と環境認識技術の進歩によって、人間が運転するよりも、自動運転の方が、メリットが大きいとみなされるようになってきた。自動車業界にとっては、新しい商機が生まれ、これまでとは違った論点での技術開発競争が始まった。その一方で、自動運転車が事故を起こせば、自動車メーカーの責任のウエートが高まるのは必定である。このため、これまで以上に、高度な安全対策が求められている。

180km/時で突っ込んでも停止できる

実吉 敬二氏
東京工業大学
放射線総合センター
准教授 理学博士

東京工業大学 放射線総合センター 准教授の実吉敬二氏は、運転者を支援する衝突回避システムから自動運転車の目へと進化しつつある、ステレオカメラの開発動向を解説した。同氏は、約20年前から、富士重工業でステレオカメラを使った衝突回避システムの開発に従事してきた。

実吉氏は、衝突回避に向けて自動車の周辺環境を検知するための数ある方法の中で、「ステレオカメラを使った方法はダントツの性能があります」としている。周辺のモノの空間内での配置を直接認識できるステレオカメラは、単眼カメラとは異なり、パターン認識をする必要がない。この特徴が、迅速な認識と制御を可能にする。既に、取り込んだデータを、FPGAを使ったハードウェア回路で処理することで、60フレーム/秒の画像をリアルタイム処理できるまでになっている。そして、時速180kmで壁に突っ込んでも、確実に止まる性能が実現できているという。

さらに「条件がよければ、技術的には既に自動運転への適用が可能な状態です」(実吉氏)という。ただし、より安全性を高めるためには、周辺にある人やモノの境界を確実に判別できるようにする必要がある。今後の開発のポイントは、空間分解の向上にあるとした。コストに関しても、「既にかなり安価に生産できる状態に達しており、2015年には商用システムが登場するのでは」(実吉氏)としている。

技術開発の目標レベルに地域差

青木 啓二氏
日本自動車研究所
ITS研究部
主席研究員

日本自動車研究所 ITS研究部 主席研究員の青木啓二氏は、既に実現している運転支援と自動運転の違いを明確化。その上で、運転者が目を離しても安全性を維持できるようにするために必要な技術と現状の技術開発動向を解説した。

自動車技術協会(SAE)の自動運転標準化委員会では、自動運転技術をレベル0からレベル5までの6段階で定義している。青木氏によると、「日本の自動車メーカーは、運転者による判断を主とする運転支援に当たるレベル2の技術開発に注力しています。これに対し、欧州のメーカーは主にシステムが認識や制御を行うレベル3、米Google社など米国のメーカーは完全なる自動運転を目指したレベル4やレベル5の実現を目指した技術開発を進めているように見えます」という。それぞれのメーカーが抱える主な市場の状況を反映して、自動運転技術の開発に温度差があると指摘した。

ただし、レベル3以上の自動運転を実現するためには、現時点で実現していない技術や、精度が足りない技術が数多くあるという。例えば、既存のレーダーやカメラなどセンサーは、レベル3以降に向けた安全性を天候に関わらず確保できる性能はない。しかし、この分野の技術開発は、着実に進んでいることも具体例を挙げて付け加えた。

さらに、地図情報を利用するための技術や人工知能の技術も、これからさらに高度化していかなければならない分野だと指摘した。ただし、技術開発の目標を高く掲げている欧米の企業での取り組みは思いの外進んでいるという。例えば、欧州ではクラウドとの連携の部分の標準化を狙い、Google社など米国企業は人工知能の分野で圧倒的なノウハウを蓄積しつつあるとした。