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【dSPACE】制御ソフトのモデルベース開発、ツール連携で効果と効率をさらに向上

走る、曲がる、止まるといった自動車の基本機能の制御に加え、先進運転支援システム(ADAS)のような高度なシステムはソフトウェアが実現性を左右する。制御ソフトの開発は、自動車メーカーにとって莫大な開発費、長い開発期間、多くの人材を投入する最重要開発項目になってきた。dSPACE Japan 代表取締役社長の有馬仁志氏は、効果的かつ効率的な制御ソフトの開発に向けて、モデルベース開発の有効性を強調。その最先端の活用法を解説した。

有馬 仁志氏
dSPACE Japan
代表取締役社長

先進国向けの自動車には、ECUが50個近く搭載されるようになった。これからもさらに増え続けていく傾向にある。これらECU上では、多種多様なソフトが動いている。自動車のさまざまな機能を担うソフトを開発するための研究費は年々増えてきている。

しかも自動車の中のECUは、車載ネットワークを介して莫大な情報を交わし合い相互連携しながら動くようになった。その結果、制御ソフトの動作を検証するための検証が、極めて複雑かつ困難になった。しかもソフトの検証には、機能安全への対応、開発コストを押し上げる要因となる試作車両の削減、市場投入までの期間の短縮も、同時に求められている。

モデルベース開発の利点を余さず提供

車載システムのソフト検証にかかわる課題を解決するため、モデルベース開発に注目が集まっている。有馬氏は、モデルベース開発の有用性を、詳細に解説した。

モデルベース開発は、ECUの制御ロジックや制御対象(プラント)の振る舞いを計算式で表したモデルを起点として、ECUの実機や試作車がない開発の上流でも確度が高い設計・検証を可能にし、仕様を確実に反映したソフトを開発する手法だ。制御対象のモデルとコントローラの2つのモデルをPC上のシミュレーションのみならずその後の工程にも使用し開発(設計と検証)を行う(図1)。dSPACEは、こうした制御ソフトのモデルベース開発を、シームレスに進めるためのツールチェーンを提供している。

図1 モデルベース開発(MBD)における2つのモデルと実機の関係
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モデルベース開発を導入するメリットは多岐にわたる。

まず、モデルを使って設計・検証することによって、開発者が直感的に理解しやすくなり、またアイデアを共有しやすくもなる。モデルは、仕様を明確に記述して作るため、誤解釈の余地もない。

また、シミュレーションを使って振る舞いを検証することで、実機を用意する必要がない、製作が困難なモノを検証対象にできる、異常な状態を簡単に再現できる、実時間よりも速く検証結果が得られるといったメリットが出てくる。

さらに、コンピューターの進歩によってリアルタイムでの検証が可能になり、実物とモデルを、開発状況と検証目的に応じて置き換えることもできる。dSPACEが提供するツールチェーンならば、こうしたメリットを余すことなく得られるという。

Euro NCAP 準拠の検証を自動化

有馬氏は、Vサイクルのプロセスの中で、同社が提供するツールがどのような効果を発揮するのか、テーマを絞って解説した。

まず、Vサイクルの後半、開発した制御ソフトを組み込んだECUの実機をプラントのモデルを使ってリアルタイム検証する「HIL(Hardware In the Loop)」のプロセスの例。dSPACEは、ここに向けたHILシミュレータ(HILS)「SCALEXIO」を提供している。

HILSを使えば、試作車が無くても検証が可能であり、しかも実車を使ったらとても不可能なほど多くの条件で検証できる。このため、検証の網羅性を飛躍的に高めることが可能である。さらに、定型化したテストを自動化できるメリットも見逃せない。米Ford Motor社のデータでは、50個以上のECUを対象にして、1万以上のテストケースについて、約1800のCANの信号を検証した場合、エンジニアが2週間半掛けて行っていたテストを、2日半で終えることができたという。Euro NCAPのような定まった項目、条件での検証に大きな効果を発揮する。

HILSには数多くのモデルが必要になる(図2)。例えば車両ダイナミクス制御用ECUの検証をする場合には、要求される自動車の挙動を記すモデル、ドライバーによる操作を再現するモデル、ペダルなどの動きを検知してECUに信号を送るセンサーのモデル、ECUが出力する制御信号で車両を動かすアクチュエーターのモデル、車両の挙動を検知してECUにフィードバックするセンサーのモデル、そして路面の状況といった環境を再現するモデルがそれぞれ必要になる。dSPACEはこうしたプラントモデルなどを「Automotive Simulation Models(ASM)」として提供している。すべて業界標準のモデル作成ツールである「MATLAB/Simulink」で開発したものであり、ユーザーがチューニングして使うことができる。

図2 HILSを使った車両ダイナミクス制御用ECUの検証
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モデルベース開発をさらに強化

近年、ADASや機能安全など、システムの複雑化に拍車を掛ける要因が増えている。また、車載ネットワークを介したECUの連携動作もより複雑化している。このため、これまでのモデルベース開発をさらに強化・発展させる必要が出てきた。dSPACEは、こうした要請に応える解として、「『仮想検証(Virtual Validation)』の活用を提案しています」(有馬氏)という。仮想検証は、ECUもプラントも完成していないVサイクルの前半で、手持ちの開発資産を使ってパソコンベースでのシミュレーションを行い、手戻りを極力減らす手法である。同社は、仮想検証に向けたツールとして、「VEOS」を提供している。

VEOSは、MATLAB/Simulinkで作ったモデル、量産コードの生成ツール「Target Link」で生成したコード、「AUTOSAR Virtual ECU」のモデル、「Functional Mockup Interface(FMI)」に準拠したモデルを使って検証できる。また、dSPACEのツールチェーンに含まれる、計器とシミュレーションを制御するツール「ControlDesk」、検証の自動化と評価を行うツール「AutomationDesk」、パラメーター設定ツール「Model Desk」、3Dアニメーションでシミュレーションの結果を表示するツール「MotionDesk」のそれぞれからアクセスできる。

モデルの標準仕様FMI に対応

車載システムの規模が大きくなり、ソフト開発が複数の部署・企業にまたがって行われる開発事例が増えている。そして、それぞれの部署・企業が異なるベンダー製のツールを使って開発したモデル資産を保有しているケースがある。ソフト開発を効率化するためには、こうしたモデル資産の有効活用が欠かせない。「モデルの交換、統合、再利用を容易にするために、モデルのオープンな標準インターフェース規格であるF MI に注目が集まっています」(有馬氏)。

dSPACEでは、2014年にVEOS、SCALEXIO、モデルベースデータ管理ツール「SYNECT」でFMIに対応した。そして仏Dassault Systemes社の「Dymola」や独ITI社の「Simulation X」などで作ったモデルと連携して、FMIのワークフローが円滑に動作するための取り組みを進めている。

これまで、Vサイクルの各プロセスを担当する部署ごとに使うツールが違っていたため、連携・効率が悪い場合があった。VEOSを起点として、プラントモデルをASMに、制御モデルをTargetLink対応に統一することによって、開発効率は劇的に向上する。そして、必要に応じてFMI準拠のモデルを加えて解析することで、より詳細な検証が可能だ。

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