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一歩先行く未来の工場へ。e-Factory ICTとFAをつなぐ先進モデル工場

工場の機器や設備からセンシングした大量のデータを活用し、工場全体を自動的に最適化しようという取り組みがものづくりの世界で進んでいる。そのビッグデータ活用の効果を具体的に示しているのが、三菱電機名古屋製作所のサーボモータ工場だ。同社の基幹事業を支えるFA(Factory Automation)技術を駆使。生産性向上や省エネなど、ものづくりの現場が直面する基本的な課題を先進的なアプローチで解決している。

三菱電機名古屋製作所の本拠地にあるサーボモータ工場は、同社が提供している様々なサーボモータのうち中・小容量の回転型サーボモータ「HGシリーズ」の生産を担当している(図1)。同工場の注目すべき特徴は、同社が2003年から推進しているものづくりのための統合ソリューション「e-F@ctory」を率先して導入している点だ。e-F@ctoryは、FAとICT(情報通信技術)を融合した先進的なプラットフォームをベースに、ものづくりの現場に様々な革新をもたらす。それをいち早く実践している同社サーボモータ工場では、e-F@ctoryの先進性や優位性を目の当たりすることができる。

図1 名古屋製作所の全景とサーボモータ

同工場では、生産設備の機器やセンサからの膨大なデータを、CC-Link/CC-Link IEなどのFAのネットワークを介して、リアルタイムにICTのシステム側に蓄積するシステムを構築している。同社の主力製品の一つである「MESインタフェース」は生産現場とICTのシステム側のデータ転送に必要な、プロトコル処理機能を内蔵しており、シームレスなデータ通信が可能だという(図2)。さらに収集したデータを解析して、様々な情報を抽出。その情報を分かりやすいかたちで現場にフィードバックすることで、現場における改善や課題の解決を実現している。具体的には、2005年から3つの観点でe-F@ctoryによる改善活動を進めている。すなわち、「生産性や品質の向上」「機器や装置の予防保全」。そして「省エネ」だ。

図2 先進的な生産システムを支えるネットワーク・システム

効率的な原因究明で垂直立ち上げ

生産性や品質の向上を果たした事例の一つが、装置の安定稼働を妨げる原因の分析だ。生産現場の装置が停止した事象を、停止理由、停止時間、その発生回数、発生時の製品の種類など様々な情報を同時に自動的に収集し記録して分類。発生頻度が多く、停止時間も長い事象から優先的に改善を施すとともに、製品の種類やラインによる発生傾向などを分析して原因を特定することにより、短期間で設備の稼働率を高めた。この手法は特に新規に設備を立ち上げる際に効果的だという。

原因分析は、装置の不具合に限らず、製品の不良についても実施している。製造したサーボモータの一つひとつに個体番号を付与。その個体番号ごとに各種の品質データを蓄積している。そのうえで品質データが規格値を超えて不良とされた製品が、どの個体番号の辺りに集中しているかを分析する。こうして問題が発生している個体番号をあらかじめ絞ったうえで、不良の発生に関連しそうなデータや、もともとバラツキの多い部品データなど突き合わせて相関関係の有無を調べることで原因を特定する。

従来は、部品のサプライヤが提供する検査データをもとに、ロット単位で品質を管理していた。ところが、この手法ではデータの入手や解析に時間を要することから、生産現場で問題が表面化してから、対策を講じるまでに4週間~8週間を要していた。ここにe-F@ctoryを駆使して個体ごとに管理するシステムを導入したことで、その期間を約1週間と大幅に短縮。ロット単位から個体単位で品質を管理することで、不良の発生によって生じる製品のロスも格段の減らすこともできた。

出荷検査の効率と精度を向上

出荷前検査の自動化も、生産性や品質の向上において大きな効果をあげている(図3)。製造工程内の試験機で計測した耐圧や抵抗などの試験データをサーバに集約。個々の製品の出荷可否を自動的に判定するシステムである。出荷検査の工程で製品に個体認識用に印刷された2次元バーコードをスキャンし、サーバにある出荷判定の結果を参照することで、出荷基準に満たない製品を排除する。

図3 自動化された出荷検査工程

従来は、工程内で実施する試験の担当者が結果を帳票に記し、その帳票をもとに出荷検査の担当者がチェックし出荷可否を判定していた。この場合、帳票への記入ミスや検査漏れ、結果の判断ミスなどのヒューマンエラーを完全に防ぐことはできない。このプロセスをe-F@ctoryの仕組みを利用して自動化することにより、基準に満たない製品を絶対に市場に送り出さないようにする体制を一段と強化した。

同工場では、試験前の条件登録の段階で発生するヒューマンエラーを防ぐシステムも実現している。試験の条件を手入力するのではなく、サーバからダウンロードするだけで済むようにした。これはe-F@ctory のプラットフォームを利用して、設計情報や品質情報を管理しているPDM(製品情報管理、Product Data Management)システムと生産現場にある試験設備を連携させることによって実現したものだ。

さらに、この検査工程の注目すべきは、現場で使う情報端末として同社が「C言語コントローラ」と名付けて展開している先進的なシーケンサが活躍していることだ。C言語コントローラは、既存のシーケンサの機能に加えてパソコンやマイコン向けにC言語で開発したソフトウエアを実行できる環境を備えている。製造現場での使用を前提に設計されたシーケンサは、もともとオフィス向けに設計されたパソコンよりも、より信頼性の高いコンピューティング環境を提供する。しかも、C言語コントローラを情報端末として活用することで、より合理的なe-F@ctoryのプラットフォームを構築できる。同工場の検査工程は、まさにこれを実践しているわけだ。

メンテナンス時期を読み切る

機器や装置の予防保全は、サーボモータを組み立てる工程で必要な成形プロセスで使う金型の管理で実践している。予防保全とは、機器や装置が稼働時に発するデータから、故障の前兆を読み取り、実際に故障に至る前に対応することだ。重大な故障による長時間の稼働停止といった事態が発生するのを未然に防ぐと同時に、計画的なメンテナンスを可能にする。

金型は、繰り返し使い続けるうちに、どうしても加工精度が低下する。従来は、加工した製品を見ている現場の担当者の気がついて金型を交換することが多かった。だが、気付くのが遅ければ、不良品を生み出すことになりかねない。

そこで同工場では、それぞれの金型を使用した回数(ショット数)を数えながら金型の精度を計測。それらのデータから、使用回数とメンテナンスのタイミングの関係を割り出した。データを蓄積するほど予測精度が高まることから、最近では、「限界間近」や「限界」など複数のレベルで金型のメンテナンスが必要になるタイミングを特定できるようになった。

原単位のエネルギー管理を実施

図4 原単位での省エネを推進している焼きばめ工程
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「省エネ」についても先進的な取り組みを進めている。例えば、原単位のエネルギー消費量に基づく省エネを推進である。工場全体の消費電力量に基づく省エネでは、実は改善の効果を正しく検証することができない。改善活動よりも生産量の変動の方が電力量に与える影響が大きいからだ。そこで同工場では、電力量と生産量を突き合わせ、一定の生産量単位で消費電力がどのように推移しているかを分析。この結果に基づいて省エネ活動の成果を評価している。このために、生産設備を制御するシーケンサに電力計測ユニットを装着。そのシーケンサの制御対象となっている装置の稼働状況と消費電力を同時に把握できるようにしている。

具体的な事例の一つが、ステータと呼ばれる部品をフレームに設けた空間に焼きばめする工程である(図4)。この工程では、IHヒーターでフレームを暖めて挿入口を広げ、そこにステータを一気に押し込む。ヒーターを使うことから、この工程では比較的大きなエネルギーを消費する。そこで、消費電力量を原単位で管理。そのデータを参照しながら、ヒーターの炉内にフレームを置く位置を調整するなど改善を進めた結果、原単位あたりの消費電力量を8%も削減することができた。同時に炉内の移動距離を最適化したことで、サイクルタイムを12%短縮することにも成功している。

人間と機械の協調を重視

e-F@ctoryをベースに進めている同サーボモータ工場の様々な取り組みに共通する特徴は、「人間」と「機械」が協調する仕組みを採り入れている点だ。三菱電機は、e-F@ctoryを強化する取り組みの一環として、複数の有力センサー・メーカーと提携し、センサとFA機器を連携させたシステムを効率良く構築できるようにするためのソリューション「iQSS」を展開している。だが、単に自動化を追求するのではなく、iQSSを活用しながら人間と機械が協調できる環境を構築することで、より先進的な生産システムが実現できるというのが同社の考えだ。同工場では、これを随所で実践している。

例えば出荷前検査の改善では、さまざまなセンサを駆使して情報をデータ化するところは自動化を追求しているものの、音による検査などは依然として人間の五感を利用している。費用対効果や、その時の技術の進化に合わせ、自動化の比率を最適化している。

人間を重視する背景には、現場による改善という日本の強さを残しながら自動化できる部分は自動化するという同社の考えもある。具体的には、生産現場から収集したデータの解析結果をもとに改善を実施する際に、解析結果を自動的に生産ラインにフィードバックするのではなく、解析結果を理解した人間が改善を進めるかたちにしている。さらに人間の「気付き」が、なかなか機械では把握できないポイントの改善につながることも、人間と機械の共存がもたらす大きな利点だという。

設計と生産の連携に着手

e-F@ctoryを基にした同工場における新たな取り組みは、さらに拡大している。2014年11月から、小容量サーボモータの新生産ラインで、設計部門と生産部門の連携を目指した新しいシステムの運用に取り組んでいる(図5)。 品質や生産性、コストなどを考慮して決めた設計値が本当に適切かどうかを、部品のバラツキと製品の特性値の相関を分析しながら検証。これによって過剰品質を防ぎ、最終製品の価格競争力を高める。この一方で、品質や生産性に影響する可能性がある箇所を設計段階で洗い出し、量産開始段階で最適な製品設計設備設計を実現することにより、設計の手戻りが発生するのを未然に防ぐ。

図5 設計と生産の連携に着手する最新ライン

ものづくりに様々な革新をもたらすe-F@ctory。その可能性を次々と形にしている三菱電機名古屋製作所のサーボモータ工場。ものづくりの新しい時代を、いち早く実感できる重要な場と言えよう。

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