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FAとICTが連携する「e-Factory」現場の知恵を生かす新たなものづくりを実現

三菱電機名古屋製作所は、ものづくりを支えるプラットフォームの最新動向をテーマにした「e-F@ctoryセミナー」を2015年2月26日に開催した。同社の技術陣に加えて、インテルや3D設計ツールのiCADが登壇した同セミナーでは、FA(Factory Automation)とICT(情報通信技術)を採り入れた新たなものづくりの仕組みが明かになった。

「生産現場のデータ分析を実施している日本企業は少なくない。だが、ICTが進化したことで、さらに高度な分析が可能になっている」。セミナーの冒頭で三菱電機名古屋製作所副所長の富澤克行氏は、ICTの進化が、ものづくりに革新をもたらす可能性について語った(図1)。そのうえでいち早くICTの進化を取り込んだ同社のソリューション「e-F@ctory」は、「生産性」「品質」「環境」「安全」の4つの点で生産現場に革新をもたらすことを指摘した。具体的にはFAとICTによる見える化と、現場のスタッフの知恵を組み合わせることで、四つのそれぞれを格段に進化させることができるという。

図1 2015年2月26日に開催された「e-f@ctoryセミナー」の様子

最初の講演で登壇した同社FAシステム第二部部長の楠和浩氏は、具体的なポイントとして、データ通信、収集、解析の三つを挙げた。具体的には、センシングによる生産設備の稼働データの収集、そのデータを送る通信技術、送られた膨大な量のデータを解析する処理能力の3つの進化だ。これらにより現場を重視した生産活動が可能になり、上流のマーケティングや下流の販売を含め、ものづくりのビジネスプロセス全体をデジタル空間に展開できるようになるという。

楠 和浩氏
菱電機
FAシステム第二部 部長

ただし楠氏は、デジタル空間だけでものづくりの改善を完結させることには否定的だ。デジタルのデータをもとに改善の方策を考え、それを現場に落とし込むのは、現場で経験を積んだ人間にしかできないと指摘する。「すべてデジタル空間で完結させるのには無理がある。最後は現場が判断して設備にフィードバックさせなくてはならない」(楠氏)。そのための仕組みとして同社が提供しているのが、e-F@ctoryなのである。

無駄の削減を促す可視化の技術

e-F@ctoryの基本コンセプトは、「開発・生産・保守の全般にわたるTCO(Total Cost of Ownership)の削減」である。これを推進する力をもたらすのが、生産現場の可視化と分析、さらにその結果をもとにした改善だ。「ムダの排除に取り組んでいる工場は多い。だが、思い込みではなく可視化した結果に基づく客観的な判断を採り入れることで、一段と多くの成果を上げることができる」(楠氏)。

可視化のためにe-F@ctoryが実現している仕組みが、FAとICTのリアルタイムでの連携だ。生産設備の稼働状況を表すデータを、高度な分析機能を持つICTのシステムで収集し、さらにその結果を設備の制御に活用するには、FAとICTの間での情報のやり取りがリアルタイムでなくてはならない。

このためにe-F@ctoryではさまざまな技術により、リアルタイムでの情報交換を実現している。その一つが「SLMP(Seamless Message Protocol)」。ICT側で使用するエンジニアリングツールとFA側の制御対象機器を結ぶ通信のプロトコルで、通信ライブラリ「EZSocket」を介し、同じICTの環境からさまざまな機器を制御できるようにしている。

ネットワークの技術としては「CC-Link IE」を提供している。FA側とICT側のリアルタイム連携で情報量が増大しても対応できるように、1Gbpsの広い帯域を持つのが特徴だ。「制御以外の情報も伝送する必要があるからと言って、別のネットワークを新たに引くのは無理がある。一本にまとめられるのが理想」(楠氏)。また設備の稼働データなど制御以外の情報が増大しても制御には影響が及ばないように、それぞれの帯域を分けて、重要な制御情報に遅延が起こらないような工夫も施されている。

FAとICTの連携を複雑なプログラミングなしで可能にするのが、MESインタフェース製品群だ。FAからの情報をSQL文として発行しデータベースに蓄積。ICT側のアプリケーションはそのデータベースに対してアクセスする。アプリケーションごとに異なるプログラムを書く必要が無くなり、拡張性や汎用性が保てるという。

こうしたFAとICTの連携は、他のベンダも製造現場のビッグデータ活用の観点からソリューション提供を進めている。だが楠氏は、「単純にデータを集めてICTで解析しても意味がない」と指摘する。「同じ自動車メーカーの同じ工程でも、作り方はメーカーによってみんな違う。データがどこでどう発生したか、背景を抜きに集めても意味がない」と語った。生産現場からのデータを意味のあるものにするには、「生産現場で一次処理を行い、必要なものだけICT側に上げる」(楠氏)システムが有効で、FA側がその処理機能を持つe-F@ctoryのアーキテクチャが最適と強調した。

メカ設計と電気設計を一体化

高野紀生氏
iCAD
技術部次長

続く講演で登場したiCADの技術部次長の高野紀生氏は、3Dデータを活用した生産設備の設計について講演した。高野氏によると機械装置の機構系設計については、3D活用による設計や検証は進んでおり、干渉など物理的な不具合は減少傾向にある。だが、電気や制御の設計ミスによる不具合は減っていないという。その大きな原因は、機構系の設計が電気や制御の設計と連携していないためだという。このため両者を設計過程で協調させることができず、問題の抽出が不十分なまま設計が進むことにある。

機構系の設計が終わってから電気や制御の設計に着手すれば、そうした不具合は防げるが、どうしても開発は長期化する。高野氏は、「3Dの設計データ上で電気や制御も並行検討できるのが理想」とし、その仕組みとして同社が提供するツール「iCAD」を紹介した。仮想空間にモデルを構築し、それをシーケンサなどからの指示によって動かし、結果を返すことができるCADのプラットフォームだ。画面上でシミュレーションを繰り返すことで、機構系の開発段階で電気や制御の設計の妥当性を確認し、開発期間の短縮化を実現できる。

iCADの大きな特徴は、データの軽量性にある。高野氏によると、6000部品からなる工作機の設計データの場合、一般的なCADに比べて50分の1にデータサイズを抑えることができる。データが軽いため、画面上で実用的な速度でのシミュレーションが可能だ。数式で表せる基本形状を組み合わせることで表現するため、意匠設計のような精細なモデルにはならないが、機械や装置のシミュレーションには十分としている。

iCADでは、設計の妥当性を評価するために、意図的に異常な状態を画面上で作り出し、そこからの想定通りにプロセスで復旧できるか検証こともできる。実機のログを使った検証も可能なため、「遠隔地の現場にある設備の異常がどのような経緯を経て起きたか、画面上で正確に再現して診断できる」(高野氏)。これにより現地でのデバッグ作業を軽減でき、現地作業は半減できる。

予防保全などで900万ドルのコスト削減

下堀昌広氏
インテル
ビジネスデベロップメント企画推進室
IoTシニアソリューション・アーキテクト

最後に登壇したインテル ビジネスデベロップメント企画推進室IoTシニアソリューション・アーキテクトの下堀昌広氏は、三菱電機と共同で展開しているマレーシア工場におけるIoTの活用事例などについて説明した。

半導体のアセンブリを担当するマレーシア工場では、設備から毎時5TBもの大量のデータが生み出されている。これを活用して、生産性や品質向上につなげるというのがこの実験の目的だ。具体的には、三菱電機が提供する組み込みプラットフォーム「C言語コントローラ」などを使い、設備からのデータ収集と解析、制御を行っている。

下堀氏は具体的なデータ活用事例を3つ挙げた。一つはCPUテスタの予防保全。テストを行う装置が故障すると誤判定を行ってしまい、歩留まりが低下してしまう。そこでテスタの稼働データから障害発生を予測することに取り組んでいる。これにより歩留まりは25%改善し、さらにスペアパーツの使用量削減の効果も得られたという。

二つ目はボールアタッチモジュールの予防保全。CPUをプリント基板に接続する時の装置の老朽化による歩留まり低下を防ぐために、圧力センサを使って予防保全に取り組んだ。その結果50%の歩留まり改善を実現できたとしている。

三つ目は画像解析による外観検査の効率化だ。同工場の生産現場では従来からマシンビジョンによる検査は行われていたが、良品か不良品か際どいものについては十分見切れず、人手で補う必要があったという。高解像度のカメラでワークを撮影し、そのデータをバイナリで活用する検査システムを構築することで、検査の高速化が実現したという。これら一連の取り組みにより、インテルは年間900万ドルのコスト削減を実現できたとしている。

下堀氏はこれらシステムの効果を評価しながらも、「課題自体を設定するのは、やはり現場の人間の役目」と強調。「システムのインテリジェンスと人間の力を組み合わせる点で、e-F@ctoryのコンセプトと共通する」とし、今後も三菱電機と協力しながらシステムを拡張していく方針を示した。

今回のセミナーでは、講演のほかに名古屋製作所内にあるサーボモータ工場や昨年6月に新設されたシーケンサ工場を見学するプログラムも用意されていた(図2)。同工場は、e-F@ctoryを先行する形で実践しており、e-F@ctoryの最新技術を目の当たりにすることができる。さらにセミナーの会場となった名古屋製作所内のFAコミュニケーションセンターには展示コーナーも設けられた(図3)。ここでは同社のアライアンスパートナー約30社がe-F@ctoryを支える様々な製品や技術を来場者に披露した。

図2 e-F@ctoryを実践するサーボモーター工場を見学
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図3 約30社のアライアンスパートナー企業が製品や技術を披露
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三菱電機では、今回のようなセミナーを継続して実施し、同社の取り組みに関連する最新情報を積極的にユーザーに提供する考えだ。ものづくりの革新に取り組む技術者にとって心強い味方と言えよう。

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