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【基調講演】業界のリーダーや先進企業が登壇 日本の製造業の新たな針路に言及

ICT(情報通信技術)を駆使して新しい製造業のプラットフォームを構築する動きが出てきた。こうした中、日本の製造業の新たなロードマップの必要性を訴える声も高まっている。2015年3月9日(月)に開催された「Factory 2015 Spring」では、業界のリーダーや先進的な取り組みを展開する企業が登壇し、日本の製造業が今後進むべき方向について言及した。

ドイツが国を挙げて推進する「Industry 4.0」(ドイツ語ではIndustrie 4.0)、米General Electric社が提唱した「Industrial Internet」─。現在、欧米では、IoT(Internetof Things)やM2M(Machinet oMachine)をベースに製造業を革新する動きが始まっている。こうした中で日本の製造業では、どのような舵取りが求められるのか。こうしたテーマで展開された「Factory 2015 Spring ~日本の製造業の針路~」には、ものづくりの関係者を中心に約550名が参加した。

日本の製造業は大きな転換点に

青木 素直氏
三菱重工業 特別顧問
日本機械学会フェロー 米国機械学会フェロー
清華大学 客員教授 工学博士

冒頭の基調講演には、三菱重工業で副社長を務めた同社特別顧問の青木素直氏が登壇した。テクノロジとマネジメントの双方に通じている同氏は、グローバル市場において日本の製造業が勝ち残るための指針を示した。

青木氏はまず、人口の減少が進む日本市場だけでは企業成長が見込めないことから、製造業のグローバル展開が加速している状況を説明。今後、日本の製造業が主戦場とするグローバル市場の特徴として、(1)顧客のニーズが多様、(2)戦いのパターンが多様、(3)変化が早い─という3つを挙げた。これからは、より複雑で不安定で、かつ不確かな方向に進んでいくと予測する。

同氏は日本の製造業が、こうしたグローバル市場の特性に対応できていないと指摘した。さらに、日本の製造業特有の弱みがあるという。具体的には、性能・機能至上主義や、暗黙知(匠の技)を過度に重視すること、全体最適化の不足などである。「現在、日本の製造業は大きな転換点に立っており、グローバル市場で勝ち抜くにはパラダイム・チェンジとものづくりのイノベーションが必要です」(青木氏)。

パラダイム・チェンジとは、例えば「良い製品」の意識を変えることだ。一般に、製造業では技術者の視点で良い製品を判断しがちである。このため、「お客様のニーズはこんなもの」と設計された製品、自分のやりたいことを込めた製品、標準化の発想がない製品などを作りがちになる。

青木氏は、次のように語る。「お客様は、ものづくりに関心があるわけではありません。良い製品が売れるのではなく、よく売れて利益を生み出す製品が、お客様にとっても自社にとっても良い製品なのです」。

グローバル競争に勝ち残っていくためには、従来のビジネスモデルやビジネスプロセスから脱却し、「マーケティング・オリエンテッド製造業」に転換してバリューチェーンを変革する必要があると指摘する。マーケティング・オリエンテッド製造業とは、(1)世界各地域の顧客ニーズや市場情報を分析して、売れる・儲かる製品企画ができる、(2)顧客価値起点のバリューチェーンを構築・統合・最適化し、変化する顧客価値を高いレベルで実現する、(3 )顧客の傍らでビジネスを営む、(4)グローバル市場で勝ち抜けるビジネスモデルとビジネスプロセスを構築する─という条件を満たす製造業のことだ。

具体的な取り組みとして、(1)組織的・体系的・継続した顧客情報の収集と分析、(2)明確な市場ポジショニングと製品・サービスのブランドマネジメント、(3)顧客価値を起点としたグローバルに勝てるバリューチェーン設計、(4)マーケティングとサービス・製品開発・生産・技術開発の一体化、(5)インターネットやクラウド・コンピューティングなどのICT(情報通信技術)の活用─という5つの項目を掲げた。

「情報提供業」を利益の源泉に

坂口 孝則氏
未来調達研究所

特別講演では、未来調達研究所の坂口孝則氏が登壇。『日経ビジネスオンライン』に「目覚めよサプライチェーン~最新の調達・購買事例を世界に学ぶ~」と題したコラムを執筆する同氏が、製造業が大きな転換期にあること、その中でどのような舵取りが求められるのかを解説した。

坂口氏は、これまでもさまざまな産業が幾度となく大きく様変わりしてきたと指摘。現在は、製造業が大きな転換点にあり、「バリューチェーンの中でキャッシュポイント(利益の源泉)の移行が始まっているので、新たなビジネスモデルを創出することが必要」と強調する。

坂口氏によると、IoTの進展によって顧客との接点が強化される今後は、製造業が情報提供業者として利益を生み出さなければならない時代になるという。「保守などの下流における情報提供業」、あるいは「上流の製品企画段階における情報提供業」としての利益の源泉を見つけるべきだと指摘する。

ただし、こうしたビジネス全てを1社で賄うのは効率が悪いので、得意なところを持ち寄って水平分業体制で利益を最大化するモデルを模索する必要がある。しかも、こうした事業体制では日本企業の強みが生かせるという。「キャッシュポイントが移行する時代には、単一のビジネスモデルでは弱さを露呈するので、日本企業特有の総花的な事業構造や『ケイレツ』が強みになります」(坂口氏)。

以上のほかに、アドバンテック、ベッコフオートメーション、デジタルアーツ、レクサー・リサーチ、三菱電機、NationalInstruments、日本セーフネット、日本システムウエア、オムロン、ルネサス エレクトロニクス、トレンドマイクロが登壇(ABC順)。次世代の製造業に向けたコンセプトやソリューションを披露した。