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【三菱電機】デジタル空間、機械、人が協調、現場の力を活かせる基盤を実現

三菱電機 役員理事 FAシステム事業本部副本部長の山本雅之氏は、Factory 2015 Spring の講演で、製造業においてICT(情報通信技術)を導入する意義について語った。そのうえでICTを活用したものづくりの新たなプラットフォームを実現するための合理的なソリューションとして同社が展開する「e-F@ctory」を紹介した。

山本 雅之氏
三菱電機
役員理事
FAシステム事業本部
副事業本部長

「ICTの進化がものづくりの基盤再構築という業界の流れを呼び起こしている」。講演の冒頭でこう語った山本氏は、進化している技術として「通信」「データ収集」「解析」を挙げた。特に解析技術の進化がもたらした影響は大きいという。「過去のデータを単に突き合わせるだけでなく、数学的な手法で様々な予測が可能になりました」(山本氏)。

さらにICTの進化で、設計だけでなくマーケティングから試作・評価、生産・試験、出荷まで、ものづくりのプロセス全てをデジタル空間で展開することが可能になった。それがドイツの「Industrie4.0」など、ものづくりの革新に向けた大きな取り組みが国際的な動きになっている背景にあるという。

だが、ものづくりにデータを活用する取り組みは、日本の製造業においては、新しいことではなく、コンセプト自体は既に実現していると同氏は強調する。日本の製造業における焦点は、デジタル空間で生み出されるデータを人間がどう活用するかだという。さらに、その課題の解決を支援する有力なソリューションがe-F@ctoryだと述べた。

e-F@ctoryは、生産現場のFA(factory automation)システムと、主に情報処理を担うICTシステムをつなぐことで、生産現場の状況を可視化し、分析と改善を促進するための仕組みだ(図1)。開発から保守まで、ものづくりのワークフロー全体におけるTCO(total cost of ownership)削減に貢献する。

図1 ICTシステムとFA(生産現場)の融合
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改善の自動化は非現実的

e-F@ctoryのコンセプトにおける柱の一つが、「デジタル空間・機械・人の協調」。生産現場で収集したデータをICTシステムで分析し、その結果を生産システムの制御に生かすところまで、すべてデジタル空間で完結することは原理的には可能だ。だが、これだけでは現場にいる人の気づきや経験に基づく改善を進めることは難しい。

そこでe-F@ctoryに基づいたシステムでは、FAとICTを連携させてデータの収集と分析を実行。その結果をもとに最適化を図る作業は、敢えて自動化せず、人が手を下す。「改善の仕方を現場の作業者が考えて、デジタル空間にフィードバックすることで現場に即した処理を行う」(山本氏)。つまりe-F@ctoryのプラットフォームは、経験豊富な現場のノウハウを最大限に引き出すために存在しているわけだ。

現場から改善アイデアを引き出し、効果を正確に検証できるようにするためには、データ収集から分析までの一連の処理がリアルタイムで実行できるのが理想だ。e-F@ctoryでは、この理想を追求するための要素技術が随所に盛り込まれている。例えば、「EZSocket」「SLMP(Seamless Message Protocol)」※1「MESインタフェース」などだ。

5000件以上も改善を実現

EZSocketは、CADやCAMなどICT領域のさまざまなアプリケーションからFA領域の機器にアクセスすることを可能にするための機器間で統一され、標準化されたインタフェースを持つソフトウェア・アクセス・ライブラリである。SLMPは、二つの領域をつなぐ共通プロトコル。MESインタフェースは、FAシステムとICTシステムを接続する機能を担う。これを利用して現場で収集した様々なデータをSQL※2文に変換してデータベースに蓄積することが可能になる。ICT側のアプリケーションは、このデータベースにアクセスすることでFAシステムと連携できる。

さらにFA領域の通信ネットワークとして「CC-Link IE」※3を提供する。情報ネットワークで広く使われているEthernetをベースにした規格なのでICTシステムと親和性が高いFAネットワークを構築できる。しかも、制御のパフォーマンスを維持しながら、1Gbpsと高いデータ転送速度を発揮する。

山本氏は、このような先進技術が盛り込まれたe-F@ctoryが、オープンな環境であることを強調した。具体的には、e-F@ctoryのコンセプトを支持するベンダーが集まる「e-F@ctory Alliance」が組織されており、そこでe-F@ctoryの最新技術や関連情報が共有できる。2015年2月時点で国内外の282社が同アライアンスに参加している。こうした企業の活躍によって、e-F@ctoryが生産現場の改善に貢献した事例は、全世界で100社5000件以上にも上る。

データは現場で「下ごしらえ」

山本氏はe-F@ctoryが現場の改善に貢献した事例として、品質管理とエネルギー管理を高度化した同社名古屋製作所内のサーボモータ生産ラインと、ロボットと人の組み合わせで生産性を高めた同社可児工場の電磁開閉器生産ラインのケースを紹介した。電磁開閉器はその性質上モデルが多岐にわたり、生産ラインでは段取り替えが頻繁に発生する。そのため完全な自動化は難しい。

一方でコスト低減のための自動化は進めなくてはならない。そこで可児工場の生産ラインでは、作業者の周りをロボットが囲む「ロボットセル」を構築。部品の取り付けなどはロボットが行う一方で、段取り替えの指示や部材供給といった現場の担当者が受け持つようにした。手間のかかる段取り替えは、作業者が生産指示書のバーコードを読み込ませることで自動的に完了できるようにしたので、生産性は30%、ラインの稼働率は60%向上したという。

自社での成果を踏まえたうえで山本氏は、FAシステムとICTシステムを接続して、無作為にデータを収集しても意味はないと断言した。「改善につながる情報を得るには、データの意味や関係の整理など生産現場でデータの“下ごしらえ”することが欠かせません」(山本氏)。

その具体的な例として、米Intelのマレーシア工場で進めている予防保全システムの実験について言及した。同システムでは、生産設備の稼働データを常時監視。その変化から故障の予兆を検知する。これによって故障が発生する前に対策を施すことで、いきなり生産が中断するという事態を回避できる。ただし、生産設備で発生するデータは膨大な量になる。そこで、実験システムではFA領域に設置したセンサとICTシステムの間に、データ分析補助を行う装置を置いた。ここで前処理を実行することでICTシステムにかかる負荷を軽減している。

講演の最後で山本氏は、e-F@ctoryの発展に向けてオープンな姿勢を今後も維持する方針を改めて表明した(図2)。「ものづくりのプラットフォーム再構築を支援するために、自社の技術だけにこだわらず、社外の優れた技術を積極的に採り入れる方針です」(山本氏)。

図2 ものづくりプラットフォーム再構築の支援
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※1 EZSocket:各種設計ツール間のデータ継承を容易にする、ソフトウェア共通のアクセス・ライブラリ   SLMP(Seamless Message Protocol):異なるネットワーク・階層を意識せずに機器間通信を容易にするオープン・プロトコル
※2 SQL(Structured Query Language):リレーショナルデータベースの操作を行うための言語の一つ。ISOによって標準規格化されている。
※3 CC-Link IE:高速・大容量通信をリアルタイムに実現するEthernet ベースの統合オープン・ネットワーク
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