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【ルネサス エレクトロニクス】工場を革新する「自律するM2M」 概念を先取りした半導体を展開

ルネサス エレクトロニクスは「Factory 2015 Spring」の講演で、製造現場におけるIoT/M2Mに向けた最新の取り組みを明らかにした。「自律するM2M」という概念に基づく産業用ネットワークエンジン「R-IN エンジン」を開発。製造業の革新に貢献する先進的なソリューションを展開する考えだ。

世界No.1のマイコン・ベンダーとして知られるルネサス エレクトロニクス。同社のマイコンは産業分野でも数多く使われている。同社が製品を出荷している産業・家電、OA・ICT分野の顧客は約2万社。1年間に出荷したマイコン、アナログ&パワー半導体、SoCなどの製品数は110億個を超える。

「“産業向けマイコン”および“FA(FactoryAutomation)/IA(IndustrialAutomation)向けLSI”のいずれの市場でも業界随一のシェアを誇っています」(ルネサス エレクトロニクス 第二ソリューション事業本部 産業第一事業部 産業ネットワークソリューション部 エキスパートの鈴木克信氏)。

鈴木 克信氏
ルネサス エレクトロニクス株式会社
第二ソリューション事業本部
産業第一事業部
産業ネットワークソリューション部 
エキスパート

演壇に上がった鈴木氏は、講演の冒頭で同社が考える産業分野におけるIoT(Internet of Things)の概念を説明した。一言でいうと「自律するM2M」だという。「自律」とは、ネットワークのエッジ(末端)に接続されたデバイスの「インテリジェント化」を意味する。「“第4次産業革命”とも呼ばれている製造業の大きな動きに、半導体メーカーとしてどのように貢献できるか考えました。そこから浮上した言葉が『自律するM2M』です。これをキーワードにして事業を展開する考えです」(鈴木氏)。

M2Mの実現に向けた課題が浮上

鈴木氏は、具体的な取り組みに触れる前に、製造業におけるIoTの課題について言及した。まず指摘したのが「データの質の変化」。製造現場にIoTが普及して、多数のセンサーが設置されるようになると、個々のデータサイズは小さいとしても、データを伝送するネットワーク上では大量のトラフィックが発生する。そうなると、リアルタイム性が求められる制御データと同時に扱うことが難しくなる。二つのデータを同時に扱えるM2Mネットワークを実現するには、アーキテクチャから見直す必要が出てくる可能性があるという。

もう一つの課題として挙げたのが、「消費電力の増加」。データの処理のために高性能プロセッサを様々な機器に搭載してしまうと、製造システム全体のコストが上昇するだけでなく、全体の消費電力も増えてしまう。消費電力を増やさずにいかにネットワーク処理性能を高めるかがエッジに接続されたデバイスにとって非常に重要な課題だと指摘した。

産業ネットワーク向け新エンジン

様々な課題を踏まえてルネサスが開発した技術が「R-IN(アール・イン)エンジン」である。複数の産業用オープンネットワークのインタフェース回路を備えたLSIなどに組み込む回路技術だ(図1)。大きな特長は、リアルタイムOSアクセラレータやイーサネットのマルチプロトコル処理回路などを搭載。情報システムと親和性が高いイーサネットベースの産業用オープンネットワークの性能を最大限に引き出せることだ。「ソフトウエア処理とハードウェア処理のハイブリッド構成にしたうえで、それぞれを最適化。処理回路の負荷を抑えながらパフォーマンスを高めることで、低電力化と高速化を同時に追求できるようにしました。消費電力は、ソフトウエアで処理していた従来品に比べて5分の1~10分の1に低減できる一方で、パフォーマンスは5倍から10倍に向上します」(鈴木氏)。

図1 「自律するM2M 」のコンセプトから生まれた「R-INエンジン」の構成
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同社は、2012年11月に「R-INエンジン」を組み込んだ第一弾製品「R-IN32M3シリーズ」を発表している。リアルタイム応答性と低電力を両立しながら複数の通信プロトコル規格に対応する同製品は、すでに延べ7か国のおよそ100社で採用実績または採用予定がある。さらに、2014年11月には、高いリアルタイム性を必要とするハイエンド制御機器向け「RZ/T1シリーズ」も発表している。これは、「R-INエンジン」で複数の産業用イーサネット通信規格に対応しつつ、600MHzで動作するCPUコア(ARM Cortex-R4プロセッサ)でモーターを制御し、リアルタイム制御と産業ネットワーク通信の「融合」を実現し、産業分野の飛躍的な生産性の向上に貢献できる。

IoTを支援するコンソーシアム

ネットワークに接続されている様々な機器に「R-INエンジン」を組み込めば、システム全体の消費電力の増加を最小限に抑えながら、センサーを多用した高度なM2Mシステムを構築できるというのが同社の考えだ。

ただし、現在のようなネットワーク・アーキテクチャでは、製造現場で発生する様々なセンシングデータ(生産管理データ)とリアルタイム性が必要な制御データとがひとつのネットワークを共用することになるため、将来的にはなんらかの手段によってネットワークのボトルネックを解消する必要があると鈴木氏は指摘した。

さらに、そうした将来の課題に対して、現行の「R-INエンジン」の10倍以上の性能を備えたリアルタイムエンジンを開発中であることを明らかにした。セキュリティや機能安全のような通信以外のタスクと、サイズの小さいデータをリアルタイムかつ低電力で処理するタスクを高速に切り替えることをできるようにする。「『自律するM2M』というキーワードが示すように、カメラやセンサーがお互いにコミュニケーションしながら、ネットワーク・トラフィックを低減するようなモデルの実現を目指しています」(鈴木氏)(図2)。

図2 Ethernetベースの産業用オープンネットワークが次世代M2Mの基盤に
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また同社は、「自律するM2M」を実現するための重要な基盤技術である産業用オープンネットワーク、特に産業用イーサネットのオープン化に対応した様々な機器およびシステムの開発を促進するために「R-INコンソーシアム」を設立した。2015年2月から参加企業を募っており、同年4月から具体的な活動を始めた。「FA、PA(Process Auto-mati on)、ビル、交通、ヒューマノイドロボットといった様々なアプリケーションに『自律するM2M』が広がる可能性があります。コンソーシアムでは、そこで必要になる、小さなデータを高速リアルタイムかつ低電力で扱う機能を効率的に組み込める環境を実現するための活動を進める考えです」(鈴木氏)。「自律するM2M」は、5月13日から3日間東京ビッグサイトで開催されるIoT/M2M展ならびにESEC展の同社展示ブースで体感できる。

最後に同氏は、「“繋ぐ、操る、守る、省く”価値を提供し、安心快適な暮らしを目指す」という同社第二ソリューション事業本部の理念を紹介。「R-INエンジン」は、その理念を実践するための重要な取り組みの1つであることをアピールし、講演を終えた。

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