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外資系企業が積極的に進出、日本人学校や医療機関も充実

外資系企業が積極的に進出、日本人学校や医療機関も充実

東は上海、西は浙江省に接し、西は太湖に臨み、北は揚子江を背にする中国・蘇州市。中国で最も経済が発展している揚子江デルタ地帯の中心部に位置し、2500年の歴史を持つ文化都市としても知られている。この蘇州市旧市街と隣接する地域にあるのが、「蘇州国家ハイテク産業開発区」だ。1990年に開発が始まったこのハイテク産業開発区は通称「蘇州高新区」と呼ばれている。総面積は258万平方キロメートル、総人口は70万人を超え、5000人以上の日本人が生活し、働いている。東は京杭大運河に臨み、西は太湖に至る同開発区では、文化とハイテク産業を融合した街づくりを進めている。

蘇州高新区には、すでに約2200社の外資系企業と1万8000社の国内企業が進出し、電子通信、精密機械、ファインケミカル、バイオテク、新型エネルギー、R&D、アウトソーシング、エコ産業などが、バリュー・チェーンを形成しつつある(図1)。その基本となっているのが、「5+2戦略」と呼ばれる政策である。

図1 蘇州国家ハイテク産業開発区
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既存の主導産業である電子情報産業と装備製造産業をさらに強化する一方で、新型電子情報産業、新型エネルギー産業、医療機器産業、軌道交通産業、地理情報および文化科学技術を新たな基幹産業として育成し、バリュー・チェーンの整備とグレードアップを図る。1993年の蘇州横川電表有限公司設立を皮切りに、日本企業が続々と進出しており、いまや蘇州高新区にある日系企業は540社を超え、中国沿海地域の中でも最も多くの日本企業が集まる地域となっている。

産業支援地域を設定

蘇州高新区には、「蘇州サイエンスシティ」や「イノベーションパーク」といった産業支援に力を入れる地域のほか、美しい自然や生態系を保つための「エコタウン」、国際的な企業人を育成するための「国際教育パーク」などもある(図2)。

図2 蘇州サイエンスシティ
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蘇州高新区の西側に位置する蘇州サイエンスシティは、太湖に臨む、約25平方キロメートルの地域だ。蘇州環状高速にそのままつながる交通の要所でもある。中国科技部・江蘇省政府及び蘇州市政府が提携して建設したもので、研究開発および、その成果の事業化を図るための基地に当たる。蘇州市が「新興国際科学技術都市10大プロジェクト」の一つとして掲げる重要なテーマを担う。「産業エリア」「CBDエリア」「研究開発エリア」の3エリアからなり、デジタルメディアや集積回路などの先端技術分野や先端的測定技術分野に携わる企業、大学研究機構などが今後相次いで進出する予定だ。

イノベーションパークは、政府直轄でハイテク産業を育て、企業家にイノベーション総合サービスを提供する非営利サービス機構が運営する。レンタルオフィス、公共用会議室、食堂、売店などはもちろん、バイオ、情報、ソフトウエア、メカトロニクスなどの技術開発公共プラットフォームを完備している。

現在、イノベーションパークにはインキュベーションに活用できるスーペースが8万平方キロメートルあり、1100社のハイテク企業とサービス・アウトソーシング企業を育成している。すでに1万人以上の専門家と技師を集め、1200項目もののハイテクプロジェクトが進行中だ。同パークに入園した多くの企業が順調に成長し、研究成果を事業化した企業は200社を超える。これらの企業の売上高は累計180億人民元に達する。これまでに4社が上場している。

環境や人材教育も重視

蘇州高新区は、積極的に産業を育成するのに加えて、環境や人々の暮らし、教育も重視している(図3)。エコタウンでは、旅行レジャー、フィットネス、文化クリエイディブ、伝統芸能およびハイレベル住環境、高機能化オフィス環境など、多彩な機能を集積した低炭素生体都市を目指す。このエリアでは、「生態環境保護最優先」「エコ交通最優先」「交易施設最優先」という3つの最優先を掲げ、さらに3つの革新と呼ぶ「自治体組織革新」「新エネルギー利用革新」「活力空間革新」も進めることで、2020年以降のエコな生活スタイルを提唱しています。

図3 蘇州外国語学校
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2002年7月、蘇州市政府は経済および社会の発展に寄与する職業教育開発をめざし、上方山・石湖景勝地域内に、国際教育パークを設立することを決定した。蘇州市に散在してきた各種職業専門学校と一部大学の蘇州高新区キャンパスを、ここに集中させ、教育資源を統合する。ここを企業にスキルを持つ人材を提供するための基地と位置付ける。

生活環境も充実

蘇州高新区の大きな特徴の一つに充実した生活環境がある。

小学校1年生から中学校3年生までの生徒を受け入れる「蘇州日本人学校」は、日本から進出する企業で働く日本人家族にとって、重要な施設の一つだ。同校は、「未来に向かい明るく元気で心豊かな子供の育成」を教育目標に掲げている。個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する、心豊かな文化の創造者を育てることを念頭に置き、児童・生徒の生き抜く力を育み、柔軟なアイデアと果敢なチャレンジ精神の育成を図っている(別掲のコラム「グローバル人材育成をめざし、安全や生活環境にも最大限配慮」を参照)。

医療機関も充実している。蘇州大学附属病院をはじめ、蘇州高新区人民病院、森クリニック、蘇州科技城病院(建設中)、明基国際病院など数多くの医療機関があります。森クリニック(蘇州森茂診療所)は、1998年に上海に初めて日系診療所を開設。2006年に、日本人が多く暮らす蘇州にも診療所を開設した。日本国内と同じように医療サービスを受けることができる(図4)。

図4 森クリニック
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この地を訪れる観光客や宿泊客が多いことから、ホテルやレストラン、ゴルフをはじめとする多くのスポーツ施設や娯楽施設も充実しており、家族で一緒に楽しめる環境が整っている点も見逃せない蘇州高新区の特徴である。

グローバル人材育成をめざし
安全や生活環境にも最大限配慮

杉田康之氏
蘇州日本人学校  校長

蘇州日商倶楽部が設立母体となり、日本政府の補助を受けて運営している中国政府認可の「外籍人員子女学校」である蘇州日本人学校。500社を超える日本企業が集まるこの地域で、日本国内の義務教育施設と同様の授業を実施する。杉田校長に、学校の現状や方針を聞いた。

Q 蘇州日本人学校の特徴は何でしょうか。

A 2005年に蘇州日本人学校として開校し、今年で10周年を迎えます(図A、図B)。開校当時は生徒児童数63人でしたが、2014年度末では415人に増えています。文部科学省の施策、新学習指導要領に沿った、日本国内にいるのと同じ義務教育が受けられます。在外教育施設ですので、転出入が非常に多い状況のなかで、「未来に向かい明るく元気で心豊かな子どもの育成」を目標に掲げて、グローバル人材の育成を目指しています。

図A 日本人学校の校舎外観
整備が行き届いている。正門には警備員が常時詰めている。
図B 全天候型人工芝のグラウンド
バスケットコート奥には体育館が、その左側には屋外プールがある。

中国語と英語の授業を強化しているのも特徴のひとつです。いずれもそれを母国語とするネイティブ講師と日本人教員が担当し、「実際に使う言語」として学べるように工夫しています。たとえば小学部は蘇州市内の現地校を訪れたり、本校に招いたりして、現地の児童と中国語を使って交流します。中学部では、外国語学校の生徒を招き、英語でコミュニケーションしながら、楽しい時間を過ごします。こういった実体験をもとにした日々の語学教育により、「使える中国語、英語」が身につくようにしています。

Q 「子供たちの安全」を気遣う保護者も多いのでは。

A 安全と生活環境には、最大限の努力をして取り組んでいます。

安全については、在上海日本国領事館や中国政府機関とも緊密に連携し、登下校時の警備体制を築いています。学校側では16人の警備員により、24時間体制で校内を巡視しています。また、学校の周囲、校内には合計14台の監視カメラを設置、11の赤外線感知システムも導入して警備を強化しています。

保護者にも協力していただいています。児童・生徒の単独登下校は認めておらず、必ず保護者、または保護者に準ずる人が学校まで送迎することにしています。飲料、昼食は家庭から持参したものだけというルールも徹底しています。

生活環境では、特別教室や保健室、図書室を含む全教室に空気清浄機を導入済みです。体育館には、大型のものを6台導入しました。さらに2016年度には、横幅6メートルある廊下の各所にも空気清浄機を設置して、室内環境の整備を充実させます。

Q 学校生活は、日本と変わらないのでしょうか。

A 日本と同じ教育環境の中で、さらに「蘇州ならでは」の経験や学習ができるように心がけています。蘇州に伝わる文化を子供たちに体験させているのもそのひとつです。たとえば、「切り紙」「中国武術拳」「水墨画」「書道」「中国結び」について、それぞれの専門家を招いて、体験学習を行いました。

また、小学校3年生では学校周辺を探索し、4年生は消防署を見学、自分たちが暮らす街を知り、守ってくれる人の姿を見るという経験をさせています。

本校の卒業生は、その多くが日本に帰国し、進学します。幸い、「第一志望」の学校に入学する卒業生が多く、誇りに思っています。蘇州日本人学校での生活は、ただ勉強するだけでなく、せっかく外国にいるのですから、この地の文化を学び、国際的に通用する人材になって欲しいと願っています。