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新コンセプトのFPGA搭載高周波モジュール、複雑化する通信システムの高効率開発に貢献

新コンセプトの高周波測定用モジュール、複雑化する通信システムの高効率開発に貢献

ナショナルインスツルメンツが展開するユニークな高周波(RF)測定用モジュール「ベクトル信号トランシーバ(VST)『NI PXIe-5644R』」。2012年8月の発表以来、通信技術者を中心に注目を集めている。従来の計測器とは一線を画するコンセプトに基づく同機は、複雑化する高周波システムの開発環境に革新的な進化もたらす可能性を秘めているからだ。しかも、「IEEE802.11ac規格対応のテスタ」「無線通信用チャンネルエミュレータ」「電波信号の記録・再生システム」「RFパワーアンプの評価システム」など幅広い用途に展開できる。

塩原愛氏
日本ナショナルインスツルメンツ
テクニカルマーケティング
マーケティングエンジニア

ベクトル信号トランシーバ(VST:Vector Signal Transceiver)「NI PXIe-5644R」(以下、PXIe-5644R)は、PXIe規格に準拠した計測システム向けのモジュールである(図1)。PXIeは、汎用シャーシの設けられた複数のスロットに、必要とする機能を提供するモジュールを挿入することによって要求に応じた計測環境を自由に構築できるモジュール式の計測システムの規格である。この規格に準拠した計測システムのために開発されたPXIe-5644Rには、任意のデータにデジタル変調を施したうえでアップコンバートしたRF信号を出力するベクトル信号発生器(VSG:Vector Signal Generator)と、RF信号を解析するベクトル信号アナライザ(VSA:Vector Signal Analyzer)が、それぞれ1チャンネルずつ組み込まれている。送信システムと受信システムが一体になっていることから同社は、この製品をベクトル信号トランシーバと呼んでいる。「モジュールの大きさは、スロット三つ分。つまり、高さ12.9cm×幅6.1cm×長さ21.1cmです。従来からあるスタンドアロン型のベクトル信号発生器とベクトル信号アナライザを組み合わせたシステムに比べて格段に小さくなっています」(日本ナショナルインスツルメンツテクニカルマーケティング マーケティングエンジニア塩原愛氏)。

図1 ベクトル信号トランシーバ「NI PXIe-5644R」

価格の点でも有利だ。PXIe-5644Rの標準価格は480万2000円。コントローラモジュールやシャーシなどの基本ハードウェア、システム開発ソフトウェア「NI LabVIEW」など、このモジュールを稼働させるために必要なハードウェアやソフトウェアを合わせても、単機能の計測器で構成したシステムよりも、導入コストは低い。「この商品を紹介したお客さまの多くが、コンパクトなサイズと導入コストの低さに驚いています」(塩原氏)。

プログラミングできる革新的システム

PXIe-5644Rは、フロントパネルに、RF入力端子、RF出力端子、トリガ端子、キャリブレーション信号の入力端子などを備える。RF入力およびRF出力の周波数範囲は、いずれも65 MHz ~ 6 GHz。入力帯域幅は80 MHzである。一つのシャーシに最大5基のPXIe-5644Rを組み込めるので、複数のアンテナで同時に複数のデータストリームを伝送するMIMO(Multiple Input Multiple Output)方式を採用した通信システムの測定にも対応できる。

こうしたPXIe-5644Rの様々な特長の中でも特にユニークなのが、内部の処理回路がFPGA(Field Programmable Gate Array)で構成されていることだ。これによってソフトウェアだけでなくハードウェアも、同社のシステム開発ソフトウェア「NI LabVIEW」を使ってユーザが自由にカスタマイズできる。従来の計測システムにはなかった全く新しい仕組みである。これを利用してユーザは用途に合わせてPXIe-5644Rのハードウェアやソフトウェアを最適化して、計測システムのとしてのパフォーマンスを徹底的に引き出すことができる。「RF計測に必要な基本的な機能を実現するためのプログラミング情報は『サンプルプロジェクト』として本体に添付されています。これをベースにカスタマイズすることで、計測システム全体のパフォーマンスを高めることができます。最初からオリジナルのシステムを構築することも可能です。計測システムの概念を塗り替える画期的なシステムだといえるでしょう」(塩原氏)。

最先端のニーズにいち早く対応

PXIe-5644Rを中心に構築した革新的な計測プラットフォームを利用することで、最先端のアプリケーションに対応した計測システムをいち早く実現できる。例えば、PXIe-5644Rに実装されている標準機能だけで、無線LANの次世代規格IEEE802.11acに対応したテスタとして使える(図2)。一番大きなサイズの18スロットシャーシに、最大5基のPXIe-5644を連動させることができるので、1シャーシで最大5x5のMIMO構成に対応した計装システムを構築することも可能だ。

図2 標準仕様のままIEEE802.11ac規格対応のアナライザとして使える

実際、通信用LSI大手の米Qualcomm Atheros, Inc.は、IEEE802.11ac向けのトランシーバLSIの評価に、このシステムを導入している。既存の無線LAN規格IEEE802.11nの2倍に当たる最大8ストリームのデータを同時に送信するIEEE802.11acの場合、通信システムが複雑になる。これにともなって回路の評価にかかる作業が膨れあがることが懸念されている。Qualcomm Atheros社は、PXIe-5644Rを導入したことによって、専用計測器を使っていた従来に比べて計測にかかる作業が200倍も速くなったという。

従来から20倍(PXI)→200倍(VST)まで向上

内部のFPGAに実装されているファームウェアを書き換えて、機能を拡張したり、カスタマイズしたりできるという特長を利用すれば、実環境の電波を利用して様々な電波伝搬環境をリアルタイムで再現する「チャンネルエミュレータ」も実現できる(図3)。「内蔵FPGAをベースに実現した専用処理回路で、反射する電波の影響を受けた信号や、移動にともなって発生する電波のドップラー効果による影響を受けた信号をリアルタイムで再現するシステムを構築することができます」(塩原氏)。

図3 無線通信システム用チャンネルエミュレータ

一歩進んだ記録・再生システムに

さらに高速データストレージモジュール「NI 8260」などのストレージデバイスを組み込んで電波信号の記録・再生システムを構築することもできる(図4)。実際の環境にある電波信号を、そのまま記録し、再生できる装置である。実環境の信号を一度、記録しておけば、実験室の中で何度でも再現できる。こうしたシステムがあれば評価のたびに現場に足を運ばずに済む。「カーナビゲーションシステムや携帯電話端末など移動体通信機器のフィールドテストにかかる作業の負荷を大幅に削減できるでしょう」(塩原氏)。PXIe-5644Rは入力帯域幅が80 MHz と広いので、IEEE802.11acや「第3.9世代」の携帯電話の通信規格「LTE(Long Time Evolution)」に向けた回路の評価にも対応できる。

図4 電波信号の記録・再生システム

しかも、内部のFPGAを利用して専用処理回路を実現すれば、記録した信号を再生するときにリアルタイムで信号を加工する機能を提供することもできる。「実環境の信号をさらに変化させることで、一段と幅広い評価ができます。高速電波信号のリアルタイム処理を、ソフトウェアで実現することは現状ではFPGAなしでは、難しいと思います」(塩原氏)。

このほか、PXIe-5644Rと電源モジュールを組み合わせて通信回路のアナログフロントエンドに使われるRFパワーアンプの評価システムも構築できる(図5)。応答が非線形のRFパワーアンプの評価では、出力電力を安定させるために閉ループフィードバック制御による電力補正が必要になる。「このとき従来のシステムでは、計測部と信号発生部のデータ伝送に時間がかかるため、作業時間がなかなか短縮できませんでした。これに対してPXIe-5644Rならば、二つがモジュール内部で高速インタフェースを介して結ばれているうえに、FPGAで実現した専用ハードウェアで補正にともなうデータ処理を実行するので電力補正にかかる時間が格段に短くなります」(塩原氏)。

図5 高速サーボ制御を導入したRFパワーアンプの評価システム

従来の延長にはない新しいコンセプトに基づいて生まれたPXIe-5644R。進化とともに複雑化の一途を辿る通信システムの計測にまつわる様々な課題を解決する可能性を秘めている。通信システムの開発に携わる技術者にとって見逃せない製品と言えよう。

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