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PXIベースのHEV/EV向けHILSシステム、ルネサスがモータ制御技術の先行開発に導入

PXIベースのHEV/EV向けHILSシステム,ルネサスがモータ制御技術の先行開発に導入

技術者が必要とするシステムを、自由に、しかも効率よく実現できるプラットフォームを提供するシステム開発ソフトウェア 「NI LabVIEW」とPXI規格のモジュール式ハードウェア。これらを展開する日本ナショナルインスツルメンツと、車載機器開発向けソリューションを提供する複数のベンダが連携し、HEV (Hybrid Electric Vehicle) / EV (Electric Vehicle) に向けた先進的なHILS (Hardware in the Loop Simulation) システムを実現している。これをいち早く導入したのが、車載マイコン大手のルネサスエレクトロニクスである。同社は、このシステムをHEV/EVに欠かせないモータ制御技術の先行開発に活用している。

香川秀樹氏
ルネサスエレクトロニクス
自動車システム統括部 自動車先行システム技術部 主任技師

自動車の電子化が加速するとともに車載マイコンに対するニーズが高まっている。安全性や快適さの向上、地球環境への負荷低減など、いま自動車が抱える様々な課題を解決するための有力なソリューションを、マイコンを利用した電子制御技術がもたらすからだ。さらに、ここにきてEVやHEVなど電動システムを動力源にした次世代自動車が普及する機運が高まってきたことを受けて、一段と高度な電子制御技術が車載システムの開発現場で求められるようになってきた。これとともに車載マイコンに対する要求も高度化している。こうした市場のニーズにいち早く応えるために多くの半導体メーカが、新たな技術を採り入れた車載マイコンの開発に取り組んでいる。その動きをリードしている企業が車載マイコンの大手ベンダとして知られるルネサスエレクトロニクスである。

図1 ルネサスエレクトロニクスが導入したHEV用Full Vehicle HILSシステム
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同社は、車載機器メーカのニーズに応じたマイコンをタイムリに提供し、車載マイコン市場を有利に開拓するために、戦略的な製品開発に取り組んでいる。「ユーザである自動車メーカや車載機器メーカの皆さんが直面する課題を、お客さまに先回りする形で掘り起こし、そのソリューションをいち早く提供する考えです」(ルネサスエレクトロニクス 自動車システム統括部 自動車先行システム技術部 主任技師の香川秀樹氏)。こうした考えを実践するうえで、自動車メーカや車載機器メーカがマイコン搭載機器を検証する環境が揃っていれば有利だ。「ただし、自動車のシステムは、高度なノウハウの固まりです。お客さまと同様の開発環境をマイコンサプライヤが備えるのは容易なことではありません」(香川氏)。こうした問題を解決したのが、NI LabVIEWとPXI規格のモジュールシステムをベースにしたHILSシステムである(図1)。

最大16基の仮想CPUが稼働

図2 最大16個の仮想CPUが稼働するマイコンのプロトタイプ

このシステムを導入するキッカケは、同社の車載向けフラッシュメモリ内蔵マイコン「RH850ファミリ」に向けた新技術検証の題材に、リアルタイム性の高いモータ制御を取り上げたことだった。「EVやHEVの動力源となるモータの制御に向けた技術です。既存のモータ制御用マイコンの多くは、緻密な制御を実現するためにCPUの周辺にモータ制御専用のハードウェアを実装しています。仮想CPUの技術を導入し、消費電力を抑えながら処理性能を高めることができれば、ソフトウェアの変更だけで様々なモータ制御の要求に対応できる汎用性の高いハードウェアを実現できるようになります」(香川氏)。

仮想CPUとは、一つのCPU(物理CPU)を複数の仮想的なCPUとして使う技術である。CPUを仮想化してデータ処理の並列性化を進め、CPUをより効率化することによって、消費電力のむやみに増やすことなくパフォーマンスの向上を図ることができる。特に同社の場合は、ハードウェア処理によって複数のCPUを仮想化する技術を採用しているのが大きな特長だ。4基のCPUコアを搭載したマルチコアアーキテクチャを採用し、各CPUが四つの仮想CPUとして稼働するように設計されている(図2)。つまり、最大16基の仮想CPUを使った並列処理を実行できる。リアルタイム性の高いモータ制御のノウハウからフィードバックすることで、このアーキテクチャを高リアルタイム制御向けに徹底的に最適化することが目標だ。

「マイコンのアーキテクチャを最適化するためには、ユーザの皆さんと同じように実際にモータを制御しながら、マイコンに必要とされる性能や機能を見極める必要があります。このためにHILSシステムが必要だと考えるようになりました」(香川氏)。このとき同社が必要とするHILSシステムの開発に手を挙げたのが、ルネサスエレクトロニクス製品の販売代理店の一つで、自動車向けの組み込みマイコンシステムの試作開発などで取引があった萩原電気(本社:愛知県名古屋市東区)だった。電子デバイスやIT機器の販売に加え、組み込みシステム関連の開発も手掛ける萩原電気は、日本ナショナルインスツルメンツのパートナー企業でもある。

小型で安価なHILSシステム

図3 Full Vehicle HILSのシステム構成
服部康則氏
萩原電気
第二ソリューション事業部
第二営業部 部長
加藤澄夫氏
萩原電気 技術センター
エンベデット技術二部
部長 兼 技術戦略室 技術主幹

HILSシステムとは、仮想的なモデルと実機を連動させて、システム全体が稼働している状態を再現しながら、実機を評価するシステムである。萩原電気が提供したのは、自動車全体の動きを仮想モデルで再現する、いわゆる「Full Vehicle HILSシステム」である(図3)。このシステムを利用すれば自動車を構成する様々なシステムの走行中の状態を再現することが可能だ。つまり、実車がなくてもECUなどの車載エレクトロニクスシステムの走行時におけるふるまいを評価できる。こうしたシステムは、すでに多くの自動車メーカがECU(Electric Control Unit)の開発などに導入している。

「自動車メーカの皆さんが使っているような大規模なFull Vehicle HILSシステムを、半導体メーカなどが独自に構築することはなかなかできません。システムの構築には、自動車特有の様々なノウハウが必要だからです。私たちが展開しているHILSシステムならば、こうした自動車のシステムにまつわる高度なノウハウや技術が、あらかじめ盛り込まれているので、幅広い分野の方々に利用していただけます」(萩原電気第二ソリューション事業部 第二営業部 部長の服部康則氏)。しかも、導入コストの点でも有利だ。「従来のFull Vehicle HILSシステムと遜色のないパフォーマンスを発揮するにもかかわらず、格段に、コンパクトで安価です」(萩原電気 技術センター エンベデット技術二部 部長兼技術戦略室 技術主幹の加藤澄夫氏)。

FPGAにモータモデルを実装

萩原電気がルネサスエレクトロニクスの依頼でとりまとめたFull Vehicle HILSシステムは、ディーゼルエンジンとモータ駆動システムを組み合わせたハイブリッドエンジンを搭載した車輌の仮想モデルを提供する。萩原電気のほか日本ナショナルインスツルメンツ、ネオリウム・テクノロジー、マックシステムズなど複数の企業の技術を統合して実現したものだ。

山浦和隆氏
ネオリウム・テクノロジー
システム制御技術部
チーフエンジニア

具体的には、自動車用シミュレーションソフトの販売やシミュレーションシステムの開発を手掛けるネオリウム・テクノロジー(本社:東京都中央区)が開発した車輌モデルと、日本ナショナルインスツルメンツとJSOLが共同で開発したモータモデルが、日本ナショナルインスツルメンツが提供するPXI規格のモジュール式ハードウェアに実装されている。「ネオリウム・テクノロジーが提供する車輌モデルは、MATLAB/Simulinkを使って作成されているので、そのままPXIシステムに実装することが可能です」(ネオリウム・テクノロジー システム制御技術部 チーフエンジニアの山浦和隆氏)。

ハードウェアを構成するのは、シャーシ「NI PXIe-1071」のほか、これに組み込むコントローラ「NI PXIe-8133」、「NI PXI-7841R」および「NI PXI-7854R」の二つのFPGAボードの合計三つのモジュールである。コントローラに接続したモニターに、モータ制御出力の状態や車輌の状態に関する計測データを表示できるようになっている。

岡田泰尚氏
マックシステムズ
システムソリューション部
課長

車輌モデルはコントローラに、モータモデルはFPGAボードPXI-7854Rに実装されている。モータモデルを、FPGAを利用して実現した専用ハードウェアで高速処理することによって高いシミュレーション精度を実現している。これらのハードウェアやソフトウェアを統合する作業を担当したのは、計測・試験システムの開発を手掛けるマックシステムズ(本社:愛知県名古屋市中区)である。「小型で優れたパフォーマンスを発揮するPXIモジュールシステムを活用することで、コンパクトで高精度のFull Vehicle HILSシステムを実現することができました」(マックシステムズ システムソリューション部 課長の岡田泰尚氏)。さらに、このシステムを、要求に応じて最適化したうえでルネサスエレクトロニクスに提供したのが萩原電気である。

ルネサスエレクトロニクスでは、FPGA(Field Programmable Gate Array)を使って新しいアーキテクチャを採用したマイコンを試作。評価ボードに組み込んだうえでeSOL社製のメニーコアプロセッサ対応リアルタイムOS 「MCOS(Many-Core Real-Time OS)」を実装し、実際にモータ制御アプリケーションを稼働させることができるようにした。この評価ボードを、拡張I/Oボードやインタフェースボックスを介して、HILSシステムに接続し、新たなモータ制御技術の評価を進めている。「このFull Vehicle HILSシステムを活用して開発した技術によって、付加価値の高い車載マイコンの実現できるはずです。今後の製品展開に是非期待して下さい」(香川氏)。

リアルタイムOSやWindows上で稼働するアプリケーションの開発をはじめFPGAの開発なども含む広範囲のシステム開発を一つのプラットフォームで網羅するNI LabVIEW。必要な機能を備えたハードウェアを自由に実現できるモジュール式のPXIシステム。この二つがもたらすグラフィカルシステム開発プラットフォームならば、先例のないシステムでもいち早く実現できる。次々と浮上してくる新たな規格に対応したシステムや開発環境を素早く構築することも可能だ。多くの技術者が革新的で付加価値の高い技術や製品の開発を迫られているいま、こうした先進的な開発プラットフォームを導入する動きが一段と加速するに違いない。

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