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第2回  組み込みシステムの新潮流

ザイリンクスが積極的に展開している新世代の組み込みプラットフォーム「Zynq-7000 All Programmable SoC」。ここにきて幅広いアプリケーションで採用が進む機運が高まってきた。デバイスのサンプル出荷が本格化してきたのと同時に、開発環境が整ってきたからだ。ソフトウエアだけでなくハードウエアのプログラマビリティも備える Zynq-7000 ファミリは、システムのさらなる合理化を可能にする新機軸のソリューションを設計者に提供し、市場における製品の競争力強化に貢献する。

査 錚氏
ザイリンクス
マーケティング部
プロダクトマーケティング
スペシャリスト

Zynq™-7000 All Programmable SoC は、ハードウエア CPU にプログラマブル・デバイスの技術を融合した新機軸の半導体デバイスである。ASIC(特定用途向けIC)やASSP(特定用途向け汎用IC)を中心に構成していた、これまでのエレクトロニクス機器プラットフォームを、がらりと変えてしまう可能性を秘めている。こうしたデバイスが、いま求められている背景には、ASIC や ASSP を使った従来のプラットフォームを基に製品を開発する機器メーカーが市場の変化に追随できなくなってきたことがある。多くの市場で製品のライフ・サイクルの短期化が進んでいるのと同時に、市場のニーズの多様化が進んでいるからだ。

このため、機器メーカーは市場の動きに応じて迅速に対応できる開発体制にシフトせざるを得なくなってきた。ところが、ここで直面する問題の一つが、ASIC や ASSP の開発リード期間の長さである。ASIC や ASSP は、企画から完成までに半年から1年は要する。このため、めまぐるしい需要の変化に迅速に対応することは難しい。これに加えて近年、半導体の微細化とともに製造プロセスが複雑化したために、開発コストが急速に高騰しているという問題もある。従来以上に大量に生産しなければ開発費をなかなか回収できなくなっている。これらの問題を解決し、いまの市場の動きに的確に対応できる新たなプラットフォームを実現するのが Zynq-7000 All Programmable SoC である。

ASIC や ASSP にない柔軟性が威力

図1 ザイリンクスが推進する新しい組み込みプラットフォーム「Zynq-7000 All Programmable SoC」
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Zynq-7000 All Programmable SoC は、「プロセッシング・システム」と「プログラマブル・ロジック」の大きく二つの回路ブロックで構成された LSI である(図1)。いわば進化版の SoC (system on a chip)と言える。プロセッシング・システムには、ハードウエア CPU コアを中心に 32K バイトの L1 キャッシュ、512K バイトの L2 キャッシュ、オンチップ・メモリ、メモリ・コントローラ、DMA(Direct Memory Access)などが実装されている。CPU コアには、英 ARM 社のデュアルコア・プロセッサ「Coretex™-A9 MPCore™(動作周波数は800MHz)」を採用。USB、CAN、UART、Ethernetなど標準的なインタフェースも備える。

プログラマブル・ロジックの領域の多くを占めるのは、プログラミングが可能なロジック回路である。このほかに、最大伝送速度 12.5 Gbps の高速シリアル・トランシーバや PCI Express インタフェース、A-D 変換回路なども備える。これら二つのブロックが、広帯域のインターコネクト・バス「AMBA-AXI4」と3000本以上の内部配線で接続されており、ブロック間の帯域幅は100G ビット/秒に及ぶ。ブロック間で大量データを高速で転送できるようになっているので、プロセッシング・システムを使ってプログラマブル・ロジックの回路を構成(コンフィグレーション)することが可能だ。つまり、プログラミング可能な回路や、あらかじめ用意されている通信回路や A-D 変換回路を利用して、CPU コアの周辺に様々な回路を自由に構成しながら、多くの機能を Zynq-7000 デバイスに統合することができるわけだ。

これらの特長を活用することで、ASIC や ASSP の場合に比べて、短い開発期間で多くの機能を統合した SoC を実現できる。しかも、開発コストも大幅に抑えられる。プログラマブル・ロジックを利用して回路を柔軟に変更できるので、品種展開に合わせた設計変更に迅速に対応することも可能だ。つまり、このデバイスを活用することで、市場の動きに柔軟かつ迅速に対応できるシステム・プラットフォームを構築できる。

統合がもたらす多くの利点

図2 Zynq-7000 All Programmable SoCが設計者に提供する付加価値
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さらに、もう一つ見逃せないのが、Zynq-7000 デバイスに様々な機能を統合することによって、システムに関連する多くの利点が得られることだ(図2)。

その一つが、パフォーマンスの向上。広帯域のインターコネクト・バスを利用することで、既存のチップ間インタフェースで接続するよりも、はるかに高いパフォーマンスをシステム全体で発揮させることができる。さらにハードウエア CPU を使ったソフトウエア処理と、FPGA を使って実現した周辺回路を使ったハードウエア処理の切り分けを自由に検討しながら、高いパフォーマンスを追求することもできる。ハードウエア CPU とプログラマブル・デバイスを融合した Zynq-7000 All Programmable SoC ならではの利点だ。

機能の統合は、BOM(Bill of Materials)を抑えるうえでも有利だ。最近では、マイクロプロセッサやDSP、FPGA など複数の種類のデバイスを搭載するシステムが多い。Zynq-7000 All Programmable SoC を利用すれば、これらを一つのデバイスに統合できる。これによって、プリント基板に実装するデバイスの数を減らせば、部品の実装面積を小さくしたり、デバイス間の配線を減らすことで多層基板の層数を削減できたりするなど、様々な合理化を進めることも可能だ。さらに回路の統合は、消費電力の削減にもつながる。例えば、デバイス間をつなぐ高速通信システムのインタフェース回路は、比較的大きな電力を消費する回路の一つだ。複数のデバイスを1チップに統合し、デバイス内部で接続するようにすれば、システム全体の消費電力を抑えることができる。

四つのデバイスで幅広い応用を網羅

いまのところ Zynq-7000 ファミリについては、プログラマブル・ロジックの規模が異なる4品種が順次製品化される予定だ。すなわち、集積ゲート数が43万ゲートの「Z-7010」、同130万ゲートの「Z-7020」、同190万ゲートの「Z-7030」、同520万ゲートの「Z-7045」である。このうち Z-7030 と Z-7045 は、最大転送速度 12.5 GHz の高速シリアル・トランシーバを備える。

図3 Zynq-7000 All Programmable SoC を取り巻く開発環境 
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2010年春の発表以来、Zynq-7000 ファミリに対する業界の関心は高い。「すでに、契約を結んだ先行ユーザーの皆さんに Z-7020 の先行評価用デバイスを提供しております。その中には多くの日本企業も含まれています」(査氏)。

さらに、ここにきて Zynq-7000 ファミリが普及する機運がぐっと高まっている。Z-7020 のサンプル出荷が始まったのと同時に、これに合わせて開発環境が整ってきたからだ。Zynq-7000 ファミリのうち Z-7020 のサンプル出荷はすでに始まっている。これに続いて、他の品種も順次サンプル出荷が始まる予定だ。

図4 Z-7020デバイスを搭載したボード
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図5 ザイリンクス Zynq-7000 SoC ビデオおよび画像処理キット 
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デバイスに加えて、ハードウエア設計ツール、評価ボード、実装するソフトウエア開発のためのバーチャル・プラットフォームが揃っている。実装するソフトウエア開発については、すでに市場に豊富に提供されている ARM コア向けの開発ツール群が利用可能だ(図3)。「独自のコンセプト『ターゲット・デザイン・プラットフォーム(TDP)』に基づく効率的な開発支援環境も提供しています」(査氏)。具体的には、評価ボード、開発ツール、リファレンス・デザイン、ケーブルや各種マニュアルを用途別にパッケージ化して提供したものだ。その第一弾として、Z-7020 を搭載したボード(図4)が同梱された「ザイリンクス Zynq-7000 SoC ZC702 評価キット」を提供中である。画像処理システムにターゲットにした開発キット「ザイリンクス Zynq-7000 SoC ビデオおよび画像処理キット(図5)」の受注も開始した。また、アヴネット社からは低コストの開発ボード「Zynq-7000 SoC ZedBoard」(図6)が提供されている。「これらの開発環境を利用して、効率よく開発を進めることで、開発期間をかなり短縮できます」(査氏)。

製品の競争力強化に確実に貢献

図6 Zynq-7000 SoC ZedBoard  
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同社の見積もりでは、Zynq-7000 All Programmable SoC および TDP の導入による具体的な効果はかなり大きい。例えば、マイクロプロセッサ、DSP、FPGA の 3 チップで構成していたドライブ・アシスト・システム用カメラの場合、3種類のチップの機能を1個の Zynq-7000 デバイスに統合できる。同時に、Zynq-7000 デバイス上のプログラマブル・ロジックをダイナミックに切り替えながら、従来は別々の回路で構成していた機能を一つの Zynq-7000 デバイスで提供することで、システム・パフォーマンスは130%以上も向上。BOM コストを25%削減。システム全体の消費電力を半分に削減できるという。「1週間もあれば、試作車を走らせることができるでしょう」(査氏)。

二つの FPGA とマイクロプロセッサで実現した液晶ディスプレイ用信号処理回路の場合、二つのデバイスの機能を Zynq-7000 All Programmable SoC に統合することで、システム・パフォーマンスは20%向上、BOMは半減。システム全体の商品電力も約半分になる。

マイコンまたはプロセッサと、FPGA の二つを組み合わせて実現したモーター制御回路の場合、Zynq-7000 All Programmable SoC を使って二つのデバイスを統合することで、システム・パフォーマンスが30倍にも向上。BOM コストを22%も減らしたうえで、消費電力を15%削減できるはずだと言う。

ここにきてエレクトロニクス機器設計者を取り巻く市場の環境は一段と厳しさを増してきた。市場にニーズを先取りした Zynq-7000 ファミリは、こうした状況を打破する強力なソリューションをもたらす可能性を秘めている。Zynq-7000 ファミリの市場投入が本格化してきたのを契機に Zynq-7000 ファミリに対する市場の関心は、ますます高まるに違いない。

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