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いよいよ登場したデジタルネイティブ世代の計測器 パーソナルファブリケーションに挑むプログラマが体験

いよいよ登場したデジタルネイティブ世代の計測器、パーソナルファブリケーションに挑むプログラマが体験

ナショナルインスツルメンツが、“ジェネレーション Y”と呼ばれるデジタルネイティブ世代のコンセプトを意識して開発した新世代の計測器「VirtualBench」を発売した。最大の特徴は、ユーザ・インタフェースに、パソコンやタブレット端末を採用したことで、現代社会のテクノロジーの利便性と直感性を高め、開発の生産性を向上させることができることだ。その効果を確かめるため、計測器などの経験の薄いソフトウエア・プログラマに、VirtualBenchを実際に体験してもらった。

ジェネレーションYとは、1980年代以降に生まれた人たちを指す。1960年~1970年代半ばに生まれた人たちが、以前の世代と異なる特徴を示す傾向が指摘され、「ジェネレーションX」と呼ばれた。これに続く、さらに新しい世代がジェネレーションYだ。

ケーシー スワロー氏
日本ナショナルインスツルメンツ
マーケティング部門
テクニカルマーケティングエンジニア 

ジェネレーションYの大きな特徴は、「デジタルネイティブ」。この世代が生まれたころには、すでにコンピュータが存在した。成長する時期にはポケベルや携帯電話といったモバイル機器が急速に発達している。インターネットも普及した。こうした環境に中にいたジェネレーションYは、パーソナル・コンピュータをはじめとする様々なデジタル機器やモバイル機器を当たり前にように使いこなし、それらを使ったコミュニケーションに慣れている。「すでにジェネレーションYは、社会に出て製品開発の現場などで大きな役割を担うようになりました。そこでジェネレーションYの価値観や感性を用いた計測システムが必要になると考えました」(日本ナショナルインスツルメンツ マーケティング部 テクニカルマーケティングエンジニア ケーシー スワロー氏)(図1)。

図1 新しいコンセプトの計測器「VirtualBench」

タブレット端末かPCで操作

VirtualBenchは、外形寸法が190.5(奥行き)×254(幅)×73.66(高さ)mmと小型のベンチトップ型計測器で、ミックスドシグナルオシロスコープ、デジタルマルチメータ、関数発生器、プログラマブル直流電源、デジタルI/Oの5種類の基本的な計測器の機能を備えている。各機能を制御したり、測定データを表示したりするためのユーザ・インタフェースに、パソコンまたはiPadを使う。無線LAN機能を内蔵しており、iPadはワイヤレスで接続可能だ。

「iPadのタッチパネルや、パソコンのマウスなど使い慣れたユーザ・インタフェースを導入することで、ジェネレーションY以外の世代のエンジニアにとっても扱いやすい計測環境を実現しています」(スワロー氏)。ジェネレーションY以前の世代では、特定の機能に特化したスタンドアロン型の計測器が主流だ。しかも、その多くは、操作パネルに多数のつまみやスイッチが並び、使い方は機器によって異なる。つまり、それぞれが固有のインタフェースを備えている。こうした機器を使いこなすには、機器ごとにある程度の学習や訓練が必要だった。

回路の知識なしでハードウエア開発

村岡正和氏
バスタイムフィッシュ
チーフアーキテクト

では実際にハードウエアにあまり触れたことのないエンジニアが、このVirtualBenchの直感性をどのように評価するのだろうか。これを検証するために、1975年生まれのソフトウエア・プログラマで、バスタイム フィッシュチーフアーキテクトの村岡正和氏に、VirtualBenchに触れてもらった。

同氏は、Webシステムの設計開発やIT関連の技術コンサルティングなどを手掛ける一方で、関西のHTML5コミュニティ HTML-5WEST.jpの代表も務め、HTML5を中心としたWeb技術の普及にも取り組んでいる。さらにハッカソンなどのIT関連のイベントを主催したり、様々なIT関連のコミュニティ活動にかかわったりするなど、関西を中心に多彩な活動を展開している。プログラマである同氏は、ソフトウエアの技術に精通しており、パソコンやタブレット端末などのデジタル機器を自由に使いこなすことができる。ただし、電気回路を扱った経験は、ほとんどなかった。

図2 監視システムを取り付けた猫用トイレと村岡氏が自作したハードウエア

ところが、最近になって小型コンピュータを使ったパーソナルファブリケーションに取り組むようになった。「Arduinoなど安価な小型コンピュータや、それに組み合わせて使える様々なセンサ・モジュールや通信モジュール、さらに使いやすい開発ツールが次々と登場したことで、電気回路の知識がないソフトウエア・エンジニアでも様々なハードウエアを開発できるようになったからです」(村岡氏)。すでに猫用トイレの監視システムなどを自分自身で開発し、実際に自宅で稼働させている同氏だが、開発の過程で計測器は使っていなかった(図2)。ソフトウエアのふるまいだけを見て、システムの動作を確認していたという。デジタル機器を使いこなしながら、計測器に触れた経験がまったくない。しかも、いまハードウエア開発に取り組んでいるという同氏は、VirtualBenchの特徴を検証するうえで格好の人材といえよう。

シンプルなGUIに好感

iPadがワイヤレスで接続されているVirtualBenchを実際に見た村岡氏は、従来の計測器よりも身近な印象を受けたと語った。「従来の計測器を見ると操作パネルにボタンやつまみが並んでいて、素人を寄せ付けない感じを受けます。これに対してiPadに表示されているVirtualBenchの操作画面はシンプル。計測器を操作した経験がほとんどない私でも、ちょっと触ってみたいと思いました」(村岡氏)。

続いて同氏は、持参した猫用トイレ監視システムのハードウエアの動作をVirtualBenchで観察することにした。このシステムは、猫がトイレに出入りするのを検出して、同氏が携帯しているスマートフォンにアラートを自動的に送信するシステムだ(猫用トイレ監視システムの概要は別掲のコラムを参照)。

最初に猫の出入りを検出する人感センサの出力波形をVirtualBenchのミックスドシグナルオシロスコープの機能を利用して観察した。このセンサは、入力部の前方に物体が来ると、デジタル出力が変化する。村岡氏は出力がリアルタイムで変化する様子を視覚的に確認するのは初めてだという。「センサのふるまいを目の当たりにして興奮しました」(村岡氏)。

さらに同氏は、その場で小型コンピュータのプログラムを書き換えてWi-Fi経由でWebサーバーにリクエストを送信し、「Hello World」というメッセージをレスポンスとして受け取るシステムを実現。メッセージを受け取ったときの受信回路の波形を観察した。「おなじみのメッセージですが、波形という形で見るのは初めて。新鮮な印象を受けました。また簡単なレクチャーだけで本格的な計測器が操作できたという体験は、私にとって刺激的でした」(村岡氏)

計測/テストの重要性を再認識

短時間ながらVirtualBenchに触れた村岡氏は、ハードウエアとかかわる際に計測/テストが重要であることを改めて認識したという。「趣味の範囲ですが制御のためのプログラミングを始めて、データ処理のプログラミングとは違うおもしろさと同時に難しさを感じています。ハードウエアの場合は、エラーとなる現象が明確に現れるとは限らないからです」(村岡氏)。例えば動作はするものの、安定しないといった現象は、挙動だけを見ていても原因が、なかなか分からない。「実際に計測器に触れて、回路のふるまいを観察できることが分かり、計測/テストの重要性を改めて認識した次第です」(村岡氏)。  

体験を終えた村岡氏は、ハードウエアの専門家でなくても扱える計測器やテスト・フレームワークのニーズは、これから高まる可能性があると指摘した。「IoT(Internet of Things)の普及などを背景に、技術が多様なスキルを求められるようになったからです。今後ソフトウエア・エンジニアが、ハードウエアを扱うケースは増えるでしょう」(村岡氏)。ジェネレーションYの技術者を取り巻く環境の変化を、いち早く実感している村岡氏は、VirtualBenchのコンセプトに新しい可能性を感じたようだ。

切実なニーズから生まれた猫用トイレ監視システム
図A 村岡氏の愛猫

村岡氏が愛猫のためにトイレ監視システムの開発を始めたキッカケは、猫用トイレの糞が残ったままになっているのを見過ごしていたために、高価な羽根布団の上に猫が用を足してしまったという事件を経験したことだった(A)。「糞が残ったままのトイレには猫は入りません。そのままにしておくと、トイレ以外のところで用を足してしまいます。これを避けるためには糞をしたときには、速やかに掃除しなければなりません。そこでトイレに入ったことを、即座に把握できる装置が欲しいと思ったわけです」(村岡氏)。ちょうど、そのタイミングで、以前に発注していた小型コンピュータが手元に届いたことから、それを利用して猫用トイレ監視システムを開発することにした。

同氏が開発したシステムは、猫がトイレに出入りするタイミングを検出して、同氏が携帯しているスマートフォンにアラートを自動的に送信する。具体的には、猫用トイレに取り付けた人感センサの出力の変化を、無線LANを経由して同氏が利用しているクラウド・サーバに送信。新しいデータが送られてくるとクラウド・サーバから同氏のスマートフォンにアラート・データを自動的に送信する。人感センサの変化を検出し、クラウド・サーバに送信するハードウエアは、汎用の小型コンピュータ「Espruino」と、人感センサ・モジュール、無線LANモジュールを組み合わせて実現した。

サーバには、人感センサの変化を受信した時間がデータとして蓄積されている。「このデータを見ると、トイレに猫が入った時間と出た時間が分かります。ここからトイレの滞在時間を割り出せば、糞をしたのか、排尿だけだったのかを区別することも可能なはずです。これを実現するもっと利便性が高まるでしょう」(村岡氏)。

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