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第3回:着実な成長を続けるモータードライバIC事業、鍛え続けてきた独自技術が大きな強みに

図1 モータードライバICの外観

サンケン電気はパワー半導体と呼ばれる電力の制御や供給を行う半導体製品を基幹事業としており、同社はこのパワー半導体の事業を、「車載」「パワーコンバージョン」「モーター・コントロール」といった大きく三つの分野に向けて展開している。このうちのモーター・コントロールの分野では、モータードライバICで省エネ化を求める顧客のニーズを掴み、着々と新たな市場を開拓している(図1)。

佐々木正宏氏
サンケン電気 執行役員 
技術本部 MCD事業部長

「モータードライバIC製品の売上は約15%という高い年平均成長率を過去10年間にわたって維持しています。サンケン電気が手掛ける数多くの事業の中でも、安定して成長を続けているのがこのモータードライバIC製品の事業です」(サンケン電気執行役員技術本部 MCD事業部長 佐々木正宏氏)。

白物家電向け市場で高い存在感

同社のモータードライバICが多く使われている用途は、家電製品と産業機器・OA機器である。その中でもモータードライバIC製品事業全体の約7割を占めるのが、いわゆる白物家電に向けた製品群である。

具体的には、エアコンの室内機や室外機に組み込まれているファン、室外機のコンプレッサー、冷蔵庫のコンプレッサー、洗濯機のドラム駆動などに組み込まれているモーターのインバータ制御回路に同社製品が使われている。「日本の主要なエアコン・メーカー様のすべてが、サンケン電気のモータードライバICを採用してくださっています。また、エアコンのファン・モーター用ドライバICのユーザーは現在、日本から世界各地に広がっています」(佐々木氏)。

いち早く低電流品にMOSFETを採用

多くの顧客を引き寄せる特長を打ち出すことができた背景には、同社の技術的な戦略がある。サンケン電気は、最初に5A以下の低電流領域の製品で、白物家電市場への参入を試みた。IGBTをパワー出力に使用したワンチップのモノリシックICが広く使われていたこの領域に、MOSFETをパワー出力に使用した製品を投入したのだ。

図2 マルチチップICの構造例
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IGBTは大電流の用途には向いているものの、小電流では損失が大きくなり、モーターの連続回転動作に対して省エネ効果が充分に出せない。実はIGBTの代わりにMOSFETを採用すれば、損失を抑え、大幅な省エネを実現できることは理論的にはわかっていた。ところが市場では、当時は依然としてIGBTを使用した製品が一般的だった。モノリシックIC上にMOSFETを形成すると、素子の構造上、大幅にチップサイズが大きくなってしまい、パッケージのサイズアップ、製品のコスト上昇が避けられないからだ。これに対してサンケン電気は、モノリシックICとディスクリートチップを分けてワンパッケージに収めるマルチチップというパッケージ技術を導入することでこの問題を解決した(図2)。

出力にMOSFETを使った低消費電力のモータードライバICは、IGBTを採用した従来製品を使っている数多くのユーザーを惹きつけた。「出力定格5A以下のICを使うエアコンや冷蔵庫などの家電製品のメーカーが、サンケン電気の製品に切り替えるキッカケをつくってくれました」(佐々木氏)。

マルチチップICを戦略的に展開

同社がモノリシックICではなくマルチチップICを選択した理由は二つある。一つめは熱対策だ。ワンチップでは熱が集中してしまい、パッケージの発熱上限に遮られ充分なパフォーマンスを発揮できない。チップを分けて発熱源を分散させれば、限られたパッケージの放熱性を充分に引き出すことができる。

二つめが堅牢性の向上と低オン抵抗化だ。ワンチップ構造の中にパワー出力回路を内蔵すると、モノリシックICへと組みあげる製造プロセスが長くなると同時に、ディスクリートチップに求められる堅牢性・低オン抵抗という性能を最大限に引き出すことができない。「大電流や高い電圧を扱うモータードライバICの場合、半導体素子にかかるストレスはどうしても大きくなります。こわれにくい製品を実現するには、ストレスがかかりやすいパワー出力回路と、ストレスが少ない制御回路を別々にして、それぞれ最適なプロセス技術で実現した方が有利です。また、1チップのモノリシックICの方がコストの点では有利に見えるかもしれませんが、モノリシックICにパワー部を内蔵するとプロセス技術が複雑になるため必ずしも安価になるとは限りません」(佐々木氏)。

このマルチチップ技術はサンケン電気が長い間OA機器用の低圧モータードライバICで培ってきた技術だ。現在は白物家電に事業の軸をシフトしてはいるが、同社では約30年前の1980年代からドット・プリンタに使われるステッピング・モーターのドライバICを提供してきた。消費電力の低減と信頼性を重視した結果、マルチチップ技術を業界で初めて取り込んでICを開発し、その後、長年にわたってノウハウを積み重ねてきたのだ。この結果、サンケン電気の製品は消費電力が低いうえに、「なかなかこわれない」という既存顧客の評価を生んだ。その評判が他の顧客の耳に入り、それがキッカケで取引が始まることが、これまでにたびたびあったという。

高集積化で業界をリード

豊富なマルチチップICのノウハウを駆使してサンケン電気は、モータードライバICの小型化と高集積化を推進してきた。大幅な省エネで市場にインパクトを与えた後も、周辺部品の取り込みや新機能の追加という新しい付加価値を設計者に繰り返し提供していることが、市場で高い評価を受けている大きな理由のひとつになっている(図3)。「2001年~2003年は、6チップのパワー素子を集積した製品を提供していました。その後、複数のモノリシックICとディスクリートチップを集積する高度なマルチチップ化を開始。周辺回路まで取り込むと同時に小型化も進めました。最新の製品では、小型薄型パッケージに13個のチップを集積しています。これだけ高集積のマルチチップ型モータードライバICは、市場でなかなか見当たらないと思います」(サンケン電気 技術本部 MCD事業部 開発グループリーダー 舩倉清一氏)。

図3 マルチチップICの高集積化を推進
多彩な製品ラインアップを提供
舩倉清一氏
サンケン電気 技術本部
MCD事業部
開発グループリーダー

現在、白物家電向けモータードライバICで主力となっているのは次の三つのシリーズだ。エアコンファンモーター市場で最初にヒットした定格電流3A以下の小型品「SMA6820Mシリーズ」。そのシリーズを進化させた面実装型小型薄型パッケージの「SX68000Mシリーズ」。更に白物市場の実績を拡大するため打ち出した定格電流5A~30Aを網羅する大型品「SCM1200Mシリーズ」である。このSCM1200Mシリーズで電流の大きい領域への参入も果たした。

同社の製品で注目すべきは、パッケージの種類も豊富なことだ(図4)。「モータードライバICの場合、標準的なパッケージがないため、メーカー各社がそれぞれ独自に開発しています。つまりパッケージは、製品の差異化を図るためのひとつのポイントになります」(舩倉氏)。具体的には、モーターへの内蔵に適した表面実装型の「SX」、実装面積を抑えたシングルインライン型の「SMA」や「SLA」、端子間の絶縁距離を確保し実装レイアウトを向上させた小型DIP型の「SIM」、電流定格30Aまで対応した「SCM」など多数のパッケージを揃えている。

図4 多彩なパッケージを用意

パワーICに最適な技術を蓄積し、これを強みに売上を伸ばしているサンケン電気のモータードライバIC。エコと省エネに対するニーズが高まる中、モータードライバIC市場における同社の存在感は、ますます高まりそうだ。

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  • サンケン電気株式会社


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