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立ち上がるワイヤレス・ヘルスケア市場「入口から出口まで」の半導体デバイスを提供

「ワイヤレス・ヘルスケア」と呼ぶ新市場が本格的に立ち上がる兆しを見せ始めている。これは、ウェアラブル端末を介して取得したヘルスケア関連の情報を、ワイヤレス通信でクラウド上のサーバーに蓄積していくというもの。ユーザーは、蓄積したデータを確認することで健康状態の推移を確認できるとともに、将来的には医師や看護師、栄養士などによる診察や相談が行えるようになる見込みだ。

世界に先駆けて高齢化が進行している日本。今後、ヘルスケアに気を配る人たちが増えて行くことは想像に難くない。従って、国内におけるワイヤレス・ヘルスケア市場のビジネス規模は、ものすごいスピードで拡大していくだろう。

各種センサに対応したAFEを用意

ワイヤレス・ヘルスケアに対応したウェアラブル端末を実現するには、少なくとも三つの半導体デバイスが必要になる(図1)。一つは、生体情報を取得するセンサから出力されたアナログ信号を処理するアナログ・フロント・エンド(AFE)。二つめは、生体情報に対してデジタル処理を施すマイコン。三つめは、生体情報をクラウド上のサーバーなどに送信するために必要なワイヤレス通信トランシーバである。

図1 ウェアラブル端末を実現する三つの半導体デバイス
アナログ・フロント・エンド(AFE)、マイコン、ワイヤレス通信トランシーバの三つの半導体デバイスで構成する。
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テキサス・インスツルメンツ(TI)は、この3種類のデバイスを一括して供給できる数少ない半導体メーカーの一社である。「入口から出口まで、すべての半導体デバイスがそろっている。しかも、半導体デバイスそれぞれの性能が高く、市場競争力も高い」(同社)という。

さまざまな生体情報の取得に向けたAFEを用意

それでは、まずはAFEから見ていこう。現在同社は、ワイヤレス・ヘルスケア市場に向けて数多くのAFEを製品化している。この中から「AFE4300」、「AFE4400/AFE4490」、「ADS1294R」について詳しく紹介する。

一つめの「AFE4300」は、体脂肪や体重、脈拍、呼吸数などの測定に向けたAFEである(図2)。体重測定もしくは脈拍、呼吸数などの測定するブリッジ・センサ入力を備える。さらに、4電極法(Tetra Polar Method)を利用した生体インピーダンス測定に対応する。人体に印加するパルス信号を生成するD/Aコンバータも搭載した。このほかに集積した機能は、アンプやLDOレギュレータ、16ビット分解能で860サンプル/秒のA/Dコンバータなどである。TIによると「従来は、ディスクリート部品を組み合わせて構成する必要があった。必要な機能をすべて1チップに集積したのは、今回のAFEが初めて」という。

図2 体組成計の内部ブロック図
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二つめの「AFE4400/AFE4490」は、脈拍数や動脈血酸素飽和度の測定に向けたAFEである(図3)。赤外光を出力するLEDを人体に照射し、透過した光をフォトダイオードで検出することで脈拍数や動脈血酸素飽和度を測定する仕組みを採用する。集積した機能は、トランスインピーダンス・アンプ(TIA)やΔΣ(デルタ・シグマ)型A/Dコンバータ、デジタル・フィルタ、LEDドライバなどである。

図3 パルス・オキシメーターの内部ブロック図
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AFE4400とAFE4490の違いは、ダイナミック・レンジの広さにある。AFE4490のダイナミック・レンジは105dBで、AFE4400は95dBである。ダイナミック・レンジが広ければ広いほど、微小な量の検出が可能になる。従って、AFE4490は、乳幼児や罹患者などの動脈血酸素飽和度の検出にも使える。医療機関で使用する検査装置への適用も可能だ。一方、AFE4400は、ダイナミック・レンジは若干狭いが、健常者の動脈血酸素飽和度の測定には十分な特性だと言える。従って、ヘルスケア機器に向く。

三つめは、心拍計や心電計(ECG:Electrocardiogram)に向けた「ADS1294R」である(図4)。生体電位を検出し、デジタル信号に変換して出力する機能を備える。入力チャネル数は四つ。すなわち、低雑音アンプ(LNA)とA/Dコンバータをそれぞれ四つずつ集積した。A/Dコンバータの分解能は24ビットで、最大サンプリング速度は32kサンプル/秒と高い。「医療機関で使用する心電計にも適用できる性能」(同社)という。

図4 心電計の内部ブロック図
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なお、心拍計や心電計、脳波計などに向けたAFEは現在15製品あり、この中から用途に応じた製品を選ぶことができる。A/Dコンバータの分解能を最適化したAFE「ADS11xx」も用意している。分解能は16ビットだが、一般家庭などの使用には十分な精度が得られる。

電池駆動時間を延ばすマイコンとトランシーバ

ワイヤレス・ヘルスケアに対応したウェアラブル端末を構成する際に必要な三つのデバイスのうち、残る二つのデバイスであるマイコンとワイヤレス通信トランシーバについて見ていこう。

ウェアラブル端末に最適なマイコンは、超低消費電力が最大の特長の16ビット・マイコン「MSP430F5528」である。このマイコンは、アクティブ時の消費電流が250μAと非常に少ない上に、スタンバイ時も1μAと低いことである。起動時間が1μs以下と極めて短いため、測定時だけ動作させて、それ以外の期間はスタンバイ状態にとどめておくことが可能になる。このため、エネルギー容量が少ない電池でも、交換なしで数ヵ月も動作するウェアラブル端末を実現できるようになる。

ワイヤレス通信トランシーバは、近距離ワイヤレス通信技術「Bluetooth 4.0」規格の低消費電力モードであるBLE(Bluetooth Low Energy)に対応した「CC2541」である。送信時と受信時の消費電流も小さい。このためウェアラブル端末の電池駆動時間の延長に貢献するわけだ。データ伝送速度は、250kビット/秒~2Mビット/秒に対応する。生体情報の伝送には十分な値である。消費電流をさらに低減させるには、通信頻度を最適化させることも効果的だ。

このほかこのトランシーバには、8ビット・マイコン・コア「8051」や、8KバイトのRAM、256Kバイトのフラッシュ・メモリ、リアルタイム・クロックなども集積されている。

魅力的なサービスとの融合で大市場へ

TIでは、ワイヤレス・ヘルスケア市場の可能性の高さを示すことを目的に、前述の半導体デバイスを使って「Health Hub」というデモ機を試作した(図5)。それらで取得した生体情報はタブレット端末に搭載したソフトウェアで収集し、表示する。今回試作したのは、二つのグリップを握って測定する体組成計と、体に取り付けて使用するウェアラブルな心拍/心電計、指を差し込んで動脈血酸素飽和度などを測定するクリップ型の装置を腕時計型端末に接続して使うパルス・オキシメーター、腕時計型端末で実現した脈拍計の四つである。

図5 「Health Hub」のデモ
TIの半導体チップを使って実現したヘルスケア機器を使って測定した生体データをワイヤレスでタブレット端末に送り、測定データやグラフを表示するデモである。
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これらのヘルスケア機器を使用する場合、まずはタブレット端末とのペアリング作業を実行する。この作業が完了すると、測定データがタブレット端末に送信され、その結果が数値やグラフで表示される。さらに、測定結果は記録装置に格納されており、携帯電話ネットワークや無線LANを使えばクラウド上のサーバーにデータを蓄積できる。

同社は、「技術的にはすでに、さまざまなウェアラブルなヘルスケア機器を実現することが可能になっている。これが医師などによる診断など、魅力的なサービスと融合すれば、爆発的に普及するだろう。TIは、測定精度や低消費電力化、小型化などをさらに押し進めることで、ウェアラブル・ヘルスケア市場の拡大に貢献して行きたい」という。


[関連リンク]
TIは、マイクロコントローラ、高速アンプ、高解像度イメージング DSP に関する 専門知識を、個人用医療機器と医療用イメージング製品向けに活用しています。詳細は以下のウェブサイトをご覧ください。
■ 医療/ヘルスケアの最終製品   ■ Health Tech の概要

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