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RF信号の連続記録/再生が可能に、ロケット管制の課題解決に大きな一歩

RF信号の連続記録/再生が可能に、ロケット管制の課題解決に大きな一歩

幅広い技術を利用しながら斬新なアイデアを素早く形にできる環境を提供するナショナルインスツルメンツ(NI)のシステム開発ソフトウェア「NI LabVIEW」。最先端の領域で新たな課題に挑む技術者の間で多くの支持を集めている。日本の宇宙開発をリードする独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)はLabVIEWとPXIモジュール式計測器を使って、RF(高周波)信号を連続で記録/再生できる装置を開発。ロケットと地上を結ぶ通信システムで発生する通信障害の原因解明に向けて大きな一歩を踏み出すことができた。

8月の「H-II B」の4号機に続いて、9月には12年ぶりの新型ロケット「イプシロン」と、JAXAは2013年に相次いで打ち上げに成功した(図1)。これらの打ち上げに合わせてJAXAが、新たに導入した設備の一つが、LabVIEWとPXIモジュール式計測器を使って実現したRF信号の記録/再生システムだ(図2)。飛行中のロケットから送られてくる様々なデータを地上で記録するテレメータの無線通信システムで使われているRF信号を記録/再生することができる。しかも、このシステムにはスペクトラムアナライザなど記録したRF信号を解析するための機能も盛り込まれている。多彩な機能を一つのシステムに集約できるLabVIEWを活用したからこそ実現できた合理的な装置だ。

図1 2013年9月14日に打ち上げた国産ロケット「イプシロンロケット」
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図2 新たに導入したRF信号の記録/再生システム
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「ロックオフ」の抑制が課題に

油谷崇志氏
独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙輸送ミッション本部 鹿児島宇宙センター射場技術開発室 主任開発員

この装置をJAXAが開発するキッカケとなったのは、レーダーシステムと飛行中のロケットで計測したデータを地上の計測装置に無線伝送するテレメータ(遠隔計測装置)の両方を使って集めていたデータを、テレメータだけで集める方針を決めたことだった。従来は、レーダーシステムでロケットの位置や速度を把握。温度、加速度、振動などロケット本体にまつわるデータを、テレメータで収集していた。ところがレーダーシステムの老朽化が進んできたのを契機に、テレメータだけですべてデータを取得するシステムに移行することにした。レーダーシステムの更新にかかる費用が、テレメータの更新費用よりもはるかに大きかったからだ。

ところが、テレメータを使ってデータ収集する場合に大きな問題が一つあった。ロケット打ち上げ直後の十数秒の間、明らかに異常な突発的なデータが頻繁に記録される「ロックオフ」と呼ばれる通信障害が発生することだ(図3)。「テレメータのロックオフはこれまである程度は許容されていました。併用していたレーダーシステムで情報を補完できたからです。今後、テレメータだけでデータを集めるとなると、問題にならないレベルまでロックオフの発生を抑える必要があります」(JAXA宇宙輸送ミッション本部鹿児島宇宙センター射場技術開発室主任開発員 油谷崇志氏)。

図3 打ち上げ直後に発生するロックオフ
ロケット機体のある部分の温度を打ち上げ直後から記録したもの。打ち上げ直後にロックオフが頻発しているのが分かる。
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繰り返し観察できる装置が必要に

ロケットの打ち上げ直後に発生する激しい振動、海面や周囲の構造物での電波の反射、ロケットが発する猛烈な噴煙が招く電波の散乱などロックオフを招く原因はいくつか考えられている。ところが、実際にロックオフが発生する仕組みが、まだ解明されていないのが現状だ。「ロックオフが発生した瞬間の電波の状態を、詳しく観察できる装置がなかったからです」(油谷氏)。

JAXAでは、受信したデータをビットごとに調べたり、受信電波を入力したスペクトラムアナライザのモニタ画面をビデオカメラで撮影し、その波形を集録後に観察したりして、ロックオフが発生する仕組みの究明に取り組んできた。「残念ながら過去に取り組んできた手法では、うまく解明できませんでした」(油谷氏)。

ロックオフが発生する仕組みを明らかにするには、通信に使っているS帯の電波の波形をつぶさに観察できるシステムが欲しい。「RF信号をI/Qデータの形で長時間記録/再生できる装置があれば、実際の通信状態における波形を何度も再現しながら、ロックオフの仕組みを解明したり、対策を検討したりできるようになります」(油谷氏)。

高性能と扱いやすさを両立

JAXAが、こうした装置の開発に本腰を入れることにしたときに、有力なプラットフォームとして浮上してきたのがLabVIEWとPXIモジュール方式の計測システムだった。「高周波信号を扱う回路のパフォーマンスの高さを重視するのはもちろんのこと、省スペース、低コスト、拡張性、扱いやすさ、メンテナンス性など、開発に当たっての必要条件は数多くありました。これらの条件を網羅したシステムを実現するうえで、もっとも有利だと判断しました」(油谷氏)。つまり、COTS(commercial off-the-shelf)として用意されているモジュール群やシャーシを組み合わせて所望のハードウェアを効率良く構築できる。しかも、完成された製品で構成されたハードウェアなので性能や品質も確保されている。

さらに直感的に操作できるグラフィカルインタフェースを備えたLabVIEWを使って、ハードウェアに実装するアプリケーションや制御プログラム、さらにシステムのユーザインタフェースまで短時間で開発することが可能だ。「LabVIEWを利用して、RF信号の記録/再生だけでなく、解析機能も盛り込むことができる点も見逃せません。一つのシステムで測定から解析まで一気に進めることができます」(油谷氏)。

自由に機能を変更できるのが魅力

JAXAの場合、シャーシに18スロットの「PXIe-1075」を採用。ここにコントローラ「NI PXIe-8135」、ベクトル信号アナライザ「NI PXIe-5665」、ベクトル信号発生器「NI PXIe-5673」を組み込んだ。さらに、このシステムに記憶装置として容量6Tバイトのハードディスク装置「NI HDD-8625」を接続した。このほかに移動測定向けに、コントローラとベクトル信号アナライザだけを小型シャーシに収めたシステムも使っている(図4)。JAXAでは、2013年8月の「H-II B」の4号機と、2013年9月のイプシロンの打ち上げの際には、この装置を使って電波環境がもっとも厳しい打ち上げ直後の機体データを集録することに成功した。「これまでなかなか実現できなかったRF信号の記録/再生が実現できたことは、JAXA内でも話題になりました。すでに、ほかの用途にも展開できるのではないかという意見がJAXA内で挙がっています」(油谷氏)。

図4 可搬用の集録システムも用意
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最先端の技術を駆使する宇宙開発の現場では、既存のシステムで対応できない要求は少なくないはずだ。こうした問題に直面したときに、必要なシステムを自由に、しかも効率良く構築できるLabVIEWやPXIモジュール式計測システムは、多いに役立つ。その好例が、JAXAが開発したシステムだと言えよう(油谷氏)。

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  • RF事例集


    主な内容
    PXI 製品により、ロケットからのRF 信号の長時間記録と再生に成功/グラフィカルシステム開発とVSS の融合でRF システムの短期開発を実現 /Qualcomm Atheros 社、NI PXI ベクトル信号トランシーバとNI LabVIEW を使用して無線LAN テストの速度向上と受信範囲拡大を実現 ほか

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