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ひらめきをキッカケに専門外のセンサを開発、基礎研究から応用開発まで網羅する環境を活用

ひらめきをキッカケに専門外のセンサを開発、基礎研究から応用開発まで網羅する環境を活用
中山 昇 氏
信州大学
工学部 機械システム工学科
准教授 博士(工学)

ナショナルインスツルメンツ(NI)のシステム開発ソフトウェア「NI LabVIEW」が技術者に提供する大きな魅力の一つが、現状の知識や経験に縛られず、幅広い技術を利用しながら、速やかにアイデアを形にできる環境を実現できることだ。これを実践したユーザの一人が信州大学工学部機械システム工学科准教授の中山昇氏である。材料開発が専門の同氏は、ユニークな柔軟接触センサを考案。NI LabVIEWやNI CompactDAQシステムなどを活用しながら、その技術を実用レベルまで発展させた。

設計、試作、実装、テストといった製品開発の一連の工程で必要な様々なシステムを開発するためのソフトウェア「NI LabVIEW」。様々な機能を表すブロックを、パソコンの画面上に並べてブロックダイアグラムを作成することによって、簡単にシステムをプログラミングできるのが特長だ。しかもNIが、あらかじめ用意している多彩なハードウェア群を利用することで、システム設計,ソフトウェア開発,回路設計,シミュレータ,検証など幅広い用途を網羅する動作環境を短時間で実現できる。

ズリ落ちる状態も検出可能に

こうした環境を利用して、中山准教授の研究室では、ユニークな原理に基づく3軸荷重測定用柔軟接触センサの開発を進めている(図1)。このセンサは、カーボンナノチューブを均一に分散させた感圧導電体に力を加えて変形させると、それに応じて感圧導電体の抵抗値が変形する仕組みを利用したもの。垂直方向の荷重と水平方向の荷重(せん断荷重)が同時に検出できるのが特長だ。構造はシンプルである。表と裏に複数の電極を設けたシート状の感圧導電体の表面に、弾性材料が取り付 けてある。弾性材料に力が加わると、各電極間の抵抗値が変化する。それぞれの電極から得られたデータに処理を施すことによって、垂直および水平方向の荷重を割り出せる。複数の柔軟接触センサを平面に並べることで、3軸荷重のベクトル分布を検出することも可能だ(図2)。

図1 3軸荷重測定用柔軟接触センサの例
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図2 複数配置することで分布荷重ベクトルが測定可能
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接触部が弾性を備えているので、介護ロボットなどで人間に直接触れる部分の荷重を検出するのに向いています。 垂直方向だけでなく、水平方向の荷重も同時に検出できるので、得られる情報の幅が広がります。例えば、ベッドに横たわっている人や介護ロボットが支えている人がズリ落ちる状態が検出できるわけです」(中山氏)。3軸荷重を検出するために、ひずみゲージを利用する方法が従来からある。ただし、こうしたセンサは構造が複雑で、小型化に向かない。感圧導電性ゴムを使う方法もあるが、垂直方向の圧力しか検出できない。中山准教授らが開発中のセンサは、こうした従来のセンサの問題を解決できる可能性がある。「介護ロボットや産業用ロボットをはじめ、靴などに取り付けて姿勢や体のバランスの検出するシステムなど幅広い用途に展開できるでしょう」(中山氏)。

中山准教授らは、高度な切削加工技術を使った医療用部品などを手がかるスズキプレシオン(本社:栃木県鹿沼市)と共同で、このセンサの基本技術の特許を取得済みだ。すでに実用化の段階を迎えており、電気・電子部品を扱う商社の東亜電気工業が、このセンサを応用した製品を製造、近く販売する予定だ。

センサ開発のキッカケはボール

 実は、中山准教授の専門分野は金属加工である。様々な種類の粉末状金属を混合して新材料を開発する粉末冶金の技術を研究している。その中山准教授が、専門外のセンサの開発に着手したキッカケは、金属粒子の変形について研究するために手に入れた軟式テニス用のゴムボールだった。約10年前のことである。「押しつぶしたボールが変形しているのを見ていたときに、3軸同時に測定できる柔軟接触センサのアイデアがひらめきました」(中山氏)。

春日翔平 氏
信州大学
工学部 理工学系研究科 
機械システム工学専攻
中山研究室 修士1年

同氏は、このアイデアを具体化するための研究を始めた当初からNI LabVIEWを導入した。センサから必要な情報を得るには、出力信号を処理するシステムが必要なる。そのシステムのプログラミングにNI LabVIEWを使った。「NI LabVIEWの存在を知ったのは、まだ大学院生だったころです。摩擦に関する研究をしていた隣の研究室でNI LabVIEWを使っていました。複雑なデータ処理を実行するシステムを、NI LabVIEWを使って次々と開発していたのが印象的でした。それを覚えていたことから、センサの研究を始めるに当たって、NI LabVIEWを是非導入したいと考えました」(中山氏)。実際に同氏は、まずNI LabVIEWとNI PXIモジュール式計測システムを購入。その後、NI CompactDAQシステムなどを買い増した。

柔軟接触センサの研究には、中山准教授の研究室に在籍する学生が数多く参加している。学生の一人で、柔軟接触センサの研究に携わる春日翔平氏は、NI LabVIEWの習得は簡単だったという。同氏は、先輩らが開発した既存のプログラムに、改良を加えるかたちでNI LabVIEWを利用している。「それまでコンピュータの授業でC言語とFortranを少し使ったことがある程度。必ずしもソフトウェアのプログラミングに慣れているわけではありませんでしたが、比較的短期間で扱えるようになりました」(春日氏)。

デモ機を素早く構築して検討

現在、中山准教授の研究室では、感圧導電体を使ったセンサ本体や柔軟材料を使ったアクチュエータ部分の試作を繰り返す一方で、スリッパや産業用ロボット、スポーツ用具など様々装置に実際に取り付けて動作を検証し、3軸柔軟センサの様々な応用の可能性を探っている。実験システムの構築には、NI LabVIEWとNI CompactDAQシステムを利用している(図3)。NI CompactDAQシステムは、シャーシとI/Oモジュールで構成されており、シャーシには1スロット~8スロットのI/Oモジュールが挿入できるようになっている。50種類以上も用意されているI/Oモジュールの中から用途に適したモジュールを選択して取り付けることによって、必要とする電気/センサ計測システムを自由に構築できる。構築したシステムは、USB、Ethernet、Wi-Fi経由でホストコンピュータに接続して動作させることができるほか、内蔵コントローラにより単体で動作させることもできる。

図3 NI CompactDAQシステムを利用した試作システム

例えば、3軸柔軟センサで捉えた荷重ベクトルをパソコンに表示するシステムでは、試作したセンサを自作のインタフェース回路を介してNI CompactDAQシステムに接続。NI CompactDAQシステムのUSBインタフェースに接続されたパソコンでデータを収集したり、表示したりできるようになっている。データを取得したり、パソコンにグラフを表示したりするアプリケーションは、NI LabVIEWで作成し、NI CompactDAQシステムに実装されている。

小型堅牢な試作機でアピール

新たに開発したセンサの可能性を追求するうえで、NI LabVIEWやNI CompactDAQシステムのような既存の装置を利用して試作システムを素早く構築できることがもたらす利点は大きいと中山准教授は言う。「実際に動作するものを見せることによって、センサの特長を幅広い分野の人に直感的に認識してもらえるからです」(中山氏)。中山准教授や学生らは、学会や展示会などの機会を利用して、NI LabVIEWやNI CompactDAQシステムで構築した試作機を公開し、3軸柔軟センサの特長を積極的にアピールしている。「NI CompactDAQシステムは、小型で持ち運びがしやすいうえに堅牢なので、デモンストレーションに使う試作システムを大学の外に持ち出しやすいのも大きな利点です」(春日氏)。

ふと浮かんだ中山准教授のアイデアから生まれた3軸柔軟センサ。研究が始まってから約10年を経て、いよいよ実用化の段階を迎えつつある。研究から応用開拓まで開発フェイズに応じて最適なプラットフォームを提供するNI LabVIEWを活用した好例と言えよう。

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