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センサーネットワーク時代の新たな幕開けを告げる、「Trillion Sensors Summit Japan 2014」開催:総論

毎年1兆個(1トリリオン個)ものセンサーを活用する「トリリオン・センサー社会」を10年以内に実現しようという動きが活発化してきた。医療やヘルスケア、流通や物流、農業、社会インフラなどのあらゆる部分にさまざまなセンサーを付加し、センシングしたデータを社会や生活に役立てていこうというのが狙いである。その未来像や関連技術を探るために、東京中野のコングレススクエアを会場にして、2014年2月20日と21日に「Trillion Sensors Summit Japan 2014」が開催された。

初日となる2月20日は、「トリリオン・センサー社会」の提唱者の一人であり、米TSensors Summit社会長と米Fairchild Semiconductor社Vice Presidentを務めるJanusz Bryzek氏が講演した。

同氏はセンサーは急成長を遂げる分野のひとつであり、今後20年のうちに45兆個ものセンサー需要が発生するだろうとの見通しを示した。テクノロジーとしては今後10年間で数百種にもおよぶ新たなセンサーが登場するだろうと述べた。2015年までにさまざまな分野を対象にした「トリリオン・センサー・ロードマップ」を策定する予定である。

続いて米Intel社のSandhiprakash Bhide氏がIoT(Internet of Things)マーケットについて概説した。これからのIoTアプリケーション市場は「どでかい」と形容したうえで、センサーが発する大量データの処理の軽減や、セキュリティやプライバシーなどの実装が課題になると指摘した。

橋梁研究の第一人者であり、内閣府戦略的イノベーション創造プログラムでインフラ担当の政策参与も務める東京大学特任教授の藤野陽三氏は、橋梁に代表されるインフラの老化や劣化は進行が緩やかなこともあり兆候を見つけるのはきわめて難しいとの課題を説明した。点検精度を高めて事故や補修費用を減らすためにも、生物の神経系に相当するインフラ監視向けセンサーネットワーク技術の確立が急がれると述べた。

リニアテクノロジーの小林純一氏は、ワイヤレスセンサーネットワークとして有望視されている「Dust Networks」を紹介した。消費電力がきわめて小さく電池だけで数年以上動作するのが特徴である。同社は応用拡大を図るためコンソーシアムの結成を計画中である。

人手作業とセンサー技術との融合が鍵

午後は講演3件とパネルディスカッションがあった。米Rambus社のDavid Stork氏は、同社が開発しているレンズレスの超小型イメージセンサー「PicoCam」を紹介した。80μmほどの回折格子を通したあと演算処理によって元画像を復元する。高精細な用途には適さないが、内視鏡など特定分野の応用を開拓したい考えだ。

NEXCO東日本の管理事業本部に属する松坂俊博氏は2020年に向けた「スマート・ハイウェイ」構想について講演した。従来のような人手による点検作業にセンサーやICTをいかに融合させていくかが重要になると述べた。2020年までに社内組織として「インフラ管理センター」を設立し、センシングデータや点検データの集約を一元化して、インフラの効率的な維持管理に努めていく考えである。

NTT系のシンクタンクである情報通信総合研究所の前川純一氏は2020年および2040年の情報インフラを展望した。2020年まではスマートフォンなどの端末が時代を牽引する一方、2040年に向けてはセンサー技術によってモノのインテリジェント化などが進んでいくだろうと述べた。また、そうした技術を高齢化問題に注ぎ込んで、日本が高齢化の課題解決で世界の先陣を切るべきと提案した。

一日目の最後には、「米国発の新ハイテク戦略と日本のビジネス・チャンス」と題したパネル・ディスカッション」が行われた。コーディネータはSPPテクノロジーズ社長の神永 晉(すすむ)氏が務め、パネリストには、前出のBryzek氏とBhide氏、およびカリフォルニア大学サンディエゴ校のAlbert Pisano氏が並んだ。

神永氏は、予防保全や予防医療に必要となるセンサー技術は整いつつあるとの見方を示し、今後の応用やさらなる技術開発に期待を寄せた。

Pisano氏はトリリオン・センサーの時代を持続させるための研究開発が大学の使命であると述べた。Bhide氏は、トリリオン・センサーはまだ部品レベルであり、きちんと飛行機として組み立てて離陸させていく必要があると指摘した。またBryzek氏はトリリオン・センサーのムーブメントの中で参加者それぞれが何ができるかを考えるべきと呼びかけた。

終了後は講演者を交えた名刺交換会が開かれ、活発な交流が図られた。

印刷によってナノセンサーを大量に製造

二日目は最初にカリフォルニア大学サンディエゴ校のAlbert Pisano氏が、センサーの原料となるナノ粒子をインクとして用い、凹版印刷のようにセンサーを大量かつ安価に製造する方法を紹介した。また、シール型の「電子タトゥー」センサーや、大面積の「電子スキン」といった同大学の研究成果の一端を合わせて紹介した。

蘭の研究機関であるHolst Centreからは生体データのセンシングを研究しているSywert Brongersma氏が登壇して、メディカルセンサーおよびヘルスケアセンサーの現状および将来について説明した。たとえば呼気中の特定の臭いに反応してコレステール量を検知するような選択性の高いケミカルセンサーが開発されることで、応用のさらなる拡大が見込めると述べた。

続いて、センサーアプリケーションで課題となるローパワー化について、日本テキサス・インスツルメンツの井崎武士氏が半導体デバイスベンダーの立場から講演した。将来のセンサーアプリケーションを見据えると現状に比べて二桁レベルのローパワー化がさらに必要との見方を示した。

MEMS以外のセンサーの研究や実用化も進む

午後は7本の講演が行われた。米Proteus Digital Health社のMark Zdeblick氏は同社が開発中の「デジタル薬品」を紹介した。1mm角程度のチップを錠剤に入れて、薬を服用したときにチップから出るシグナルを体に貼ったパッチセンサーで捉え、たとえば臨床試験において試験薬の服用を確認するといった目的に利用する。

独立行政法人・産業技術総合研究所の片岡正俊氏は、同研究所が開発したポリスチレン製細胞チップを使ったマラリア診断法について説明した。検出に時間がかかり精度も課題となっているマラリアの感染を高精度かつ短時間に検出できるという。エチオピアとウガンダでフィールドテスト中であり、早期の実用化を目指す。

前日のパネルディスカッションでモデレータを務めたSPPテクノロジーズの神永 晉氏はトリリオン時代に向けた日本のセンサー技術およびアプリケーションについて概説した。神永氏は、日本にはMEMS技術などさまざまなテクノロジーがあり、高齢化社会やインフラ老朽化などの課題をアプリケーションとしながら、トリリオン時代に向けた「センサノミクス」とも呼ぶべき爆発的な利用を進めていくべきと提唱した。

インテリジェントセンサーテクノロジーの池崎秀和氏は、九州大学の都甲(とこう)潔主幹教授が開発した味覚センサーの実用化と食品開発での実例を紹介した。同社の味覚センサーは、酸味、塩味、甘味、苦味など、特定の味物質に反応する複数の薄膜センサーを組み合わせた「味のものさし」であり、海外を含めて350台以上の納入実績があるという。味データを分析することで地域ごとの好みや商品の傾向が判るほか、飲みやすい小児用薬品の開発に有効と述べた。

東北大学教授の田中秀治氏は、ヒト型ロボットの全身を覆うような面積の広い触覚センサーの研究を紹介した。個々のセンサーの小型化を図るためMEMSセンサーとCMOSロジックを一体にした小型センサーチップを外部ファブを利用して開発し、バス型トポロジーで接続した。

東京大学准教授の竹内昌治氏は、同氏らが研究を進めている膜蛋白センサーと体内埋め込みセンサー技術を紹介した。前者は特定の臭い分子などを選択的かつ高感度に検出できるという。後者は、マイクロビーズ型あるいはファイバー型のセンサーを体内に埋め込んで血糖値やバイタルデータを24時間測定する。

最後にローソンの宇都慎一郎氏が店舗における省エネの取り組みを紹介した。CO2冷媒の冷凍機器の導入を進めているほか、各種センサーを導入して、空調、照明、売場管理などに活用しているという。将来は顧客の行動分析などにも生かしたい考えだ。

両日のいずれの講演終了後も活発な質疑が交わされ、センサー技術やアプリケーションに対する関心の高さを伺わせた。またホワイエでは、リニアテクノロジー、日本テキサス・インスツルメンツ、SPPテクノロジーズ、カリフォルニア大サンディエゴ校がソリューションや研究成果の展示を行った。