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次世代のセンサー応用を見据えた技術開発、シグナルチェーンのローパワー化に取り組む:日本テキサス・インスツルメンツ

センサーアプリケーションに最適なアナログフロントエンド(AFE)チップやローパワーマイコンを展開するテキサス・インスツルメンツは、「Trillion Sensors Summit Japan 2014」の二日目となる2014年2月21日に、「センサーアプリケーションを支える半導体技術」と題して講演した。今後のアプリケーション拡大を見据えて同社が取り組んでいるローパワー化技術および小型パッケージ技術と関連ソリューションを紹介した。

井崎 武士 氏
日本テキサス・インスツルメンツ 株式会社
営業・技術本部 マーケティング部 マネージャ

井崎氏は最初にセンサーアプリケーションの動向を取り上げた。市場には現在、人間の五感に代わるセンサーが延べ60種類以上存在しており、たとえば聴覚では超音波センサーやマイクロフォン、視覚ではモーションセンサーや近接センサーや深度センサー、触覚ではタッチセンサーや振動センサー、温度センサーや圧力センサー、嗅覚ではアルコールなどのガスセンサー、味覚では味覚センサーやpHセンサーなどが挙げられる。

これらのセンサーの多くは高機能化やインテリジェント化を意味するいわゆる「スマート化」の潮流に乗ってインターネットに接続されるようになっているが、IOT(Internet of Things)やM2M(Machine to Machine)が本格化すればセンサーノードは爆発的に増えていくだろうと井崎氏は述べた。

さらに、コンシューマ機器だけではなく、スマートグリッド、スマートビルディング、スマートヘルスなどのマーケットが拡大していくことで、今後のワイヤレスセンサーネットワークの市場規模は1000億ドル以上に達するとの見方を示した。

センサー回路のローパワー化が課題

ワイヤレスセンサーノードをシグナルチェーンとして見ると、センサーの後段にはシグナルコンディショニング(信号調整)とデータ変換(A/D変換)とで構成されるアナログフロントエンド(AFE)があり、さらに、デジタル化されたデータを処理するプロセッサと、ワイヤレスネットワークコントローラとが並ぶ。また、各回路に電力を供給するバッテリマネージメントまたはパワーマネージメントブロックがある。

これらの各機能ブロックに要求される仕様として、井崎氏は、ローパワー、超小型、および低コストの三つを挙げた。

このうちローパワーについて最近増えている腕時計型のヘルスセンサーを例に説明した。従来はワイヤレスネットワークの送受信が全体の消費電力の80%ぐらいを占めていたのに対して、ローパワー化技術が進んだことで現在は54%ぐらいにまで下がっている一方で、AFEの消費出力が41%を占めるようになってきていると述べた。

ヘルスケアやフィットネス用途では、数週間から数か月に亘って電池交換またはバッテリ充電が不要なことが望ましく、せいぜい数時間から数日しかもたない現状を考えると、さらなるローパワー化が必要であると指摘し、具体的には、AFEブロックはダイナミックな電圧スケーリングなどを行えば将来は1/8程度にまで削減できるとの見解を示した。また、ワイヤレスネットワークについても、アーキテクチャ変更、電圧変更、プロトコル改善などを通じて1/3程度にまで下げられるのではないかと述べ、そうした課題への取り組みを明らかにした(図1)。

図1. ワイヤレスネットワーク(従来比1/10)やAFE(同1/8)のローパワー化を目指す
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ローパワーを志向した製品を幅広く展開

講演の後半では同社のソリューションを紹介した。まずAFEについては、「接続するセンサーに最適なAFEを選択することが重要」(井崎氏)との認識から、個々のアプリケーションに応じたソリューションを展開中である。

「LTE91000」は3電極のガスセンサー向けのAFEチップで、消費電力が平均で10μAと小さいのが特徴だ。「LMP91050」は排ガスなどの測定に用いられる非分散型赤外線(NDIR)のセンシングに最適なAFEで、複数のサーモパイルを接続できる。「LMP91200」は2電極のpHセンサー向けAFEである。「LMP90100」は温度センサーおよび圧力センサー向けのAFEで、高精度な24ビットのΔΣ型A/Dコンバータを内蔵し、バックグラウンドで連続的に較正をしながら動作するため精度がきわめて高い。

ローパワーマイコンとしては「MSP430」シリーズを訴求する。「センサーアプリケーションでは一般に99%の時間はスタンバイ状態にあるので、MSP430ではアクティブ状態の消費電力を抑えただけではなく、ローパワーモード時のスタンバイ電流を徹底的に抑えた」(井崎氏)。また、スタンバイ状態からアクティブ状態への切り替わりを高速(1μs以下)にすることで、無駄な電力消費を低減した。

さらなるローパワー化を狙ってFRAM(強誘電体メモリ)内蔵品も揃えた。一般的なフラッシュメモリでは書き換えのために10V以上の昇圧回路が必要になるが、FRAMは1.5Vで書き換えが可能である。また、電源がオフの状態でもデータが保持される。書き換え回数は100兆回、データ保持期間は85℃にて10年間を保証する。現在は64kB品を供給中である。

また、一層のローパワー化を狙って、不揮発ロジックを使ったマイコンの試作事例を紹介した(図2)。電源オフ時にマイコン内部のステートをFRAMにすべて保存し、電源オン後に高速(400ns)にリストアすることで、スタンバイ中の電源を完全に遮断できるようにしたのが特徴である。不揮発ロジックの実装に必要なチップ面積の増加はわずか3.6%と小さい。

図2. 不揮発性ロジックを用いたローパワーマイコンの試作事例
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また同社ではエナジー・ハーベスティング(環境発電)による「ノーパワー化」も推進しており、環境光、熱、振動などから得られた微小な電力を効率的なアルゴリズムによって外付けキャパシタなどに蓄電する、昇圧コンバータ「BQ25504」を紹介した。

ワイヤレスコントローラでもローパワー化を狙う。スリープモードからアクティブモードへの切り替えの高速化、受信感度と妨害特性の向上によるリトライの削減、消費電力の小さいスリープモードの実装、リンク品質インジケータ信号を用いた通信距離に応じた送信出力の調整などの工夫を、2.4GHz帯のトランシーバである「CC2500」や「CC2530」などに盛り込んでいるという。

また、井崎氏は「MAC層での最適化も重要になる」と指摘し、ノード間の時刻同期や通信タイムスロットをスキップするなどの手法を導入することで、理屈の上では80%程度のローパワー化が可能との見通しを示した。

小型化ニーズにはパッケージ技術で対応

最後に小型パッケージ技術について触れた。センサーノードの小型化を図るには実装技術およびパッケージ技術が重要になるが、同社では、マルチチップモジュール、ダイスタック、フリップチップ、センサーインテグレーションなど、顧客要求に応じたさまざまな供給形態に対応しているという。

実際に米ミシガン大学と共同で、AFEチップ、メモリチップ、マイコンチップ、ワイヤレスネットワークチップのそれぞれのダイをスタッキングした超小型パッケージを開発した事例を紹介した。

また、プリント基板内にダイを埋め込むSESUB(Semiconductor Embedded in SUBstrate)技術についてTDKと協業を進めており、ウェアラブル向けの超小型Bluetoothモジュールを開発済みである。Bluetooth LEのコントローラチップ「CC2541」のダイを50μmに薄く加工したのち基板の内層に埋め込んで、トータル厚さ300μmを実現した。基板表面にアンテナを実装できるほか、内層にチップがあるためノイズ耐性や放熱性能が向上するという。

井崎氏は最後にまとめとして、将来のセンサーアプリケーションでは現状に比べて2桁から3桁もの劇的なローパワー化が求められるとの見通しを示し、AFEやマイコンなどチップレベルでの省電力化技術やエナジーハーベスティング技術の開発に引き続き取り組んでいく姿勢を示した。また、実装やパッケージングの小型化を進めることで、センサーの応用拡大が見込めるとの認識を示した。

図3. TDKと共同開発した基板埋め込み技術(SESUB)による小型モジュール
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