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ロボットをビジネスにする開発条件とは

ロボットの本格的な活用が、さまざまな分野に広がっている。そして、SFの中で語られる夢のある存在から、新市場を生み出すビジネスの商品へと位置付けが変わりつつある。ロボットをビジネスにするための工業的な開発・製造法を考えるべき時期が、いよいよ来た。ここでは、ロボットを商品として開発する時に求められる要件、そしてその要求に応える開発手法とキーデバイスを、対象を電子システム部に絞って探る。

生産、建設、警備、家電、医療、介護、そして話し相手・・・。さまざまな分野でロボットをビジネスにする動きが活発化してきた(図1)。広義には、自動車の自動運転や無人飛行機“ドローン”などもロボット化の一種だと言える。近い将来の社会活動や人々の生活の中で、ロボットはより身近で欠かせない存在になっていくことだろう。

図1 ロボットが、さまざまな分野でビジネスになってきた
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いかなるシーンで活動する、いかなるロボットを作るかを考えることは、ロボットの活躍の場を広げる上でとても重要だ。その一方で、ロボットをどのように作ればビジネスになるのか。そろそろロボットを産業という側面から捉えて、開発の指針や手法を具体的に考えるべき時期に差し掛かっている。

ここでは、ロボットの開発手法と電子システム部の中核に置く半導体デバイスの姿を、商品としてのロボットに求められる要件を起点にして考える。

ロボットを産業化するために必要な開発手法とデバイスとは

ロボットを産業として捉えた時、工業製品としてのどのような特徴に留意して開発手法とデバイスを選定する必要があるのか。3つの観点から考えてみたい(図2)。

図2 ロボットをビジネスにするための要件と、デバイスや開発手法に求められること
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まず、ロボットは確実に多品種少量生産品であるという点に注目する。スマートフォンのように同じ機種を何千万台規模で作るような製品ではないことは明白だ。一部の産業用ロボット(ロボットアーム)を除けば、使う目的、環境、ユーザーに応じて、仕様を最適化し、盛り込む機能を変えて作り分けなければならない。より多彩な仕様のロボットを、事業として成立する範囲内に開発コストを抑えながら設計・製造できる特徴を、開発手法とデバイスが備えている必要がある。

次に留意すべきことは、ロボットは異分野の技術の集合体であるということだ。電子技術や通信技術、機械技術といったロボットを構成するための基盤技術自体が多様であり、これに加えて、利用シーンに応じた医療、建設、教育、マーケティングといったさまざま知見を集めて作られる。多方面の分野から知恵を集め、ひとつの工業製品のかたちにまとめ上げることができる特徴も、電子システムの開発手法とデバイスが備えるべきだ。

最後は、ロボットは人や物とかかわり合って仕事をこなす機械であるということだ。十分な安全性や信頼性の作り込める余地を、開発手法とデバイスが備えている必要がある。単に出荷時の品質を向上させるためだけではなく、出荷後のメンテナンスや不具合が起きた場合に、開発プロセスをさかのぼって原因を特定し、対策を取りやすくする工夫も重要だ。

開発手法にはプラットフォーム化とオープン化が必須

多種多様なロボットを、多彩な知見を集めて効率よく生み出し、かつ安全に作り利用できるようにしたい。こうした要求に応える開発手法が、どのようなものなのか。既存の類似例から探ってみよう。

多種多様なロボットを効率よく作り出すための開発手法を考える上で、自動車業界には学ぶべきことが多い。ひとつの車種でも、グレードや仕向地、取り付けるオプションなどに応じた、さまざまなバリエーションの製品が作り分けられている。しかも、収益を確保するため、こうした個別の開発を高効率で進める方法を確立している。

厳しい開発要件を満たすため、近年の自動車開発では、作り込んだ自動車1台分の設計データをプラットフォームとし、ここにモジュール化した機能を加えたり除いたりして、最小限の作業で仕様に変化をつけられる“フレキシビリティ”を実現している。また、この開発手法ならば、設計工程が連続的に一貫しており、安全性の検証と作り込みに欠かせない開発プロセスの“トレーサビリティ”も確保できる。

一方、さまざまな分野の専門性の高い知見を集め、まとめるための開発手法は、IT業界に学ぶべきものが多い。開発ツールをオープン化し、多くの人がシステムに組み込む機能の開発に参加できるようにする方法だ。例えば、「iOS」向けのアプリは「iOS SDK」や「Xcode」など開発環境がオープン化され、これらを用いて開発したアプリは、Apple社の認証作業を経て、「App Store」で公開・流通できるようになる。そしてユーザーは、「iTunes」上でさまざまな機能のアプリを「iPhone」などに組み込み、自由にまとめ上げることができる。こうした仕組みを持っていることが、ゲーム、ビジネス、ヘルスケア、教育といったさまざまな分野のアプリが続々と集まる素地を作っている。

ロボットを開発する企業が、組み込む機能のすべてを自前で開発することは、現実的ではない。それぞれの分野の専門家が作り上げた知恵の結晶であるIPを、集めて作る方が、よいものが出来上がるだろう。そのためには、IPを作るためのオープンな開発環境、IPの流通環境、そしてIPを簡単に集積できる環境が求められる。

ロボット向けとして際立った特性を持つデバイス

次に、ロボットに組み込む機能を実装するためのデバイスについて考えてみよう。

多種多様なロボットを効率よく開発するためには、組み込む機能を柔軟に書き込むことができるプログラマブルなデバイスを、電子システムの中核に置くことになるだろう。デバイスやボードを変えること無く、要求仕様に応じて柔軟に機能を変更できる“フレキシビリティ”があれば、極めて効率よく多くの機能を組み込むことができる。プログラマブルデバイスの利用は、プラットフォームベースでの開発手法を取るための前提である。ロボットアームのような、比較的大量に作るロボットでも、プログラマブルデバイス利用のメリットは大きい。機能実装のための従来手法であるASICに代わってプログラマブルデバイスを使うことで、よりキメ細かく要求に応えたり、ワークや生産フローの変更に応じて機能を更新できるようになる。

また、単純な機能から複雑な機能まで、同じデバイスを必要に応じて上位品に置き換えたり、追加することで対応できる“スケーラビリティ”を備えていることが好ましい。この点は、機能がロボットの中で複数箇所に分散する場合に、同じアークテクチャのシステムで統一し、まとめ上げやすくなる利点にもつながる。

さらに、デバイスやそれを利用する環境の安全性や信頼性が確保されていることがとても重要になる。デバイスの信頼性に関しては、最も品質に関する基準が厳しい応用である車載機器向けと同等の品質が求められるだろう。加えて機能安全規格に、デバイス、開発ツール、IP、デザインメソドロジといったデバイスの利用に必要なすべての要素が認証済みであることが求められる。

また、当然のことながら、ロボットに組み込む機能を実装する上での処理適性が高いことが重要だ。ロボットの電子システムが備えるべき代表的な機能として、3つの機能「知覚、識別、認識機能」「アクチュエータの制御機能」「ネットワーク処理機能」が挙がる。

これらの条件を勘案すると、ロボットをビジネスにしていくために最も適したデバイスとして、FPGA(Field Programmable Gate Array)が浮上してくる。ここからは、なぜFPGAがロボット開発に適したデバイスなのか、現時点でどのようなことができるのか解説する。