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リニアテクノロジー

自動車のものづくり環境が大きく変貌している。高機能化や自動運転を実現するモビリティー環境を提供するため、車載電子機器のネットワーク化とその構造化が急ピッチで進んでいるのだ。その進化を支えるものが、アナログ半導体である。リニアテクノロジー 代表取締役の望月靖志氏と車載音響・電子制御機器のリーディングカンパニーである富士通テン代表取締役会長の重松崇氏が自動車の未来とものづくりについて話し合った。

始まりはマイコンの車載化から

望月 近年、ハイブリッドカーや電気自動車、自動運転など自動車の構造そのものが大きく変わってきています。そうした変化を見てみますと、電気、電子、情報技術といったカーエレクトロニクスが大きな役割を果たしていて、それを支える電装品業界にもさまざまな対応が求められていると思います。その変化を御社ではどのように捉えていらっしゃいますか。

重松 最近の自動車業界の変化には目を見張るものがあり、車載の電子システムにも大きな変革が期待されています。過去を振り返ってみますと、1980年代からエンジンやブレ-キをマイコン(コンピューターシステムを集積したLSI)で制御する電子制御装置(ECU)の導入が始まりました。高い目標の排気ガス規制や交通事故低減を実現するため、これまでの機械的な機構では実現できない緻密な制御を電子システム(センサー、ECU、アクチュエーター)という形で製品化しました。この流れは今後も変わらず、市場が拡大する新興国でもベース機能として不可欠になるでしょう。

望月 半導体業界の全体を見ると、ここ数年非常に厳しい環境に置かれています。しかし、当社が提供させていただいているアナログの半導体は着実な成長を遂げています。なかでも自動車業界向けに絞ると、前年に比べると19%の成長率です。自動車の燃費改善や安全性向上を実現するさまざまなシステムをマイコンで制御するためには、アナログ半導体が欠かせないという背景があるのだと思います。

重松 確かに、アナログ技術は大きな役割を果たしてきました。先ほど電子システムが広く適用されると言いましたが、30年前の導入当初は車載の使用環境下でマイコンを使うこと自体、大きなリスクがありました。環境条件は高温、多湿で振動も大きく、特に、電源変動やノイズが車載化の主要な課題のひとつでした。この解決にアナログ技術の貢献度は大きく、その技術の進歩がECUの利用拡大につながっていると思います。

 また、自動車部品と電子部品の製品サイクルの違いも大きな課題のひとつでした。自動車は10年以上、電子部品(特に、デジタル部品)は数年のサイクルで置き換わります。このギャップをカバーできる仕組みも当初から重要な要求でした。長期にわたって安定的なデリバリーが確保できることも自動車への採用に不可欠な条件でした。

望月 マイコンの導入から30年がたち、車載機器の多機能化や適用範囲の拡大はさらに進むでしょう。それに伴いECUに対して解決しなければならない新たな課題も増えてきます。マイコンの高機能化によりノイズ対策は複雑になりますし、電源や電圧の管理、省スペース化要請への対応なども必要になってきます。こうした要請に応えられるアナログ半導体の強みを一層深化させていきたいと思います。もちろん、製品デリバリーの考え方に関しても、これまで守ってきた姿勢を実行していくつもりです。

重松 以前、お話を伺ったノンプライスバリューの考え方ですね。

望月 そうです。当社の創設者であり会長のロバート・スワンソンのものづくりの考え方は、「製品というものは単に機能があるだけでは駄目だ。データシートに書いてあることにミートするのは当たり前のこと。そこには、信頼性もあり、オンタイム・デリバリーもあり、ディスコン(製造中止)しないというポリシーもあり、お客様の技術サポートをするというポリシーや品質をより向上させるというポリシーもある」というものです。これをノンプライスバリューと呼んでいます。このノンプライスバリューこそが、ものづくり企業としてお客様との長い信頼関係を築くというものです。創設以来33年間、これを言い続けて実行しているのが、当社のものづくりの姿勢です。

図 初代クラウンに採用された真空管式オートラジオ(生産開始記念1号機、1955年)
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重松 素晴らしいことですね。当社も1955年に真空管式オートラジオを初めてお客様に納めて以来、オーディオ、ナビゲーション、レーダーやエンジン制御、ボディー制御のECUなど、多くの車載電子部品を開発してきました。この間、一貫して「お客様の自動車製造ラインを止めない信頼性の確保」を最優先に事業を進めてきました。今後も、この姿勢は当社の社是「誠は天(=テン)の道なり」として徹底していきます。

メカトロニクスからプラットフォーム化へ

重松 自動車の構造変化に話題を戻しますと、ここ10年での急速な新興国市場の拡大や燃費規制の強化などにより、車載ECUの増加と高度化が進みました。今では自動車1台に数十個から100個を超えるマイコンが使用され、センサーやアクチュエーターの数も急激に増加しています。さらに、これらをシステム化する通信ネットワーク(車内LAN)も比例して拡大し、マイコンの増加以上にLANを走るデータ量が飛躍的に上昇しています。

 これに対処するため、自動車メーカーでは車両全体の電子システムをいくつかのドメインでくくり、ECUの種類やLANのデータ量を最適化する電子プラットフォームの開発を進めています。我々、部品メーカーも複数の部品を物理的にひとつにまとめるモジュール化や、センサー、アクチュエーターのインターフェースを標準化し、部品の互換性が高いシステムの開発を行ってきました。当社の例を挙げますと、オーディオとナビゲーションを一体化し、AVNというモジュール化した商品で市場を広げています。このAVN機能にセンターディスプレーやメーターなどの表示系、操作系入力デバイスを総合的にシステムとしてまとめ、コックピット機器の全体をひとつの電子プラットフォームにする計画も進めています。当然、これらの実現には半導体や情報処理技術の進化によるところが大きいのですが、このようなプラットフォーム化に関連する技術としてアナログ領域では、どのようなトレンドになっていますか。

多機能化を支えるアナログ技術

望月 車載LANの肥大化や画像処理の高速化、ECUの小型化・高速化に伴って、車に搭載される半導体の種類と数が飛躍的に増えています。それにより、それらの半導体が搭載されるスペースが非常に厳しくなってきています。この問題に対しては、半導体レベルでひとつの解決策を提案しています。例えば、当社のLTM8008という製品は、車のエンジンECUのボードに使用され、量産出荷されておりますが、この製品を使うことでお客様の当初の基盤面積を80%も削減することができ、小型化・低価格化を実現することができました。

 半導体の歴史は集積化の歴史です。これまで基板で作っていたものを半導体チップ上に実装するというシステム・オン・チップ化が進んでいます。オン・チップ化には大きな課題があります。複数のデバイスを1つのチップに集積するわけですが、各デバイスが同じプロセスでできていれば、比較的簡単に集積できます。しかしながら、各デバイスのプロセスが異なる場合に、それらを集積することは非常に困難です。近年の傾向として、デジタルとアナログの複雑な回路で構成されるシステムが増えてきており、それらをオン・チップ化することは極めて困難です。これを解決したのが前述したLTM8008という製品です。この製品は、お客様から見ればわずか15mm×15mmのサイズの小さな半導体です。しかし、中身は超小型のモジュールになっています。基板にチップを搭載し受動部品など必要なコンポーネント数十個を使ってソリューションを構築しています。もちろん、構成するチップのプロセスが異なっていても何の問題もありません。この製品群をマイクロモジュールと呼んでいます。現在、50種類を超えるマイクロモジュールが各種アプリケーションのソリューションとして提供されており、年率で35%ほどの成長を遂げています。

 今後もマイクロモジュールに、より付加価値の高いソリューションを実装することで、車載LANの肥大化、画像処理の高速化、ECUの小型化・高性能化に貢献していくことができればと思います。その一方で、安全性や信頼性を担保していかなければなりません。このあたりはこれからのチャレンジテーマです。

カーエレクトロニクスの新時代

望月 さて、これまでの社会環境の変化に加え、2020年以降は一層の自動車構造の変革が期待されています。例えば、FCV(燃料電池車)や新たなバッテリー技術により電気自動車が大きく飛躍する、また、社会とつながる自動運転で交通事故が大幅に低減されるなど、近未来の商品群が次々と提案されています。御社はこれらのトレンドに対して、どんな活動をされていますか。

重松 私たちを取り巻く日常生活の中にも、何か世の中が大きく変わるきっかけが散在しているように感じます。こんな時代にこそ、革新の芽が出てくると言われています。

 当社でも、前身の川西機械製作所には江崎玲於奈さん、神戸工業には赤?勇さんなどが席を置かれ、のちに半導体の主要技術のきっかけとなる研究をされていたと聞いています。我々も先進の意気だけは引き継ぎ、カーエレクトロニクス変革への挑戦は続けたいと思っています。

 その第一歩として、まずは今秋、国内市販では初めてとなる細街路を含む地図自動更新AVNを発売しました。付属の通信ユニットでAVNと情報センターを連携させます。AVNを車載情報端末へと進化させる「Future Link(フューチャーリンク)」の一里塚として期待しており今後は「つながる車載情報システムメーカー」を目指してまいります。

 これらの、つながる商品の領域が多方面で拡大している現在、車載端末の大きな課題は「無線は切れる」という前提で設計しなければなりません。御社では「切れない無線」技術を展開されていると伺いました。

望月 その通りです。当社は2011年の12月にシリコンバレーにある米Dust Networks社を買収しました。Dust Networks社は「切れない無線」のテクノロジーで広く知られております。現在は、多様な産業機器のお客様を中心にお使いいただいておりますが、将来は車載向けにも貢献していければと思っております。

自動運転車にも人間中心のシステムを

重松 最近は安全技術にも新たな開発が目白押しになっています。ABS、ESC(横滑り防止システム)、さらには自動ブレーキ機能を備えたプリクラッシュセーフティシステムなど、軽自動車の領域まで高機能システムが展開されるようになりました。特に、プリクラッシュ制御用のミリ波レーダーはカメラと異なり、夜間や雨、霧などの悪環境でも約200m先の障害物を検知できる性能を有しています。課題は高周波(77~79GHz)を扱うハード技術や半導体(MMIC)技術ですが、ここでもアナログ技術が重要な役割を果たしています。

 これらの安全システムには、通常のクルーズ制御にレーダーセンサーの情報を加え、先行車との車間距離を一定にするシステム(ACC)があります。将来は地図データや情報センターからの渋滞情報など(路車間通信)を利用して、手前から車速制御するACC方式の発展型が導入されれば現実的な自動運転になると思います。一方、米Google社の自動運転の走行試験が話題になっていますが、Google社のシステムは「自律走行」で、原則、人は運転しない無人走行車の研究でしょう。

望月 「自律走行」というのはある地点から別の地点に移動させる目的だけのITシステムと理解したほうがいいかもしれませんね。それに対して、これまでの安全システムから発展した自動運転は「人間」を中心に制御することになりますが、「人間」が制御に入るとミスも発生する。システムの信頼性確保は非常に難しいと思いますが、どんな工夫が検討されていますか。

重松 自動運転の場合、「人間」と「自動」の切り替え(権限の受け渡し)を双方が合意して行うことが重要です。種々のHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)の検討が進められており、最終的にはグローバルな標準化も行われると考えています。

望月 データ処理技術が進歩していますので車載機だけの自律システムではなく、情報センターを活用し、ビッグデータを精緻に解析することがいくらでもできる環境にあります。大事なことは、自動車側に有益な情報をフィードバックして、ドライバーの運転をサポートできるかどうかがポイントになってくるような気がします。そういう意味では、御社は富士通さんのサーバーや通信インフラを活用できますので、比較的早く取り組むことができる環境にありますね。

重松 富士通グループとして自動車分野でのICT事業拡大を共同で進めたいと思っています。そうした取り組みによってビッグデータ処理の方向性もかなり見通せるようになるでしょう。

望月 お話しいただいたものが実用化されて一般的になってくるのはいつごろなのでしょう。やはり、2020年の東京オリンピックのあたりでしょうか。

重松 日本も含めて先進国ではつながるクルマが出そろい、実用的な自動運転の方向性が見えてくる時期かもしれません。当社も微力ですが、世界のお客様に安全、安心な自動車を使っていただけるよう貢献していくつもりです。

望月 当社もこれまで実行してきたものづくりの姿勢を堅持しながら、安全、安心な電子システムの展開に協力していきたいと思います。

 本日はどうもありがとうございました。

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