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dSPACE Japan

自動車の画期的な新機能として急速に普及が進む先進運転支援システム(ADAS)。その開発を支える存在として、モデルベース開発の重要性がさらに高まっている。モデルベース開発のソリューションを提供するdSPACE Japan 代表取締役の有馬仁志氏は、実車ではできない複雑で危険なテストを自動化するため、モデルベース開発の利用が広がっていると指摘する。さらに自動車開発で培ったノウハウを、再生可能エネルギー分野などの開発に展開しているという。

――モデルベース開発の適用が特に進んでいる業界が自動車分野です。モデルベース開発のツールを提供するベンダーから見て、クルマの開発者の関心は今どこにあるとお考えですか。

有馬 モデルベース開発はエンジンやトランスミッション、ハイブリッド車(HEV)などの開発で広く使われています。特に今メーカーの関心が高いのは、ADAS開発への適用です。衝突防止やレーン・キーピングなど、事故を未然に防止する技術の採用は、高級車だけでなく軽自動車でも珍しくなくなりました。国土交通省は先ごろ、ADAS搭載車のベンチマーク結果を公表しました。欧州で国が自動車の安全機能を評価する「Euro NCAP」のようなテストが、日本でも始まるかもしれません。

 ADASのような機能の開発にはシミュレーションが欠かせません。クルマや道路、天候や人が関わる無限のシーンの組み合わせを、実車で全て検証することは不可能だからです。テストする項目も膨大で、人の手では到底行えるものではありません。しかも一方では開発期間短縮というニーズもあります。

 そこで膨大なテストを仮想的な環境で、自動で行えるモデルベース開発への関心がさらに高まっています。ハードウエアが完成する前に、HILS(ハードウエアインザループシミュレーター)をはじめとしたシミュレーションを活用してシステムを検証し、十二分な安全性を確保できるロジックを組み上げる。こうすることで、完成度の高いADASを短期間で開発できます(図)。

図 dSPACEはADASの基となるセンサーからのデータや地図情報など情報源ごとに検証のソリューションを用意している
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――ADASのニーズ拡大に、どのように対応するお考えですか。

有馬 クルマ1台を丸ごと全てモデルで再定義し、開発プロジェクト全体をモデル上で進める「モデルベースドシステムズエンジニアリング」が注目されています。

 例えば、テスト項目に従ったテストは、モデルベースで効率化されていても、そのテスト項目自体が果たして有効なのか、もともとの要求仕様を満たしているのかは担保されていません。要求仕様からテスト項目を作り出す部分は人手に頼っているのが現状です。

 そこで要求仕様を作るところからモデル化し、それを基にテスト項目も自動生成したいという声が強まっています。当社がモデルベースドシステムズエンジニアリングを提案するのも、そうした声に応えるためです。開発に関連した情報を全てモデル化し、仕様書の解釈など人手に頼っていた部分を減らしていきたいと考えております。

 そのため、モデルベースドシステムズエンジニアリングを可能にするツールとの連携を拡充してきました。アルゴリズムを仮想環境でテストする「VEOS」、開発プロジェクトで発生するデータを管理する「SYNECT」、次世代HILS「SCALEXIO」などです。

 全ての開発作業がモデルで完結し、手作業を減らせば、実機によるテストを削減することが可能になります。現在の日本では実機テストを削減するというところまでは至らず、テストの増加分をHILSでカバーするというメーカーが多いようです。今後は欧米メーカー同様に実機テストの削減も進んでいくでしょう。

スマートハウス向けプラットフォーム

――クルマ以外では、再生可能エネルギー分野でもモデルベース開発が進んでいるようですね。

有馬 複数のエネルギーをダイナミック、かつ効率良く組み合わせる点で、スマートハウスなどのシステム開発はHEVなどと通じるものがあります。太陽光などによる発電の状況と系統電力の逼迫状況、需要側の電力消費状況を勘案しながら、スムーズに切り替えるのには、かなり複雑な制御が必要になります。開発も容易ではありません。そこでモデルベース開発を再生可能エネルギー分野にも適用する取り組みを進めてきました。その具体的な成果が出始めました。

 そのひとつが、2014年11月にイーソルやスマートエナジー研究所と共同で発表した、スマートエネルギーシステム向け共通プラットフォーム「eSOL SEAP」です。スマートハウスなど向けに開発したアプリケーションを、ハードの上で動かす共通のプラットフォームで、アプリ開発を促し、それによる再生可能エネルギーの効率的な利用を推進することが狙いです。

 このアプリ開発の部分を、モデルベースで行うことを想定しております。「MATLAB/Simulink」で書いたモデルを、当社の「TargetLink」で量産コード化し、SEAPの上で動かせるようにします。ハードを意識することなく開発をモデルベースで進められるようになるため、モデルベース志向がさらに強まるのではないかと考えております。

――複雑な制御を必要とするものにモデルベース開発が効果的ならば、クルマや再生可能エネルギー分野以外にも応用は広がりそうですね。

有馬 実際、海外では医療分野でモデルベース開発を取り入れようという動きが進んでいます。例えば人工の臓器を作ることは3Dプリンターを使って可能になりましたが、それらをどのように検証するかが問題です。生身の人間に、試作した臓器を付けて検証するわけにはいかないからです。そこで人間の方をモデル化してテストするという事例が出始めています。クルマ用に開発したECUを実車でテストする前にHILSでテストするのと同じですね。

 その他にも航空宇宙やFAなどの分野で、モデルベース開発が取り入れられ始めました。FAでは機械のシーケンス制御を、モデルベースで検証する取り組みが始まっています。制御対象の機械をシミュレートし、ハードがなくてもテストができるようにするためです。

 当社はモデルベース開発ツールを通じて、自動車の開発に貢献してきました。環境や安全性などさまざまな要件を満たしながら市場へ普及させる必要のある機器の開発を支援してきた中で得たノウハウは、他の産業分野にも展開できると考えております。今後もモデルベースが開発の課題にどんな効果を発揮できるか、検証と提案を続けてまいります。

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