日経テクノロジーonline SPECIAL

応用範囲を着実に広げるDLP、プロジェクタの次は産業分野に照準

家庭やオフィス、学校などに広く普及しているフロント・プロジェクタ(前面投射型ディスプレイ)。その映像表示方法には複数の方式があるが、液晶方式などを抑えて大きなシェアを握っているのがDLP®(Digital Light Processing)方式である。

フロント・プロジェクタ市場だけではない。すでにデジタル・シネマ市場でも、DLP方式は極めて高いシェアを獲得している。さらに、次なる映像/画像表示分野の新市場としてピコ・プロジェクタに狙いを定める。ピコ・プロジェクタとは、非常に小型のフロント・プロジェクタである。超小型のフロント・プロジェクタが実現できるだけでなく、スマートフォンやデジタル・カメラなどへの組み込みが可能になる。すでに実用化が始まっており、今後市場の拡大が期待されている。

ディスプレイ市場で一大勢力を築く

DLP方式は、1980年代後半にテキサス・インスツルメンツ(TI)によって開発された技術だ。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を使って製造したDMD(Digital Micromirror Device)と呼ぶディスプレイ素子を使う。DMDの表面には、数多くの小型ミラー(鏡)が整然と並んでいる(図1)。その数は、製品によって異なるが、100万個を超える。小型ミラーの外形寸法は、一辺が7μ~13μmと極めて小さい。この小型ミラーを1つずつ、静電引力を使って10度ほど傾ける。これに光を入射する。すると、傾けた小型ミラーと傾けない小型ミラーで光の反射角度が変わる。この原理を利用して、パソコンの画像やテレビの映像をスクリーンに投影する仕組みだ。

図1 DMDの構造
[画像のクリックで拡大表示]

カラー化も容易である。実現方法は2つある。1つは、DMDを3つ用意し、それぞれが赤色、緑色、青色の画像/映像を受け持つことでカラー表示する方法である。いわゆる3板方式である。もう1つは、赤色と緑色、青色の光を時分割で1個のDMDに入射する方式である。各色の画像/映像の表示を高速に切り替えることでカラー表示が可能になる。通常は、光源とDMDの間にカラー・ホイールを配置することで実現する。いわゆる単板方式である。

新しい使い方が芽吹く

フロント・プロジェクタやデジタル・シネマ、ピコ・プロジェクタ。DLPは映像/画像表示分野において、新しい用途を開拓し、市場規模を拡大させてきた。しかし、最近になって、新しい動きが目立ち始めた。「産業機器や車載機器、医療機器などの企業からDLPを利用できないかという問い合わせが増えている」(日本TI)という。

こうした問い合わせが急増している背景には、DLPが備える基本的な特性の高さがある。具体的には3つの特長が挙げられる。1つは、映像/画像の更新速度が最大32kHzと極めて高いことである。これは、テレビにおけるフレーム速度に相当する。テレビのフレーム速度は30Hz(フレーム/秒)。従って、32kHzが極めて高いことが分かるだろう。

2つめは、前述のように小型ミラーが小型のもので7μmと小さいため、極めて高い解像度を実現できる点にある。3つめは、扱える光の波長が365n~2500nmと極めて広いことだ。可視光だけでなく、紫外光から近赤外光までを扱えることになる。

こうした特長に興味を示す応用分野は実に幅広い。プリント基板の製造装置や、検査装置、医療機器、計測器、光通信用デバイスなど多種多様だ。以下で、今後市場の拡大が見込まれるDLPの応用分野をいくつか紹介しよう。

プリント基板を直接露光で製造

最初に紹介する応用分野は、プリント基板の製造に向けた露光機(リソグラフィー装置)である(図2)。すでに実用化が始まっている。

図2 プリント基板のリソグラフィへの応用
[画像のクリックで拡大表示]

これまでプリント基板は、マスクを作成し、それを使ってプリント基板に回路パターンを焼き付けていた。しかし、この方法だと、マスク作成後に設計変更が発生した場合、改版に長い時間と多くのコストが掛かるという問題があった。ところが、DLPを使えば直接露光が可能になる。つまり、マスクを作成する必要がないため、こうした問題を一気に解決できるわけだ。プリント基板に焼き付けるパターンは、入力データを変更すればよい。しかも、解像度が高いため、微細なパターンの焼き付けが可能だ。なお、この技術は、現在エレクトロニクス業界で話題になっている3Dプリンタにも適用できる。

次は、物体の3次元形状を計測する用途である(図3)。DLPを使ったディスプレイ装置とカメラを使う。ディスプレイ装置からは、縦縞、もしくは横縞の画像を出力し、被測定対象物に照射する。この対象物が3次元物体であれば、縦縞、もしくは横縞の画像はその物体表面で歪んでしまう。この状態をカメラで撮影して、歪み量を計測し、3次元物体の形状を把握するわけだ。

図3 3次元計測への応用
[画像のクリックで拡大表示]

通常、この手法を使った3次元形状計測では、縦縞、もしくは横縞の幅に変調をかけることで精度を高める。DLPを使えば、最大32kHzの速度で変調をかけられる。従って、より高精度な3次元形状計測が実現できる。

マシンビジョンや製造装置のほか、歯の形状計測などの医療機器がすでに実用化されている。指紋の計測については、現時点ではまだ実用化されていないがデモ機の作成がすでに完了しており、DLPの有効性は確認済みだという。

波長制御も視野に

次に紹介する応用分野は、インテリジェント照明である(図4)。これは、フロント・プロジェクタなどの既存の応用分野に近いものの、「表示するデータの中に情報とのインタラクティブ性がある点が違う」(日本TI)という。

図4 インテリジェント・ライティングへの応用
[画像のクリックで拡大表示]

具体的には、どのようなことが実現できるのか。医療機器の場合で説明しよう。この場合は、DLPを使ったディスプレイ装置と赤外線カメラを利用する。まず赤外線カメラで、患者の腕を撮影し、皮膚の直下にある血管の位置情報を取得する。この情報を、DLPを使ったディスプレイ装置で患者の腕に投射する。こうすることで、血管の位置が分かりづらい患者でも、その位置を一目で正確に認識できるようになるわけだ。

最後に紹介するのは、波長制御(Wavelength Control)用途である(図5)。DLP自体には、波長選択性はない。従って、プリズムや回折格子などと組み合わせて使用する。具体的には、まずプリズムや回折格子を使って、ある光源を波長(スペクトラム)ごとに分光する。そして分光した光をDLPに入射する。こうすると、DLPの左端から右端にかけて、青色光、緑色光、オレンジ色光、黄色光、赤色光といった光の帯ができる。このとき、DLPを使って各波長の反射量を選択的に調整すれば波長フィルタを実現でき、希望するスペクトラムを含む光を生成できるようになる。

図5 波長制御への応用
[画像のクリックで拡大表示]

こうして波長制御を実現すれば、数μsと極めて高速なフリップ動作を実現できる上に、1nm刻みで波長を選択することが可能になる。しかも、今回の説明では可視光を例に挙げたが、前述のように紫外光でも赤外光でも扱うことができる。このためウェハ検査装置や、水質検査装置、物質の成分分析器、食物や農作物の検査装置、光通信の光スイッチ(ROADM:Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)などに適用できる。

「ディスプレイ以外」に向けた評価キットも用意

こうした新しい応用分野に向けて、TIでは、画面寸法や画素数、画素ピッチが異なる複数のDLPチップセットを用意している(図6)。その中で産業機器や医療機器、車載機器、ロボットなどに向けた製品としては、1920×1080画素(1080P)の0.95インチ品『0.95 1080pチップセット』や、1024×768画素(XGA)の0.7インチ品『0.7 XGAチップセット』、1024×768画素(XGA)の0.55インチ品『0.55 XGAチップセット』、912×1140画素(WXGA)の0.45インチ品『0.45 WXGAチップセット』がある。

図6 DLPチップセットの製品ラインアップ
[画像のクリックで拡大表示]

そのほか、『DLP LightCrafter™』評価キットも用意している。今回新しく、『DLP4500』と『DLPC350コントローラ』で構成される『0.45 WXGAチップセット』向けの『DLP LightCrafter 4500』を発表した(図7)。光源(LED)やインターフェイス部などを搭載している。産業機器や医療機器、車載機器、ロボットなどのディスプレイ以外の用途開発に向ける。

図7 ディスプレイ以外の用途に向けた評価キット
[画像のクリックで拡大表示]

多くの特長を備えるDLPは、今後たくさんの応用分野が新たに開拓されそうだ。それによってエレクトロニクス市場におけるDLPの存在感はますます高まって行くだろう。

TIのDLP & MEMSに関する詳細

『0.45 WXGAチップセット』に関する詳細

『DLP LightCrafter 4500』に関する詳細

※ DLP、DLPロゴはTexas Instrumentsの登録商標です。LightCrafterはTexas Instrumentsの商標です。その他すべての商標および登録商標はそれぞれの所有者に帰属します。

(2013/10/24公開)

お問い合わせ
  • 日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
    日本テキサス・インスツルメンツ株式会社


    〒160-8366 東京都新宿区西新宿6-24-1 西新宿三井ビル
    日本TIプロダクト・インフォメーション・センター
    URL http://www.tij.co.jp/general/jp/docs/contact.tsp