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今までになかったデータ・コンバータをTIが製品化、小型で高精度な近接/変位センサが実現可能に

データ・コンバータというアナログICのカテゴリーに、まったく新しいジャンルの製品が登場した。データ・コンバータに新ジャンルの製品が登場したのは、10~15年ぶりのことである。

データ・コンバータと言えば、アナログ値をデジタル値に変換するADコンバータと、デジタル値をアナログ値に変換するDAコンバータが有名だ。そのほかにも、電圧値を周波数に変換するVFコンバータ、レゾルバの出力値をデジタル値に変換するRDコンバータなどがある。

今回登場した新ジャンルのデータ・コンバータは、上記のいずれにも当てはまらない画期的な製品だ。それは、インダクタンス値をデジタル値に変換するデータ・コンバータ「LDC1000」である。テキサス・インスツルメンツ(TI)が独自に開発し、市場へと投入した。

近接/変位センサが大幅に小さくできる

LDC1000は、その存在自体の新規性が極めて高い。しかし、それだけではない。LDC1000を利用して実現するアプリケーションについても、新規性が高いのだ。従来は達成できなかった性能を備えたアプリケーションを実現できるからだ。

主なアプリケーションは、近接センサや変位センサである。LDC1000に、プリント基板に作り込んだコイル(PCBコイル)や、導電材料からなる検出ターゲットを組み合わせることで実現する(図1)

図1 インダクタンスをデジタル値に変換するデータ・コンバータ
テキサス・インスツルメンツ(TI)が発売した「LDC1000」である。プリント基板(PCB)などに作り込んだセンサ・コイルを駆動して磁界を作り、そこにターゲットが入り込むとインダクタンスが変化する。その変化量をデジタル値に変換して出力する。
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どうやって近接や変位を検出するのか。動作原理については、まったく新規というわけではない。すでにファクトリ・オートメーション(FA)機器などの分野で実用化されている渦電流方式の近接/変位センサの動作原理と同じだ。すなわち、LDC1000を使ってPCBコイルを駆動することでその周辺に磁界を発生させる。その磁界の中に導体/金属が入り込むと、電磁誘導の原理によって導体/金属表面に渦電流が生じてインダクタンスが変化する。この変化量を読み取ることで、近接の検出や移動量の測定を実行する仕組みだ。

LDC1000のアプリケーションにおける新規性は、外形寸法を大幅に小型化できる点にある。ICパッケージの実装面積は、わずか4mm×5mmにすぎない。従来は、ディスクリート部品を組み合わせて実現する必要があったため、小型化が求められる電子機器への適用は難しかった。さらに、LDC1000では、ICとPCBコイルの距離を離して設置できる。従って、近接や変位を検出する部分を大幅に小型化し、信号処理は離れた場所で実行するというシステム構成が可能になる。

インピーダンスとインダクタンスの変化を検出

それではLDC1000で構成する近接/変位センサの動作原理を詳しく説明しよう。

LDC1000には、発振回路が集積されており、これを使ってPCBコイルを駆動する。PCBコイルは等価的に、インダクタ(L)とコンデンサ(C)からなるLCタンク回路を構成する。発振回路は、このLCタンク回路の共振周波数に相当する高周波電流を供給して、PCBコイルを駆動する。駆動電流の周波数は5k~5MHzの範囲で設定できる。電圧振幅は1Vpp、2Vpp、4Vppの中から選択可能だ。

共振状態に入ったPCBコイルは、高周波磁束を発する。つまり、PCBコイルの周囲には、高周波磁界が形成される。そこに導体、もしくは金属からなる検出ターゲットが入り込むと、導体/金属の表面に渦電流が発生する。この結果、PCBコイルがトランスの1次巻線、渦電流が2次巻線として機能するようになり、両者は磁気的に結合する。この磁気結合の程度は、PCBコイルと検出ターゲットの距離や、それらの形状で決まる。さらに、導体/金属の表面に渦電流が流れれば、その抵抗成分によって電力損失が発生する(渦電流損)。 

従って、PCBコイルに検出ターゲットが近づけば、LDC1000から見たPCBコイル(検出ターゲットを含む)のインダクタンスとインピーダンスの両方が変化するわけだ。インダクタンスの変化は、周波数カウンタを利用してセンサの発振周波数を測定することで測定する。インピーダンスの変化は、発振振幅を一定レベルに制御しながら共振回路で消費される電力を監視し、共振回路に投入される電力量を監視してデジタル値として読み取る。

つまり、インピーダンスとインダクタンスの両方の変化を測定できる。インピーダンス測定時の分解能は16ビット、インダクタンス測定時は24ビットといずれも高い。変位量測定の分解能に換算すればサブミクロン・オーダーとなり、極めて高精度な測定を実行できる(図2)。なお、検出できる最大の距離は、PCBコイルの直径の半分である。つまり、PCBコイルの直径が14mmならば、検出距離は最大7mmとなる。

図2 サブミクロンの分解能を実現
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形状の工夫でさまざまなセンサが実現できる

インピーダンスやインダクタンスの変化は、PCBコイルと検出ターゲットの距離や、それらの形状で決まる。言い換えれば、PCBコイルと検出ターゲットの形状を工夫すれば、さまざまなセンサを実現できることになる。代表的な3つの事例を紹介しよう。

1つ目の事例は、検出ターゲット(対象物)までの距離を検出するセンサである。プリント基板に同心円状のコイル(PCBコイル)を1個作り込み、その上部に上下に移動するボタンなどの検出ターゲットを配置しておく(図3)。この状態で検出ターゲットが上下に移動すると、PCBコイルの両端電圧が変化する。LDC1000がこの変化を読み取ることで、PCBコイルと検出ターゲットの距離を検出するわけだ。

図3 ゲーム機のコントローラへの適用例
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特長は、検出精度は高いことに加えて、信頼性が高いことにある。従来は、抵抗膜を使ったセンサを使うのが一般的だった。抵抗膜センサは、過度な力が加わったり、油分や湿気が多い劣悪な環境で使ったりすると、壊れてしまう危険性が高かった。LDC1000を使ったセンサであれば、接触部が存在しない上に、PCBコイルと検出ターゲットには防水加工などを施すことが可能になる。従って、信頼性を高めることが可能だ。

この距離検出センサの応用分野はかなり幅広い。例えば、産業機器における位置検出や厚み検出、家庭用ゲーム機のコントローラ、冷蔵庫の開閉検出スイッチ、住宅のドアや窓の開閉検出スイッチなどが挙げられる。

レンズのフォーカス位置検出にも適用可能

2つ目の事例は、検出ターゲット(対象物)の位置を検出するセンサである。 図4に示した形状の検出ターゲットを使う。一方の端部の幅は太く、もう一方の端部に近づくにつれて次第に細くなる形状である。この検出ターゲットと、同心円状のPCBコイルを組み合わせる。PCBコイルの上で、検出ターゲットが横方向に移動すると、その位置によってLDC1000の出力電圧が変化する。従って、出力電圧を検出することで、検出ターゲットの位置が分かる。さらに、PCBコイルをもう1つ用意し、対応する検出ターゲットの形状が反対になるように配置すれば、検出ターゲットの縦(Z軸)方向へのズレをキャンセルできるようになる。

図4 横方向の変位を検出する
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図5 一眼レフ・カメラへの適用例
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この位置検出センサの適用例としては、デジタル一眼レフ・カメラがある(図5)。交換式のレンズに、上記のようなセンサ・システムを取り付けておけば、レンズのズーム位置を検出でき、カメラ本体が把握することが可能になる。これまでは、ホール素子を使った磁気センサと光センサを組み合わせて、同様のセンサ・システムを構成していた。今回のLDC1000を使うセンサ・システムに置き換えれば、検出精度を高められるほか、コストと消費電力を削減することが可能になる。

3つ目の事例は、回転位置や歯数を検出するセンサだ。エンコーダやサーボなどに使える。従来、こうした用途には、光センサや磁気センサが使われていた。LDC1000を使ったセンサ・システムに置き換えれば、信頼性の向上や、消費電力の削減、コストの削減などを実現できる。

実現方法を紹介しよう。回転位置を検出するセンサを実現する場合は、図6のような検出ターゲットを用意する。一端が太く、もう一端が細い形状のもので、円を描くように丸めて配置する。PCBコイルは1個である。この状態で検出ターゲットを回転させると、回転角に応じた出力が得られる。この結果、回転位置を把握できるようになる。検出ターゲットはそのままで、PCBコイルを3個用意すれば、検出ターゲットのZ軸方向のズレをキャンセルできるようになるほか、検出できない領域(死角)を無くせる。

図6 回転による変位を検出する
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歯数を検出するセンサの場合は、歯車状の検出ターゲットを使う(図7)。歯車の突起部がPCBコイル状を通過すると、出力波形が変化する。これを数えることで歯数が求まる。さらに歯車の歯の形を左右非対称にすることで、異なる出力波形が得られるため、検出ターゲットの回転方向の判別が可能になる。逆回転による異常を検知する機能も簡単に付加することもできる。PCBコイルに対して検出ターゲットが垂直になるように配置すれば、出力波形は矩形波に、水平になるように配置すれば正弦波になる。

図7 歯車の歯数をカウントする
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誘導型近接センサを実現するインダクタンス/デジタル・コンバータ「LDC1000」の詳細

(2013/12/20公開)

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