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日本TIの車載向けソリューション ブレーキやエアバッグなど高度な安全性が求められる分野に焦点

庄司健一 氏
日本テキサス・インスツルメンツ株式会社 営業・技術本部 マーケティング統括部 オートモーティブ マーケティング マネージャ

自動車には、数多くのマイコンが搭載されている。搭載個数は、車種やグレードなどで異なるが、多いものでは80個を超える。しかも、搭載個数の増加は、とどまるところを知らない。今後、電気自動車やハイブリッド車、プラグイン・ハイブリッド車が普及すれば、搭載個数はグンと伸びる。  

こうした成長市場に向けて、世界の半導体メーカーがこぞって取り組みを強化している。2011年の世界半導体市場におけるシェア第3位の企業である米テキサス・インスツルメンツ(TI)もその一社だ。今回は、日本TIの営業・技術本部 マーケティング統括部 オートモーティブ マーケティングでマネージャを務める庄司健一氏に、車載マイコン事業の現状と今後の戦略などについて聞いた。

まずは、TIの車載マイコン事業の現状について説明して下さい。

庄司 当社は、車載向け半導体の老舗メーカーです。30年以上前から手掛けており、当初は、エンジン制御用にアナログ・チップを製品化していました。車載マイコンについても着手した時期は早く、今から20~25年前です。独自コアを用いた車載マイコンを開発し、自動車メーカーや、車載機器メーカー(Tier1)に納入していました。

着手は早かったようですが、現在の車載マイコン市場におけるシェア争いでは、上位3社の後塵を拝しています。その理由は何でしょうか。

庄司 競合他社とは異なり、かつては、汎用品を手掛けていなかったことが理由です。

当社が得意とするのは、ブレーキ制御やエアバッグ制御など、安全性が特に求められる分野です。この分野において、製品企画の段階から自動車メーカーと密に連携を取り、カスタム設計の車載マイコンを共同で開発して納入するというビジネスを、欧州市場を中心に展開していました。

汎用品を手掛けず、カスタム品が中心。このため、車載マイコン全体でみれば、市場シェアは決して高くはありません。しかし、ブレーキ制御やエアバッグ制御などにおいては、有力なマイコン・メーカーだと自負しています。

ブレーキ制御やエアバッグ制御といった市場で、強い立場を築き上げることができた理由は何ですか。

庄司 マイコン製品そのものの競争力は当然ですが、その周辺に必要なアナログ技術の強さが理由の一つです。ブレーキ制御にしても、エアバッグ制御にしても、マイコン以外に電源やドライバなどのアナログ・ペリフェラルが必要になります。例えば、ブレーキ制御の場合は、油圧をコントロールするソレノイドの駆動機能が欠かせません(図1)

図1 ブレーキ制御システム
テキサス・インスツルメンツ(TI)のマイコン「TMS570シリーズ」を使って構成した。マイコンのほか、電源スーパーバイザやCANインターフェイス、ソレノイド用ドライバなどのアナログ・ペリフェラルが必要になる。
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もちろん、マイコンのほか、電源ICやドライバICなどを購入し、それらを組み合わせれば希望する機能を実現できるでしょう。しかし、当社であれば、マイコンとアナログ・ペリフェラルを1チップに集積したSoC(System on a Chip)の提案も、それぞれ最適化されたソリューションとしての複数チップの提案も提供できます。しかも、そのアナログ・ペリフェラルの性能は極めて高い。こうしたSoCや、システム全体を考えたソリューションを使った方が、実装面積が小さくなり、高いシステム性能を実現し、かつ部品管理も容易になるため、顧客メリットが高いといえます。

カスタム品と汎用品の二本立てに

現在でも、カスタム品のみを提供しているのでしょうか。

庄司 いいえ、違います。現在では、ブレーキ制御などの市場に向けて、カスタム品のほかに汎用品も提供しています。

戦略を変更した理由は何ですか。

庄司 自動車産業の広がりが理由です。かつて自動車産業は、日米欧のメーカーが中心でしたが、今やワールドワイドの産業になっています。中国やインドなどの新興国でも、自動車メーカーが数多く設立されており、製造台数がかなり多くなってきました。

こうした数多くの自動車メーカーを視野に入れてビジネスを展開するには、カスタム品だけでは無理があります。どうしても汎用性の高い車載マイコンが必要になります。そこで現在では、カスタム品と汎用品の二本立てで取り組んでいます。

現在、製品化している汎用品にはどのようなものがありますか。

庄司 32ビット・マイコンの「Hercules™(ヘラクレス)」で(型番は「TMS570シリーズ」)、ブレーキ制御などに向けたものです(図2)

図2 TMS570シリーズの内部ブロック図
英ARM社の32ビット・コア「Cortex-R4」を2個搭載した。ADコンバータなどのアナログ・ペリフェラルも集積した。

このマイコンの特長は、極めて高い安全性を確保できる点にあります。さらに、このマイコンを採用すれば、自動車メーカーは、機能安全規格「ISO 26262」のシステム認証を取得しやすくなるというメリットを享受できます。

なぜ、高い安全性を確保できるのか。その理由は、英ARM社のCortex™-R4コアを二つ集積した点にあります。この二つのコアは、クロック信号をずらして同じ演算作業を実施し、その結果を比べます。もし、結果が同じであれば、正常演算がされたと判断して次の処理に進みますが、ノイズなどの影響で結果が異なれば、異常時の処理をするルーチンに移行するなどの対策を施すことが可能です。

このほか、ADコンバータなどのアナログ・ペリフェラルにも、自己診断機能を搭載しています。つまり、マイコンのコアとアナログ・ペリフェラルの両方で、機能安全規格を十分に満足できるわけです。こうした機能安全に対応する車載マイコンの実用化は、TIが業界で先頭を切って推進しています。

なぜ、クロック信号をずらして実行させるのですか。

庄司 これは二つのコアで同じ間違いが発生する危険性を排除するために内部の演算処理に工夫を施している一例です。同じ間違いだと、結果も同じになってしまいます。従って、二つのコアの演算結果が同じ結果で全く同じ間違いを含んだ場合、それを正しい結果と認識してしまう危険性がある。せっかく二つのコアを積んでいてもこれでは意味がない。そうした危険性を排除するためのハードウェアによる対策の一つです。

こうした機能安全は、ソフトウェアで実現することはできないのですか。

庄司 ソフトウェアでも対応することはできます。しかし、当社では、こうしたハードウェアを使った実現方法の方が、ソフトウェアのプログラミングによる複雑性を回避して、ユーザーエンジニアにとってシンプルで高い安全性を確保できると考えています。

日本国内でも着実な成果が

国内の車載マイコン市場でのシェアは、どの程度ですか。

庄司 日本市場での車載マイコンのシェアはまだ低いレベルにありますが、今後大きく伸びる可能性を秘めています。前述のTMS570シリーズの従来品に当たる「TMS470シリーズ」は国内でビジネスを展開していませんでした。つまり、機能安全規格に関する機能をフル装備したTMS570シリーズで、日本市場に本格参入したことになります。TMS570シリーズの発表は2011年8月です。TIでは、こうした極めて高い機能安全性を実現したデバイスを『SafeTI™』と名付けてプロジェクト化しており、これからは、『SafeTI』戦略を積極的に推進していきます。従って、成果はこれから出てきます。

すでに、国内の自動車メーカーや車載機器メーカー(Tier1やTier2)にTMS570シリーズを紹介していると思います。その反応はどうですか。

庄司 すでに採用に向けた具体的な話に入ったブレーキ制御関連メーカーもあり、製品の評価を進めてもらっています。2016~2017年に登場する市販車のブレーキに搭載されるでしょう。

ただし、日本国内には、高い市場シェアを持つライバル企業が存在します。こうした企業との争いに、どう打ち勝つ考えでしょうか。

庄司 確かにマイコンは、メーカー間の乗り換えがなかなか進まない製品です。これまでのシステムで開発されてきた資産としてのソフトウェアプログラムがあるからです。新たなメーカーのマイコンに乗り換える場合は、プログラムの移植が必要になります。この作業は、非常に大変。日本市場を新規開拓する際に、当社にとって大きな壁が存在することは十分に認識しています。

しかし、当社には当社ならではの強みがあります。それは、前述のTMS570シリーズのほかに、車載専用のアナログ設計部門を持っていることが挙げられます。マイコン・コアだけでなく、電源やドライバ、通信(CAN)などのアナログ・ペリフェラルにおいて高性能の回路を集積できるからです。

さらに、1チップに集積しなかったとしても、マイコンだけでなく、アナログ・ペリフェラル・チップを含めた一つのブロックを先ほどお話ししたソリューションの提案としてお客様に提供することが可能になります。このソリューションを検討頂く事で、機能安全を実現しやすくなると認識頂けると考えています。このため、機能安全システムを開発するエンジニアにとって魅力的な提案になるはずです。

このほかにも、強みはありますか。

庄司 特筆すべき点が、もう一つあります。自然災害などが起きた際の復旧への取り組みが迅速なことです。実際に2011年3月11日に発生した東日本大震災で、茨城県にある当社の美浦工場も大きな被害を受けましたが、翌日には米国のダラスから専門チームが来日し、復旧作業に着手しました。この結果、2011年7月には完全復旧。お客様に納期遅れなどのご迷惑をかけることを回避できました。

さらに、当社が従来から行っている「生産のマルチソース化」も、現在お客様から高い評価を受けています。震災前は、車載向けの高い品質を確保するためにマルチソースに対しては否定的な考え方が大半を占めていました。

しかし、シングルソースでは、その工場が自然災害で大きな打撃を受けると、製造が一切ストップし、納期遅れなどの問題が発生する可能性が極めて高い。このことを国内企業の多くが、震災によって強く認識したようです。このため、震災後は、当社の「生産のマルチソース化」を高く評価してもらっています。

今後は、製品力に加えて、こうした製造の緊急対応が可能な点を活かして、国内の車載マイコン市場を開拓していく考えです。

日本TIのオートモーティブ・ソリューションに関する詳細はこちらをご覧ください。

※HerculesはTexas Instrumentsの商標です。その他すべての商標および登録商標はそれぞれの所有者に帰属します。

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