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「三相ブラシレス・モーターを5分で駆動」専用ソフトを搭載したC2000マイコンが登場

田原正之氏
日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
営業・技術本部 マーケティング統括部  組込みプロセッサ・コネクティビティ マーケティング 主事

センサレスの三相ブラシレス・モーターは、コスト効率が高い。しかし、その一方でモーター制御開発が難しいという課題を抱えており、専門知識を持つエンジニアと十分な開発期間が不可欠だった。このため、採用に踏み切れないメーカーもあった。この問題を解決するマイコンのモーター制御ソリューションFOC(フィールド・オリエンテッド制御)が開発された。

モーター(電動機)のアプリケーションは幅広い。輸送搬送機器や白物家電、農業用機器、業務用空調機器、電動工具、自動車など、枚挙に暇がない。世界の市場規模は、1年間に110億個にのぼる。

現在、こうしたモーターの高効率化に対する需要が急激に高まっている。その背景には、環境問題に対する意識の高まりがある。モーターによるエネルギー消費量は極めて大きい。実際に、世界全体のエネルギー消費量の約45%を占めるという統計がある。このため、欧米や中国では、モーターのエネルギー消費量に関する規制がすでに始まっている。日本でも、2015年には規制が始まりそうだ。

専門知識が欠かせない

いかにモーターのエネルギー消費量を減らすのか。その技術的な方法はすでに分かっている。従来のようなモーターのフル回転制御+オン/オフ制御(バルブ制御)ではなく、可変速制御を適用すればよい。そうすれば、エネルギー消費量を劇的に減らせる。つまり、ブラシ付きモーターから、三相ブラシレス・モーターなどに置き換えればいいわけだ。

ただし、回転子(ローター)の位置情報を検出するセンサ(ホール素子やロータリ・エンコーダ、レゾルバなど)を搭載した三相ブラシレス・モーターは、コスト高や、置かれた環境によっては信頼性への懸念につながる課題がある。従って、センサレスの三相ブラシレス・モーターの採用が、現時点における最良の問題解決策と言うことになる(図1)。

図1 モーター制御/駆動のシステム構成
三相ブラシレス・モーターの駆動電流/電圧の情報から、回転子(ローター)に関する情報を取得する。従って、ホール素子やロータリ・エンコーダなどは不要だ。こうした情報を使って直交電流制御を実行し、PWMドライバを介してモーターを駆動する。
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答えは分かっているが、なかなかセンサレスの三相ブラシレス・モーターの採用は進まない。理由は複数あり、その中でも、かなり大きな部分を占めるのが、センサレスの三相ブラシレス・モーターを設計するには、高度な専門知識と十分な開発期間が必要なことである。実際には、広範囲に渡る回変速制御をセンサレスで実現するには、マイコンを使った高度な制御技術が不可欠だからだ。

モーター制御開発をサポートする

こうした問題を解決するため、テキサス・インスツルメンツ(TI)は、モーター制御ソリューション「InstaSPIN™-FOC」を発売した。FOCはフィールド・オリエンテッド制御(Field Oriented Control)の略である。

このソリューションは、同社の32ビット・マイコンである「C2000™」Piccolo™のマスクROM領域に専用ソフトウェアを格納したものだ。このマイコンに加えて、評価ボードやシミュレーション用ソフトウェア、コード生成ソフトウェアなどを利用することで、モーター制御に関する深い専門知識がないエンジニアでも、センサレスの三相ブラシレス・モーターを搭載した電子機器を開発できるようになる。

同社はすでに、今回と同様な製品を2012年9月に発表している。これは、「InstaSPIN-BLDC」と呼ぶ製品で、三相ブラシレスDCモーターの開発に向けたものだ。台形波による駆動(120度通電)に対応している。今回の製品は、これを進化させたものに当たる。正弦波による駆動(180度通電)が可能だ。対応するモーターは、ブラシレスDCモーターや永久磁石同期(PMS:permanent magnet synchronous)モーター、埋め込み型永久磁石(IPM:interior permanent magnet)モーター、交流誘導(ACI:AC induction)モーターなどである。

モーターの特性を自動的に把握

InstaSPIN-FOCの最大の特長は、「特性がまったく分からないモーターでも、5分もあれば、回転させられる点にある」(日本TI 営業・技術本部 マーケティング統括部 組込みプロセッサ・コネクティビティ マーケティング 主事の田原正之氏)。

通常、モーターを駆動する場合は、仮に制御プログラムがある程度完成していても、駆動対象となるモーターの特性に合わせてパラメータを修正したり、制御プログラムを微調整したり、共振現象などの思わぬ事態に対処したりする必要に迫られる。このため、「モーター制御の専門知識のあるエンジニアがいない場合に、特性の分からないモーターを駆動するには数カ月の時間を要することが少なくない」(同氏)という。

そこでInstaSPIN-FOCでは、駆動対象となるモーターの特性を求める「同定」と呼ぶ作業を自動的に実行する機能を搭載した。具体的には、モーターに対して信号を与え、応答する信号を解析することで、モーターの抵抗値やインダクタンスといった特性値を求める。これを使えば、極めて短い時間で、未知のモーターの特性を把握できる。

モーターのセンサレス制御を実行する上で中核を成すのは、「FAST」というアルゴリズムである(図2)。FASTは、Flux(磁束)、Angle(角度)、Speed(速度)、Torque(トルク)の頭文字を並べた言葉だ。モーターを制御するフィードバック・ループの一部を構成する。モーター駆動中は、A/Dコンバータでデジタル化されたモーターの駆動電流/電圧を基に、回転子(ローター)に関する情報(磁束と角度、速度、トルク)を推定し、制御部に引き渡す役割を果たす。いわゆる、オブザーバの役割である。その後、制御器ブロック部において、直交電流(IqとId)値の微調整を実行し、モーターを駆動するわけだ。

図2 InstaSPIN-FOCの内部ブロック
マイコンのマスクROMに格納したInstaSPIN-FOCの内部ブロックである。「FAST」と呼ぶアルゴリズムを使って、センサレスで回転子(ローター)の情報、すなわちFlux(磁束)、Angle(角度)、Speed(速度)、Torque(トルク)を取得する。これを使って、直交電流制御を実行する。
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このほか、InstaSPIN-FOCには、交流誘導(ACI)モーターに向けた低消費電力化機能も搭載した。

評価キットは3種類用意

今回発売したマイコンの型番は、「TMS320F2806xF」である(図3)。32ビットのマイコン・コアである「C28x」を搭載する。クロック周波数は90MHz。浮動小数点ユニット(FPU)やビタビ・複素演算ユニット(VCU)、制御補償器アクセラレータ(CLA)などを集積した。フラッシュ・メモリの容量は128K/256Kバイト。RAMの容量は96Kバイトである。電源電圧は3.3V単一。パッケージは、80ピンQFPと100ピンQFPを用意した。動作温度範囲は-40~+125℃で、車載にも対応している。1万個購入時の米国での参考単価は6.12米ドルである。

図3 発売したマイコンの構成
発売したC2000マイコン「TMS320F2806xF」の構成である。マイコン・コアには32ビットの「C28x」を採用し、一部拡張命令セットや、独立動作が可能なコプロセッサを搭載している。動作周波数は90MHz。128K/256Kバイトのフラッシュや96KバイトのRAMを集積した。パッケージは、80ピンQFPもしくは100ピンQFPである。
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このほか同社は、発売したマイコンとモーター・ドライバICを搭載した評価キットを3品種用意した。1つめは、50V/3.5A出力のモーター・ドライバIC「DRV8312」を搭載した「DRV8312-69M-KIT」である(図4)。扇風機などの規模のモーター開発に向ける。2つめは、60V/60A出力のモーター・プリ・ドライバIC(FETは外付け)「DRV8301」を搭載した「DRV8301-69M-KIT」で、電動自転車、介護用機器などの規模のモーター開発用である。3つめは、350V/20Aのモーター・ドライバ・モジュール「HVMTR」に対応した「TMDSHVMTRINSPIN」である。エアコンや洗濯機などの規模のモーターの開発に向ける。DRV8312-69M-KITとDRV8301-69M-KITの価格は299米ドル、TMDSHVMTRINSPINは699米ドルである。

図4 扇風機などの規模のモーター開発に向けた評価キット
今回発売したC2000マイコン「TMS320F2806xF」と、モーター・ドライバIC「DRV8312」を搭載した評価キット「DRV8312-69M-KIT」である。出力は50V/3.5Aで、扇風機を代表とした規模(50V, 3.5A) のモーター開発に向ける。
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なお、発売した評価キットでは、マイコンをサブボードに実装している。従って、サブボードを変更すれば、「Cortex-M4F」コアや「Cortex-R4F」コアを搭載したマイコンを使ってモーターを制御することも可能だ。今後も同社は、InstaSPINを発展させていく予定だ。具体的には、InstaSPIN-FOCを搭載するマイコンの品ぞろえを増やしていくほか、さらに高度な制御方式を採用したInstaSPINの開発にも取り組む。

TIのモーター駆動/制御ソリューションに関する詳細はTIJのサイトをご覧ください。

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