メガネ型ウエアラブルデバイスが
切り拓く新たな地平

 活況を呈するウエアラブルデバイス市場。中でもメガネ型ウエアラブルデバイスはB2B市場への拡大が見込まれる成長分野となりつつある。こうした中、2016年3月12日と3月26日に東日本大震災の被災地である宮城県において、「AR HOPE TOUR」と銘打った防災教育の実証実験が開催された。ツアーで使用したのはソニー製の透過式メガネ型ウエアラブルデバイス「SmartEyeglass」。産学が連携した有意義な取り組みを報告する。

index

index

index

index

それぞれの強みを活かし、産学がしっかりと手を組む

 東日本大震災から5年。AR HOPE TOURは、地元のコンテンツ企業であるディー・エム・ピー(以下dmp)、東北大学、ソニーが中心となって企画された。本ツアーは遡ること1年前の2015年3月、宮城県農業高等学校の生徒による被災地AR(拡張現実)観光のアイデアをもとに宮城県名取市で実施した「NATORI AR HOPE TOUR」に端を発する。

ソニーが提供したSmartEyeglass 。AR HOPE TOUR in Sendaiの控室にて

 今年は新たに宮城県仙台市と多賀城市にステージを移し、昨年のツアーから見えてきた課題を洗い出した上で、各関係者が強力なパートナーシップを構築した。ソニーはAR用デバイスとしてSmartEyeglassとXperia Z4 Tabletを提供し、ハードウエアで全面協力。東北大学からは、東北大学災害科学国際研究所 情報管理・社会連携部門 災害アーカイブ研究分野 准教授の柴山明寛氏がアドバイザーとして参加し、震災アーカイブデータの提供とコンテンツの監修を担当。dmpはコンテンツの制作とツアー全般の運営に携わった。さらに「みやぎ産業振興機構」の助成を受け、今回の実証をベースとしたパッケージツアーの産学連携による事業化も視野に入れている。

東北大学災害科学国際研究所から参加した柴山明寛氏(AR HOPE TOUR in Tagajoより)

SmartEyeglassから見えてきた防災教育
そしてビジネスの可能性とは

 AR HOPE TOUR in Sendaiの舞台は、津波に飲み込まれた沿岸部の仙台市荒浜地区。参加者は甚大な被害を受けた被災地を自分の足で回りながら、SmartEyeglass上に投影される震災前後のAR映像を体験した。加えて津波の高さや、震災当時から現在に至るまでの周辺の変化を映像で疑似体験するなど、過去と現在をクロスオーバーさせる工夫を施した。この過去と現在を融合する手法については、東北大学の柴山氏による以下のようなこだわりがある。

最初の訪問地となった仙台市立荒浜小学校。2016年3月31日をもって閉校した


SmartEyeglass上に見えるAR。震災当時、この場所で車がひっくり返っていたのがわかる(AR HOPE TOUR in Tagajoより)

 「震災の語り部ツアーなどもあるのだが、それらは震災当時のことに集中してしまう。それだけではなく、復旧・復興がどのように進んだのか、この地域の人たちがどのように変化してきたのかを知ってもらう必要がある。復旧・復興の様子を知ることは、実は事前防災につながる部分が非常に大きいのだ」

荒浜小学校の屋上から海岸を臨む様子。SmartEyeglassには津波の高さが表示されている


荒浜・深沼海岸に立つ慰霊之塔。時間経過とともに海岸付近の風景が変わってきた様子が映し出された

 当時を振り返る証言音声なども交えながら、熱心に震災の足跡を追う参加者たち。荒浜小学校の後は、徒歩で荒浜・深沼海岸の慰霊之塔近くまで移動し、まさに現場の空気を感じながらツアーは進んだ。海岸付近では5年の間で変化してきた海岸の復興の様子が映し出され、「ようやく最近、護岸工事が終わって海岸に入れるようになった」との解説も。そして柴山氏は「5年目というのは震災を忘れてしまう時期。東京だと3年目で忘れかけている。改めて震災当時とそれ以降を知ってもらうためのいい機会だった」と話してくれた。

   次へ>