TOTO
衛生陶器・住宅設備機器メーカーとして、グローバルに事業を展開するTOTO。同社は、マーケティングオートメーション(MA)の活用を進めている。
「住宅・建築業界は、設備ごとに流通が細分化され、メーカーの数も多い。お客様は指名買いするのではなく、Web上で商品を見比べたり、クチコミを参考にしたりしています。ですから、デジタルマーケティングを通じてお客様とのコミュニケーションを深め、指名買いにつなげたいと考えています」と同社の羽佐田 浩氏は語る。
そのために重視しているのが、顧客の思いに応えることである。企業のWebサイトは「自社製品の良さを理解してもらいたい」という思いが強くなりすぎ、ともすれば「有益な情報を入手して間違いのない選択をしたい」という顧客の思いとマッチしないケースもある。それに対し、同社は顧客が知りたいポイントで、いかにタイムリーに情報を提供できるかを大きなテーマに据えているのである。
そのための仕組みが冒頭で述べたMAである。
具体的には、広告や検索サイト、外部リンクから集客した顧客のWebサイト内の閲覧履歴などの行動を解析してパーソナライゼーションを行い、適切なコンテンツを提示して予約や資料請求を促す。そこで入手したメールアドレスをもとにメールマーケティングを展開して、顧客個人と、その時々のニーズに最適化した情報提供を繰り返し行う(図1)。
ただし、分析や配信の仕組みを構築しただけでは、有効なMAを実現するのは難しい。「まず大きなポイントの1つとなるのがメールアドレスを入手すること。そのためには、良質のコンテンツを数多くそろえることが重要です」と羽佐田氏は強調する。
また、解析した行動が顧客のどんなニーズを表しているのか。パーソナライゼーションのためのシナリオ設計も重要なポイントとなる。精度の高いシナリオを設計するには、PDCAサイクルを繰り返しまわしていく必要があるが、ここに「現場」の知見を加えるべきだと羽佐田氏は言う。
「行動解析だけで正解を導き出すのは難しい。データ解析に長けた人間と、コンテンツを企画する人間、そして、お客様のことを肌で知る営業担当者など『現場』の人間の知見を組み合わせるべき。チーム間の垣根を越えた連携と組織体制が必要だと考えています」(羽佐田氏)
現在、同社は、デジタル化はされていないが、依然として大きな役割を持つカタログやマス広告、ショールームとデジタルマーケティングの融合も検討中。チーム間の連携に加えて、このような取り組みからも、同社が単にWebにおける取り組みとしてではなく、全社の販促の基盤としてデジタルマーケティングをとらえていることがわかる。
ライオン
現在、PCやタブレット、スマートフォンなどのデジタルデバイスへの接触時間はテレビの視聴時間を超えている。もはや、企業にとってデジタルマーケティングの推進は避けては通れない経営課題だ。
「知りたいことは検索サイトで調べ、自分の体験はSNSでシェアするという現代のお客様の行動に、いかに寄り添い、対応できるかがカギだと考えています」とライオンの保坂 政美氏は話す。
そこで、同社が着手したのが、自社Webサイトの見直しとDMP(Data Management Platform)の構築だ。
毎日の暮らしで利用する商品を提供していることから、同社は以前から生活情報サイトを運営してきた。しかし、商品やテーマごとに多数のサイトが分散しており、決して利用しやすいとは言い難い状況だったという。「コンテンツも商品情報主体にとどまっていた。誰でも、必要な情報をすぐに入手できる現在、これではお客様が当社のサイトを利用する可能性は高いとは言えません」(保坂氏)。
分散していた複数のWebサイトを統合し、双方向型の生活情報サイトとして立ち上げたのが「Lidea」である。現在の主要コンテンツは約660本。月に10本前後のペースで新たな記事を配信している。
特長の1つが「マイスター制度」である。これは「洗濯」「リビングケア」「オーラルケア」「ヘルスケア」の4つの分野に精通した同社の社員が「マイスター」として責任をもってコンテンツを監修するというもの。「ネット上には玉石混交の記事があふれ、信頼性に疑問を持っている方も少なくありません。お客様に安心して記事を読んでもらうことが大切です」と保坂氏は言う。
さらに同社はDMPによって、本格的なデータ活用を行っている。具体的には、CM視聴率やサイト行動履歴、 POSデータなど、それまで独立していたデータを統合して相関分析。ネット上や店舗に関係なく、1人の顧客が、いつ、どんな商品の広告を見て、どんな方法で情報を探し、最終的に商品購入に至っているのかなどを把握しようと考えている(図2)。
すでにLideaとDMPが成果につなが った事例もある。おしゃれ着用洗剤「アクロン」は、冬場に比べて夏場の需要が伸びにくい商材だが、同社がサイト検索ワードなどを分析したところ、夏場は「浴衣」というワードでの検索流入が突出して多いことが判明。そこで、浴衣を使ったプロモーションを展開したところ、夏季のシェアが大きく向上したという。
ほかにも、パートナー企業と連携してマーケティング取り組みを行うなど、同社はLideaとDMPを積極的に活用している。商品だけでなく「情報」でも生活者の役に立つ。同社のデジタルマーケティングは、販促という枠を超えてライオンが提供できる新しい価値を示しているのかもしれない。
三菱電機
老舗総合電機メーカーである三菱電機は、ビジネスユニットごとに乱立していたプロダクトサイトの統合を10年近くかけて進めてきた。各事業部は自主独立の気風が強く、決して容易ではなかったが、2015年3月に家電部門のB2B事業約30製品を対象とする『暮らしと設備』を開設させた。
現在、サイトの運営はブランド戦略推進部門が全体を統括し、製品ページは各事業部がオーナーとなっているが、全体を束ねるのは容易ではなく、理解と協力を得るため、日々工夫と努力を積み重ねているという。
「最初に目指す方向を共有しておくのが重要。定期的なオーナー連絡会を開催し、アクセス状況や改善の進捗状況、課題の共有をしてベクトルを合わせながら、コミュニケーションを図っています。また、新しいことを提案する際は、数値的な根拠と論理的なプロセスを必ず提示。事業部門が障壁を克服できるようサポートし、結果をわかりやすい形でフィードバックするといった工夫も行っています」と同社の辰巳 裕子氏は話す。
サイト構築時には、ユーザーの文脈に沿った設計に徹底的にこだわった。導入検討のため幅広く情報を収集したいお客様向けにはビジュアル中心のコンテンツを提示。一方、技術的な情報を詳しく知りたい顧客向けには詳細な情報にたどり着きやすいように、また、製品の選び方がわからない顧客向けには、導入を成功に導くヒントや選び方のポイントなどが用意されている(図3)。
さらに同社はWebサイト統合と同時にマーケティングプラットフォームを整備。蓄積したデータから課題を抽出したり、ユーザーのニーズを読み取ったりしながら、仮説を立てて検証を繰り返し、Webサイトを中心とするマーケテ ィング施策の改善を図っている。
「例えば、ある製品においては購入相談の件数を増やすために、お客様がサイトを閲覧する流れに沿って購入相談バナーを設置したり、ニーズの高いコンテンツを充実させたりしました。結果、相談件数はしっかりと増加。意図した施策効果を確認できました」(辰巳氏)
こうした取り組みの結果、まず得られたのが初歩的な問い合わせの減少と、購入確度の高い問い合わせの増加だ。 Webカタログ閲覧数や全体訪問数、導入相談の件数も、サイト開設の1年後には1.5倍近くも急増したという。
加えて現在は、訪問数や閲覧数とい った基本的な成果だけでなく、より直接的にビジネス貢献していくことを追求している。「デジタルありきではなく、事業戦略や課題を整理して、どの施策だと結果につながりやすいかを検討しています。とはいえ、収益を拡大するという大きな目標は同じでも、各事業部門が抱えている課題は様々。『営業の人員が不足しているため、より確度の高いリ ードを増やしたい』『高いシェアは持っているが、市場そのものが小さいので、市場自体の拡大に貢献してほしい』『スタンダード機種ばかり売りにつながり、ハイスペック機種の良さがなかなか理解されない』などです。課題をひとくくりにするのではなく、各事業部の課題を解決できるかが重要だと考えています」と辰巳氏は強調する。
プロダクトサイトの最適化は、デジタルマーケティングの中核を担う取り組みである。大所帯をいかにまとめあげるかという課題をクリアした同社の取り組みは、多くの企業の参考になるはずだ。
コニカミノルタジャパン
コニカミノルタジャパンは、営業プロセス改革の一環としてデジタルマーケティングプロジェクトを推進した。「デジタルマーケティングによって良質なリードを獲得し、営業工数の低減を図るためです。もちろん、その実践スキームは、最終的にお客様に提供することを視野に入れています」と同社の山田 泰久氏は語る。
取り組みは3つの商材を対象にスモールスタート。まず行ったのが、各商材が抱える課題の洗い出しだ。単にデジタルマーケティングのツ ールや方法論を適用するのでなく、ビジネスの課題を解決するための体制や環境、仕組みを構築するためだ。例えば、ある商材は、せっかく来た問い合わせへの対応がなされていなかったり、カタログサイトしかない上、サイトの認知度が低く、訴求力に欠けていたりしていたという。
そこで同社は、コンテンツの充実とブラッシュアップ、個の関心把握とダイレクトアプローチ、そして、SFAとの連携に着手。そのためのプラットフォームとして、コンテンツ配信管理、アクセス解析、マーケティングオートメーションなどのツールを導入した。
「将来の展開も見据えた共通のコンテンツ用テンプレートと配信環境の整備。さらに、サイトを訪問したお客様の関心や強さを可視化して、その情報を営業にホットリードとして渡せる環境を整えました」と山田氏は説明する。
加えて、各商材の売上目標金額を基点に、デジタルマーケティングのKGIとKPIを設定し、取り組みの進捗状況が一目でわかるようにしたほか、各種運用ノウハウをまとめた資料を作成したり、マーケティング部門主体の運用体制を構築したりして、デジタルマーケティングプロセスの定着を図った。
「今後は成果を見定めながら、ほかの商材にも適用していきます。その過程でノウハウにより磨きをかけ、お客様のビジネスも貢献していきたいですね」と山田氏は語った。
かつて、AI(人工知能)といえばSF世界の話であったが、現在では、より身近なものとなり、大企業から個人までAIの活用が広まっている。背景には、コンピュータの処理能力の飛躍的な進化に加え、Microsoft、GoogleやAmazonなどが次々にAI関連サービスをリリースしていることが挙げられる。「こうしたテクノロジーをいかにマーケティングに用いることができるか、といった発想の転換も重要ではないか」とコニカミノルタの松川和正氏は提案する。
例えば、昨今、ユーザーの間では、モバイル・シフトやコミュニケーションのビジュアル化が進み、自分の見たいコンテンツだけにピンポイントでアクセスする傾向が強まっている。
それに対し、最新のAIサービスを応用すれば、長時間の動画の中からメタデータを簡単に抽出できる。この技術を応用すれば、長い動画の中から、その顧客が見たいと考えているシーンだけを自動的に抽出して流すこともできるだろう。
「ほかにも、自動翻訳、音声入力の精度は飛躍的に高まっており、業務の効率化・生産性の向上など、マーケティングチームの働き方改革に役立つはずです」(松川氏)
現在、コニカミノルタは、自社の機器からデータを収集、解析し、その結果をお客様の価値へ転換する、幅広いソリューションの開発に着手している。会場には、コニカミノルタのエッジデバイスであるネットワークカメラ「MOBOTIX」とGoogleのAIサービスを連携させた画像解析アプリのデモシステムなども設置された。
「お客様の課題を解決するために最適なツールを選択し、お客様のビジネスに貢献していきたいと考えています」と松川氏。自分たちで活用し、その学びに立脚して効果的なサービスやソリュ ーションを提供していく。AIの領域でも、こうしたコニカミノルタの姿勢は脈々と受け継がれている。同社が、今後、どのような提案を顧客に行っていくのかに注目したい。