農業は大変革期を迎える「儲かる産業」への構造改革に貢献していく

東京大学 名誉教授
学習院大学 国際社会科学部 教授
伊藤 元重 氏
伊藤 日本の農業に大きな影響を与えてきた減反政策が2018年に廃止される予定です。日本の農業は、これからどう変わっていくのでしょう。
北尾 これから大きな変革期を迎えることになるでしょう。これまでは、農業を斜陽産業と捉える方も少なくありませんでしたが、グローバルな視点で将来を見渡すと「儲かる産業」へと生まれ変わる大きな可能性を秘めていると考えています。
農業に携わる労働者は1980年代から減少が続いており、同時に高齢化も進んできました。国内ではお米を食べる人が減る半面でパンや麺を食べる人が増えており、世帯当たりの年間消費金額が2011年に逆転しています。

しかし、世界的に見れば人口は増加しており、食糧確保が大きな課題として浮上してきます。食料自給率が課題と言われる一方で、世界の、特に2020年には3億人にも達すると見込まれている、アジアの富裕層は「日本の美味しいコメ」を求めています。
減反政策の廃止によって、それに伴う規制緩和が期待できます。兼業農家が減るかわりに大規模なビジネスとして農業を営む意欲ある人材が増えることは間違いなく、大きな構造改革が巻き起こるでしょう。
こうした将来へ向けて、クボタでは「儲かる農業」への構造改革をお手伝いしていきたいと考えています。これまでは、農業機械を製造・販売することが私たちの主力ビジネスでしたが、今後は農業の入り口から出口までのソリューションを提供する企業に生まれ変わろうと、いろいろな施策を進めているところです。
無人のトラクタが自動運転で農地を耕す
伊藤 農業で新たに生まれてくる事業機会を統合的にサポートしていくわけですね。最近、「スマート農業」というキーワードを掲げてらっしゃいますが、具体的にはどんなことに取り組むのですか。

クボタ
取締役専務執行役員
機械ドメイン担当 農業機械総合事業部長
北尾 裕一 氏
北尾 スマート農業にはさまざまな定義がありますが、クボタでは「データを活用することで、種苗、肥料や薬剤、水、燃料、そして人件費などのコストを最小化し、同時に自動運転農機等の活用により超省力化を図ることで、収量・食味・品質を向上し儲けを最大化する次代の農業経営」と捉えています。加えて、「トレーサビリティー、ノウハウの伝承、重労働の軽減をかなえる」こともスマート農業の目的の一つだと位置づけています。スマート農業は、先端技術のみにフォーカスされた時期もありましたが、現在では高度な農場管理手法の一つとも見なされています。
こうしたソリューションの大きな狙いは、農業経営の生産性を飛躍的に高めることです。これには、農作業を軽減することと、経営判断の品質を上げることが含まれます。具体的には、自動・無人化農機と、農業経営に関する情報を一元管理し活用するシステムの開発に取り組み始めています。
農機の自動化では、第一フェーズとしてオートステアリングに取り組んでいます。2016年には、直進キープ機能付きの田植機とオートステアリング機能付きのトラクタをリリースしています。現在は第二フェーズにも取り掛かっており、2017年には有人監視下で自動・無人運転が可能な自動運転トラクタのモニター販売も開始しました。最終的には遠隔監視による完全無人化を実現する計画です。
同社が2017年6月からモニター販売を開始した自動運転トラクタ「アグリロボトラクタ」は、有人監視下で無人による自動運転作業を可能にしたことが大きな特徴だ。このトラクタは、圃場(ほじょう)周辺から作業者が監視している状態で、自動で耕うん・代かき作業を行うことができる。
また、カメラ、レーザスキャナ、超音波ソナーを装備しており、圃場への侵入者や障害物に近づくと自動で停止する。さらに作業者が持つリモコンやGPS基地局から一定以上離れたり、設定された作業経路を大きく外れると自動で停止するなど、安全機能を備えている。