女将になるなんて夢にも思ってなかったんです(笑) 借金10億の旅館がIT活用で再建?~前編~

  • Writer : 麻宮 しま
  • Data : 2017/10/17
  • Category : 業務改革

一番初めに感じたのは“無駄が多いな”ということでした。
コンセプトを明確にし業務の見える化を

「元湯陣屋」を継いだ宮﨑氏夫妻が最初に取り掛かったのは、現状を把握することだった。

「それまでの伝統的な旅館業は『KKD(勘と経験と度胸)』と言われるように、情報や経験をマニュアル化して共有したり、後進を育成したりしようという意識が低く、非効率的な面が多々ありました」

従業員は自分の専門領域を守る意識が強く、企業全体としての一体感が低かったんです。お客様の到着を告げる太鼓を鳴らすためだけの係や客室へお膳を運ぶためだけの係など、細分化された領域でそれぞれの業務を行い、専門外と考える仕事はたとえ手が空いていても手伝おうとしない。120人もの従業員がいたにも関わらず、サービスの不備や連絡の不行き届きなどで最高の“おもてなし”とは言えなかった。

宮﨑氏の考える理想は、常に期待を上回るサービスを提供する旅館である。お客様のかゆいところに手の届く“おもてなし”をたっぷりと行い、快適な時間を過ごしてもらいたい、そして末永く利用してほしいという熱い思いであった。それを行うには、今ある課題の「見える化」をする必要があった。

「当時、パソコンを使える従業員が一人しかいなかったので、お客様の情報は先代の女将の頭の中や営業担当の手帳の中、予約は電話とネット社会の中なのに本当にアナログな営業をしていたんです。それ以外にも、経費管理もいわゆる“ドンブリ勘定”で料理の原価率がわからなかったり、パートさんが多かったので月末になるまで人件費がわからなかったりと、一ヶ月旅館を運営するのに本当に必要な予算が全くわからなかったんです」

引継ぎ当時の経営状況分析

資料提供:株式会社陣屋コネクト

これらの問題点を踏まえ、全従業員が情報を瞬時に共有でき、ムダをなくし効率よく業務を行える仕組み作りが不可欠と考えた宮﨑氏は、ITの活用に注目した。

「お客様に最高の“おもてなし”を実現するためは、お客様への時間をできるだけ確保したい。そしてITの活用で効率化することができると考えたのです」

ITの導入だけでなく、レストランと客室にあった厨房を一つにし、スタッフの作業の流れを変えるなど、ソフト面だけでなくオペレーション業務の効率化も行なった。また、広い敷地に客室が20室しかないため、客単価を上げていかないと業績の改善が見込めないため、そこにも着手する必要があった。

「客単価を上げるためには、まず料理の改善から着手しました。どんぶり勘定だった料理の原価率を把握し、料理を見直すことで価格の改定を行いました。サービス面ではITと組み合わせることでリピーターのお客様に同じメニューを出さずに料理を提供し、何度いらしても違うおもてなしができるように工夫をしました。最初は、料理の値段を上げたのと言われたこともありましたが、そういった改善を積極的に行うことで、今では料理も陣屋の売りになっています」

IT導入で思わぬ副産物も生まれた。音声認識システムを利用することで、インカムで話したことが文字化されることで顧客情報の共有だけでなく、今までに起きたトラブルの対処法なども記録されるため、それが指標となり各自で状況に応じた判断ができるようになり、サービスの向上につながったという。

「IT 導入だけでは効率化はできないと思っています。やっぱり従業員が働きやすくないと使ってもらえない。特に陣屋では古くから一緒に働いている人が多く、IT導入で戸惑う人も多かったんです。最初はこれをしないと旅館自体がなくなってしまうから、一緒に取り組んで欲しいとみんなに声をかけながらでした。今では、全員が使いこなすようになりましたが当時を振り返るとみんなよく協力してくれたな(笑)と思うんです」