女将になるなんて夢にも思ってなかったんです(笑)借金10億の旅館がIT活用で再建?~後編~

  • Writer : 麻宮 しま
  • Data : 2017/10/19
  • Category : 業務改革

旅館業界全体を、ITサービスを通じて盛り上げたい
広がる相互支援ITサービス「JINYA EXPO」

「陣屋コネクト」の次に打つ手が、旅館業向け相互扶助ネットワークサービスの「JINYA EXPO(JINYA EXchange POrtal Service)」である。これは食材の仕入れ原価の高騰や繁忙期の人材不足など、独立資本の小規模旅館では解決できない問題を、ITを通じて旅館同士が連携することで解決するための仕組みだ。

たとえば地方の旅館と「元湯陣屋」で一括して食材を仕入れることで、料理品質を上げつつ原価率を下げたり、繁忙期の旅館へ閑散期の旅館から従業員を派遣することで、合理化・効率化を図ったりするためのネットワークである。

「例えば、箱根の噴火のときのようなことになると旅館業にも影響がでます。そのときに他の旅館に従業員を派遣することができれば損失は減ると思っています。また、そうすることで人材不足解消や労働環境の向上も見込める、食材も小さな旅館は仕入れが少ないので高額で仕入れなければならない、そういうことの解消が旅館業全体できれば、日本全体の旅館業の質は上がっていくと思っています」

JINYA EXPO 利用イメージ

資料提供:株式会社陣屋コネクト

利用は「陣屋コネクト」の導入実績のある企業に限られるが、すでに神奈川県や長野県などでサービスイン済みで、今後も対象エリアは順次拡大予定だ。

宮﨑氏が一旅館の枠を超え、旅館業全体を見据えたITソリューションを提案するのには、先述した時勢に負けない旅館づくりや地方の活性化という目標の他に、「旅館業をあこがれの職業にしたい」という大きな夢が関係している。

旅館業従事者には、ともすれば低賃金で、キャリアアップも望めず離職率も高いといった、旧態依然としたイメージが残る。それをひとりひとりがプレイングマネージャーとしてキャリアを積み、働きに応じた報酬を得て、誇りを持って長年勤めることのできる職業に変えることを目指し、様々な施策を打ち出しているのだ。

この8年、元湯陣屋では経営改革の一環として、「働き方改革」をも進めてきた。33%と、業界では平均的とはいえ高止まりしていた離職率を、労働環境を改善することにより4%にまで激減させることに成功。社員の平均年収はホテル旅館業の全国平均が250万円のところ、2017年だけで平均25%アップさせ、4割近く高い398万円を実現した。「旅館業の労働環境を改善していかなければ、他業種に比べて競争力が低く、有為な人材が集まらない」と考えるからだ。

日本のGDPの7割をサービス業が占める中、旅館業のポテンシャルを上げ、次世代につなげていきたいと語る宮﨑氏の声は、希望と熱意に満ちていた。

profile

株式会社陣屋コネクト 宮﨑 知子 氏

神奈川県秦野市にある日本旅館「元湯陣屋」を、2009年に夫の富夫氏とともに継承。4代目女将として経営・運営に参画する。IT導入を始めとする数々の施策により、元湯陣屋の黒字化に成功。2010年にクラウドアプリケーション「陣屋コネクト」を開発し、2012年の「株式会社陣屋コネクト」設立を経て外販を開始。現在は元湯陣屋の経営のかたわら、旅館やホテルなど宿泊業向けに「陣屋コネクト」の導入支援事業も行う。