第一級のエンターテインメントはいかにして生み出されるのか?魅力的な登場人物誕生の裏側にあるもの~作家 池井戸潤氏

  • Writer : ASAMI NAKAMA
  • Data : 2017/11/29
  • Category : デジタル活用、働き方改革

会話のリアリティーは重要
「今」使われている言葉を慎重に選ぶ

プロットに縛られないことで「人」が描けるようになったと教えてくれた池井戸さん。登場人物に任せる今の書き方だと、「何十枚も書いては捨てることがよくある」と苦笑いする。だからこそ、読者は作品に書かれていない登場人物たちの普段の生活ぶりやこれまでの人生までをも想像してしまうのだろう。

現在は、プロットは作らないものの登場人物一人ひとりの名前や肩書き、押さえるべきポイントを一覧にしているという。

「一つの作品で登場人物が20人以上出てくることもありますからね。細かい人物設定を書き込むことはありません。ただ、この人は怒りっぽいからとか、その程度です」

そう語る池井戸さんの表情は、親しい仲間のことを話しているように柔らかい。登場人物について、もう一つ気をつけているのが会話のリアリティーだ。作中の会話には、それぞれの年代の人間が現在使っている話し言葉を採用する。特に、女性の登場人物が発する言葉は慎重に選んでいる。

「どうがんばっても、五十代のオッサンの僕には若い女性の内面を描くことはできません。でも、仕事をする上での喜びや葛藤は、男性女性関係なく共通のもの。女性の読者はそこを楽しんでくれているのではないでしょうか? だからこそ、違和感がない会話の描写を心がけています」

テレビドラマ『陸王』でも、魅力的な登場人物が視聴者の心を掴んでいる(画像提供:TBS)

新しく、自分が書く意味があり、
豊穣な物語を書いていきたい

銀行、町工場、ゼネコン、家庭……あらゆる舞台で「人」を描き、多くの読者を掴んできた池井戸さん。作品は次々と映像化、シリーズの続編を求める声が出版社に届く、など、エンタメ作家として怖いものなしの状況に見えるが、本人は危機感を隠さない。

「日本には1億人以上の人がいるのですから、まだ読んでもらえる余地はあるはずです。業界全体で、本の作り方、売り方をもっと工夫していかないと」

そんな池井戸さんに、これからどんなテーマで書いていきたいかを尋ねると、テーマを選ぶために大切にしている3つのことを教えてくれた。

「私が書いているエンタメには、これまでの小説にないような“新しさ”が必要です。そして、“自分が書く意味”があるかどうか。最後に、“豊穣”な物語かどうか。この3つが満たされて、なおかつ自分がおもしろいと思えるテーマを書いていくと思います。スケールが大きくて、胸がワクワクするような話をずっと届けていきたいですね」

次回は、ベストセラー作家の仕事の流儀に迫る

profile

作家 池井戸 潤 氏

1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒業。
1998年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を、2011年には『下町ロケット』で直木賞を受賞。これまでの主な作品として、半沢直樹シリーズ(『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』)、『花咲舞が黙ってない』、『ルーズヴェルト・ゲーム』、『民王』、『七つの会議』、『アキラとあきら』などがある。2018年6月15日には映画『空飛ぶタイヤ』が全国公開される。2017年10月期よりTBS系にてテレビドラマ『陸王』が毎週日曜夜9時から放映中。