新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)では、2016年4月にIoTの専門組織「IoXソリューション事業推進部」を発足させた。
「一般にIoTの『T』は『モノ(Things)』を指しますが、当社ではものづくりの現場に携わる『ヒト(Humans )』にも着目し、作業者の見守りなどのソリューションを提供しています。こうした『IoH』の分野にも領域を広げていきたいとの思いから、変数である『X』を部門名称として掲げました」と同社の畠山 康博氏は事業部名の由来を説明する。
ヒトとモノを高度に連携・協調させることで、今までにない新たな価値創造を目指しているのである。その具体的な活動領域としては、「Cyber-Physical System」、つまりサイバー空間と物理世界の連携による現場支援が挙げられる。「現場の状況を常時さりげなくセンシングし、そのデータをシステム側で収集・分析。これを基に業務プロセスの最適化を図り、現場への指示・支援にも活用できる世界を目指しています」と畠山氏は話す。
こうした取り組みを進める上でカギとなるのが、①「プロセス」②「ライフサイクル」③「連携」の3点だ。実際のプロジェクトにおける課題発見からシステム構築までのプロセスを円滑に進めると同時に、持続性のあるデータ活用サイクルを確立。さらに、データ流通や人財連携の仕組みも整備することで、情報をナレッジに変えていくための「智の集約」が可能になる。
まず1点目のプロセスでは、「企画」「トライアル分析」「プロトタイピング」「フィールドPoC」「本番システム化」の5つのステップを踏むことが肝心だ(図1)。「まず、取り組みのターゲットや効果、優先順位を洗い出した上で、ロードマップなどを作成。次に、既存/新規のデータがどこまで使えるかをトライアル分析で確認し、予測モデルや見える化の仕組みなどのプロトタイプを作ります」と畠山氏。これを用いたPoCを実際の現場で行い、業務が成り立つのであれば本番フェーズへと進むわけだ。
2点目のライフサイクルでは、単に現場データを用いた予測モデルなどを作るだけでなく、現場担当者の意見や判断をフィードバックできるようにすることが重要だ。現場の知見を用いたチューニングを行えば、判定や予測の精度をより高めていけるからだ。
最後の連携では、系/工程をまたいだ形での見える化を工場内で進め、事業部内外を横断して分析ノウハウを共有。これをナレッジとして全社/グループ企業へと展開していく流れになる。ここでは現場の設備操業担当、分析担当、業務担当の3者が密接に対話することも重要になるという。
新日鉄住金グループ内においても、こうした智の集約・活用を目指す様々な活動が進められている。その一例が、新日鉄住金エンジニアリングにおけるプラントの予防保全や稼働の最適化などに向けた取り組みだ(図2)。
「当社では自社の内製力を生かし、リアルタイムデータ収集や現場作業支援などの取り組みを行ってきました。しかし、従来は個別事業領域ごとにデータ解析を行っており、蓄積されたノウハウを全社レベルで生かすまでには至っていませんでした。そこで、『プラント系事業部のO&M事業の高度化を中心とした開発テーマの企画・実行』『データ活用システム基盤構築、データ解析ニーズ/技術動向把握/最新データサイエンス知見の獲得』『フィールド系データサイエンス技術高度化のための先行研究開発』の3点をミッションとする、データサイエンス室を新たに立ち上げました」と同社の髙田 寛氏は説明する。
同社ではこのデータサイエンス室を中心に、計測・制御系技術部門、企画・営業部門、情シス部門、データ解析子会社、NSSOLなどの組織が広範に連携。データ分析で得られた知見をフィールドで生かすための活動を推進している。
髙田氏は、IoTデータ解析を推進する上でのポイントとして、「データライフラインの充実」「データオーナーの重要性」「プラントデータ長期保存」の3点を挙げる。「様々な技術革新により、大量データの収集・解析を行うことは容易になっています。しかし、解析結果を現実のビジネスに生かせないのでは意味がない。このため、情報から価値を生み出すデータオーナーの役割が非常に重要になってきます。また、プラントは長期間にわたって稼働しますので、データも長期スパンで保持する必要があります」(髙田氏)。
そのためのインフラとして、同社ではデータ蓄積・活用基盤「DS(データサイエンス)クラウド」を構築・運用している。ここでは各プラントから収集したデータを全社横断で集約し、フィールド・データサイエンティストによる解析を実施。他拠点でも応用できそうな知見が得られた場合には、一気に全社へと展開する。「長期にわたって蓄積されるデータは、会社にとって重要な知的資産となります。また、現在各種のダッシュボードなどを開発中ですが、こうした仕組みがあることで現場のデータ活用機運も高まります」と髙田氏は話す。
NSSOLでは、こうしたデータ活用の取り組みに加え、人による判断とアクションの支援を目指す取り組みも推進している。畠山氏は「例えば予防保全では、現場から収集したデータを加工・分析し、AIによる異常検知や可視化を行う取り組みを実行中です。今後はこれに加えて、分析結果を受けて作業を行った担当者のアクションもナレッジとして蓄え、次のアクションに生かせるようにしたいと考えています」と説明する。さらに、将来的には1つの工場にとどまらず、複数の工場を統合した形へと進化。各工場における見える化の統合や分析ノウハウの共有を進めることで、全社的なナレッジの共有・伝承や業務の標準化・最適化に役立てていく考えだ。