創刊40周年 記念シンポジウム 〜建築のさらなるイノベーションへ〜  住友林業 次代につながる時間財で木材の“復権”に取り組む(木材活用トラック 技術講演)

住友林業 木化営業部 副部長 杉本 貴一 氏

木材が持つ経年の味わいや癒しの効果を認める半面、汚れる、傷むといって敬遠する。
この矛盾はどこに根を持つのか? かつては暮らしに密着していた木の文化を取り戻すには何が必要なのか? 木材の“復権”を目指して、木化事業を展開する住友林業の杉本貴一氏が「木材の新たな可能性―木の力、再発見―」をテーマに語った。

 住友林業は創業以来325年に渡って山を管理してきた。現代に入ってからは、木の住まいをつくっているが、今後は新築住宅着工件数の減少が予想される。そこで、数年前から「木化(もっか)」という言葉を前面に打ち出して、新しい時代に木を使う可能性を追求している。木化という用語は、生物学の専門分野にもあるが、私たちの木化は、近年の「緑化」に倣って使っている。

 今、誰もが、木は目にやさしい、癒されると言うが、汚れる、傷む、燃えるといって、メリットを生かす使い方を避ける人が少なくない。木のメリットは科学的には立証できつつあるが、反る、割れるなど木のデメリットを克服する技術を選ぶ傾向が見られる。

 例えば、住宅でスギを仕上げ材に使うとき、本当はザラザラとした木の質感が気持ちいいのだが、平滑に仕上げて塗装を施して提供する。また、技術革新により、木材そっくりの建材もある。

 不幸なことに、香りもないツルツルの木や、木に似せたものに対して、ほとんど違和感が聞こえてこない。どこか、今の世の中は、生き物としての人間の感覚を麻痺させているのではないか。木化を掲げる私たちとしては、もう一度、木の“ザラザラ”した感覚が受け入れられるようにしたいと思っている。

木ならでは「榯美色(ときみいろ)」の価値

 木化の取り組みの1つに、「木のデザインの再発見」がある。そのなかで着目しているのが、木が持つ「時間」と「色」の価値だ。世界遺産に指定されている京都の銀閣寺を見れば、誰もが木の経年美や味わいを感じるだろうが、残念ながら、その色に名前がない。そんなとき、ある1つの漢字に出会い、鳥肌が立った。木偏に時と書く「榯」だ。時を経た歴史的な木造建築の美は、「榯美色」という色の価値を持っている。この価値を、もっと浸透させていきたいと思った。

 その後、榯美色の価値に着目したある企画が、住宅でも建築でもなく、意外な業界から持ち込まれた。「愛がつくる工業製品」をキャッチコピーに、木のクルマをつくりたいというトヨタ自動車の企画だった。外板(ボディ)を当社と共同開発し、木の乗用車「SETSUNA(セツナ)」を完成させ、ミラノデザインウィーク2016に出展した。

 車は普通、ツルツルのメタル製だが、SETSUNAは“ザラザラ”のスギの白木で組み立てている。木造建築に用いられている伝統工法で組んでいるため、部材を分解することができ、スギ板を1枚ずつ磨いたり、傷んだ板を交換したりできる。発想の根底には、愛着をもって手入れをして、親から子へ、さらに孫へと、「刹那」という一瞬一瞬の時を重ねていけば、1台のクルマに「時間財」という価値が生じるというコンセプトがある。今は白木でも、やがては榯美色に染まっていく。工業製品の最先端を走る自動車メーカーが、数値化できない時間財の価値に着目し、その表現に木材を用いたというのは、木に対する正しい理解を深める意味で説得力があると思う。

 ちなみに、ミラノデザインウィーク2016では、SETSUNAを出展したトヨタの会場のファサードを経年の異なる5種類の木材で覆った。伐りだしたばかりの白木から100年以上を経た木まで、およそ20年ごとの木でグラデーションを付けて、徐々に木材が榯美色に変わっていく様を表現している。

100年の手入れを考えた木のクルマ
【クリックで拡大】

平時も災害発生時も木が生きる

 建築分野で木の力を再発見した取り組みも紹介したい。1つは、東日本大震災の復興支援でつくった岩手県陸前高田市の「りくカフェ」。冬が来る前にということで、わずか2週間で建てた。木の打ち放しのような内装が“ザラザラ”の小屋が、その後、大活躍してくれた。初めは住人が集まっても被災直後で重苦しい雰囲気だったのが、今では料理や花やコーラスなどの教室も開かれるコミュニティの拠点になっている。地元の人たちは、「木の箱だから、ここまでできた」と言ってくれた。木への理解を深めていくには、やはり愛着をもってもらうことが一番だと再認識した。

 もう1つ、やはり震災復興の関連で取り組んでいる宮城県東松島市の事例を紹介する。東松島市では、教育や医療を、森林資源と関連付けながら新しい価値を生み出し、子どもたちに引き継いでいく「木化都市構想」を展開している。現在、建設している木造校舎の小学校は、震災後に入学して以来、仮設校舎しか知らない児童を、なんとか新しい校舎で卒業させてあげたいという思いで、年内の完成に向けて取り組んでいる。

 東松島市の教訓を反映したプロジェクトを、3年前に東京で開催されたHOUSE VISION 2013で手掛けた。会場構成を担当した隈研吾氏に、約1万本の105mm角のスギ材を使った井桁組みのデザインをしてもらった。災害発生時にインフラが途絶えた際、木をバイオマス発電の燃料として利用することを想定したものだ。毎年3月11日、住民が井桁から木材を取り外して手入れをし、災害がなければ木材は美色に変化していく。一方、災害発生時には、木材をバイオマス発電の燃料に使う。平時から触れている住民は、迷うことなく木材を取り外すことができるというアイデアだ。救助が来るまでの72時間、4万人の市民が必要な本数約11万本を「美蓄」すべきであると東松島市の復興担当は語った。

 このように、私たちは今、いろいろな場面で木材の可能性を示し、普及に努めている。今後も木化の取り組みを深めて、山だけでなく、街の子どもたちの心にも木を植えていきたい。

1:震災復興支援として岩手県陸前高田市につくった木造の「りくカフェ」 2:災害復旧工事として、木造で建設中の東松島市立野蒜小学校。今年12月の完成予定 (パース提供:宮城県東松島市) 3:インフラ途絶時のバイオマス発電利用を想定して、105mm角の流通材を井桁に組んでデザインしたHOUSE
【クリックで拡大】
PageTop
お問い合わせ
住友林業株式会社 木化営業部
〒100-8270 東京都千代田区大手町1-3-2(経団連会館)
http://sfc.jp/mocca/