オフィス経営の分岐点

テナントと一緒に盛り上げる
若手オーナーの新しいビル経営

弦本ビルの弦本卓也氏とプロハの梶海斗氏に聞く

2018/05/09
オフィス経営の分岐点

入居テナントとともに運営する
コワーキングスペース×シェアハウス

弦本結局、2階部分については、以前からの知り合いである梶海斗さんが借りて、プロハ(TOKYO PRODUCERS HOUSE 以下、プロハ)を運営することになりました。3階部分のテナントもSNSで知り合いを通じて決まりました。シェアハウス部分もプロハの利用者が使うことになり、すべてのフロアの利用者が決まっていきました。

このビルは入居者のやりたいことに重きを置いている分、家賃を相場より低めに設定していて、敷金・礼金もありません。テナントに引き渡す際に、オーナーによる内装工事も施していないので、原状回復義務もありません。内装は入居するテナントが自由に工事できるようにしています。例えば、2階のプロハでは、運営者が自分たちで内装を施しました。3階をオフィスとして利用しているテナントも、ほとんどそのままの状態で使っています。

ジョブライブ 代表取締役CEO 梶海斗氏

ジョブライブ
代表取締役CEO 梶海斗氏

――プロハを運営するジョブライブの梶さんは、なぜこのビルに入居されたのですか?

梶(梶海斗氏 以下、梶)私も弦本さんと同じく、リクルートで働きながら、別に会社を立ち上げて副業していました。私は1988年生まれなのですが、周りにいる私と同世代の人たちの間では起業する人が増えています。そこで、同世代向けのコワーキングスペースを立ち上げようと思い、場所を探し始めました。しかし、ワンフロアをこちらの思うような空間として使わせてもらえる物件はなかなか見つかりませんでした。そんなときに「面白い男がビルを買ったらしい」と聞いて(笑)。もともと同じ会社で面識はあったし、この人なら、私が考えているようなものができるだろうと思って借りることにしたんです。

プロハのコンセプトは「新しく何かを始めたい人の支援」。月額1万円で登録すると、24時間365日いつでもコワーキングスペースとして利用することが可能です。月額2万円ですとコワーキングスペースの利用に加えて、イベントスペースを自由に使うことができます。イベントを開催して得られた収益は、すべて主催者のものになります。現在の会員は約30人で、これまでの3年間の利用者は延べ80人ほどになります。フリーランスや副業を持っている人、起業した人などが多いですね。

電気工事など資格が必要なものを除き、内装のほとんどをDIYで作り上げた(写真提供:TOYKO PRODUCERS HOUSE)

電気工事など資格が必要なものを除き、内装のほとんどをDIYで作り上げた
(写真提供:TOYKO PRODUCERS HOUSE)

――プロハは弦本ビルのテナントと言うことになりますね。シェアハウスはどうなんでしょうか?ここもプロハが運営しているのでしょうか?

弦本運営者は私ですが、住むためにはプロハの会員登録が必要なので、私とプロハによる一体の運営だと言っていいかもしれません。シェアハウスの入居者にはプロハの会員にもなってもらう仕組みにしています。

単に住む場所を提供するのではなく、プロハでなにかを実現したい人に住まいも提供しているというイメージです。普通のコワーキングスペースだと、同じ場所で働いているのに他の人と面識がない場合も多いですよね。でも、ここだと生活も共にするのでコミュニティが強固なんです。プロハの会員同士で新しい事業を始めることもあるし、そのための支援もしています。

――プロハの会員はどのように募集したのでしょうか?

基本的には口コミだけです。弦本さんのテナント集めと同じで、仲介会社やネットなどで大掛かりな募集はしていません。リクルートの社内には副業を始めた人や、これから始めようとする人が多くいたので、そういったつながりを中心に、同世代で起業した仲間を6、7人集めてスタートしました。その後、ここで毎月、いろいろなイベントを開催していたら、プロハに共感する人が徐々に集まってきたのです。

弦本4、5階がシェアハウスになっていることも、人が集まった理由のひとつかもしれません。いま、働き方改革の流れを受けて、プライベートな時間を確保できるようになり、そこで自分のやりたいことを実現したいという若い世代が増えています。ただ、どうやって起業すればいいかなど、やり方がわからない人も多い。プロハにいて、同じくらいのフェーズにいる人や、一歩先を行く人たちと生活をともにできることのメリットは大きいようですね。

また、コミュニティが強固であるという意味では、このビルのプランも結果的に良かったんです。このビルは5階建てですが、エレベーターはありません。ビルの片側にある一直線の階段ですべてのフロアがつながっています。そこで、4、5階のシェアハウスに帰るためには、階段で2階のプロハの横を通過することになります。その際に、誰かがいたり、イベントをやっていたりして、気になる動きがあれば、ドアを開けてすぐにコミュニケーションが生まれる。2階のプロハが、このビルのリビングみたいな役割も果たしているのです。

選択の先にキャリアを築く
“川下り型”の働き方

弦本これまでの活動を本にまとめて出版もしました。実は、プロハのもうひとりの創業者である早野龍輝さんがもともと出版社で編集の仕事をしていたので、自費出版で彼と一緒に本を作りました。2冊あり、1冊目はプロハが始まって1年経ったときに作ったものです。メンバーのインタビューや内装のDIYなどの話が中心です。どちらかと言うと内輪に向けた本で、100部発行したのですが、イベントを開催したときにすぐに売り切れました。2冊目は3000部発行しましたが、OBを含めたプロハのメンバー12人に事業などの成功の法則を聞いて、章立てしてまとめたものです。

――ビル経営から出版まで幅広い活動ですが、全体の収益はいかがでしょう?

弦本一定の収益も出しています。テナントの空室はほぼなく、稼働率は95%以上です。

――今後の展望を教えてください。

弦本ここには面白い人たちが集まっていますが、現状はビルの中だけで閉じていると思っています。ビルのある地元の人たちともっと関わって、地域に開かれたビルにしたいですね。ここ神田錦町や神保町界隈では、音楽祭やアートイベントが盛んなので、私たちも実行委員や手伝いとして参加しています。

また、他のビルにも広げていきたいとも思っています。このビルは5階建てですけど、次は8階建てくらいのビルにしたいですね。弦本ビルが始まって3年、入居者も増えているし、いろんなフェーズに行く人もいる。これから結婚して子どもができる人もいるかもしれません。そうなってもみんな一緒に活動ができる場所にしていきたいです。

――仲間を中心にビルやコワーキングスペースを運営して、そこでの利用者や入居者も口コミなどで広がっている。イベントや出版によって、さらに仲間を増やしているようにも見えます。そうした活動のお話を聞くと、「ビル経営」とか、「不動産投資」といったイメージでは取らえられない感じを受けます。

弦本「ビルオーナー」と呼ばれると気恥ずかしく感じます(笑)。もちろんビルの経営を続けていくためには、ソロバンを弾かなければなりません。でも、それだけだと面白くない。ロマンとソロバンが両方成り立つように運営しています。

時々、3年後はどうしたいかと聞かれますが、あまり考えていません。昔の働き方は「山登り型」で、ゴールに向かってひとつずつ課題を達成していくものでした。私も含めて、いまは「川下り型」が多くなっているんじゃないでしょうか。下りながら、右と左のどっちを選ぶかをその場で決めて、その先に自分のキャリアを築いていく。行き当たりばったりだと思う人もいるかもしれませんが、変化の多い時代ですし、自分がワクワクして、それが周りの人たちのためになって、結果としてお金をもらえていればそれでいいかなと思っています。


聞き手:編集部、文と写真:木内渉太郎(特記なき写真)

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